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MacIntyre(2019) The Use of Frameworks with Video to Foster Reflective Practice in Pre-service Teacher Training in an EFL Environment.

JACET言語教師認知研究会研究集録より。

研究の概要

Communicative Language Teaching(CLT)についての内容を中心に学ぶ英語教員養成の授業において,そこでのマイクロティーチングを素材としたリフレクションを実践した。

マイクロティーチングを録画したビデオとThe Self-Evaluation of Teacher Talk (SETT; Walsh, 2006)のフレームワークを応用した実践。

ビデオを利用したリフレクションについては,(まだパラパラめくった程度だが,)こちらも手軽かつ参考になる。

研究の背景と概念の整理

教員養成の学生は指導実践の経験に乏しく,指導の重要な側面を見れていない可能性がある。リフレクションのクライテリアを作って,リフレクティブな教師に成長させていくべき。

授業の内での実践(マイクロ・ティーチング)をスマホで動画撮影し,それをもとにリフレクションをする。ビデオを用いたリフレクションの効果については以下の5点が挙げられている。(Tripp and Rich, 2012)

(a)良い指導に関するビリーフと実際の指導とのギャップ
(b)暗黙の認識について自覚的になる
(c)自分の指導について覚えていなかったことに気づく
(d)指導の複数の側面に目を向ける
(e)指導の強みと弱みを評価できる

リフレクションについては多くの概念モデルが存在するが,その多くはあまりに抽象的で,特に現場を経験していない教員養成課程の学生が使いこなすのは難しい。

例えば,Kolb(1984)の「リフレクション・サイクル」は「具体的経験」(Concrete Experience)→「内省的省察」(Reflective Observation)→「抽象的概念化」(Abstract Observation)→「能動的実験」(Active Experimentation)→「具体的経験」・・・と循環する。
このモデルは経験からリフレクション・概念化・実験を経て次の経験に繋がっていく直線的な過程を想定している。しかし動画を用いたリフレクションでは動画を繰り返し見返すことが出来るため,各プロセスを行ったり来たりするようなリフレクションが期待される。

Farrell(2015)で提案されているモデルは,実践の裏に隠されている「哲学」「原理」「理論」に迫ろうとするものだ。それ自体は表面的な実践の改善を超える可能性を持ち,また一方向的なものではないことから興味深いモデルではあるが,そもそも学生が動画を用いたリフレクションの方法を知らないという現状に対して効果的なものではない。

Walsh(2016)のSETTフレームワークは教師の語りをその教育的目的(Pedagogical Goal)から,"Managerial" "Material" "Skills and Systems" "Classroom contexts"の4つに大きく分類し,その下にScaffolding, Extended wait timeなど13の下位分類がある。
授業実践の中で生起した生徒と教師の関わりを分類できるメタ言語を持つことはこの授業の中だけに留まらず,教師となった後も授業のリフレクションを続けていくために有用である。

研究方法と研究のフィールド

日本で英語教員の免許を取得するために必要な授業。
14週間,29名の履修者,焦点はCLT。
指導法を学ぶ週とそれを実際に小グループでやってみる(マイクロティーチング)週が交互に設定されている。
そのミクロティーチングを受けている学生が指導の様子をスマホで録画し,教員がYouTubeの限定公開で共有する。
SETTフォーマットを援用してYouTubeのコメント欄にリフレクションを書く。

結果と考察

ビデオを使ったリフレクションをすることのメリット5つに照らして,学生たちのリフレクションを検討する。
(a)良い指導に関するビリーフと実際の指導とのギャップ
->ネガティブにコメントする学生が多いが,ピア・コメントによってポジティブな言葉が出やすい。SETTフォーマットによって,教師と生徒のインタラクションの種類を同定できるため,具体的なリフレクションになる。

(b)暗黙の認識について自覚的になる
->SETTフォーマットは実際の授業の中で行われたやり取りを(メタ言語を用いて)捉えることを得意としており,(b)はこの教育法の授業の主眼でもなかったため特に記述は見られなかった。Farrell(2015)のモデルの方が向いているだろう。

(c)自分の指導について覚えていなかったことに気づく
->指導の中では自然に流された部分も,リフレクションの対象になった。個人のリフレクションだけでなく,グループディスカッションもあれば,さらに異なる視点からビデオを見るため,より気づきが増えるだろう。

(d)指導の複数の側面に目を向ける
->自分の指導を見て,それの改善に関わる理論について言及する学生もいた。

(e)指導の強みと弱みを評価できる
->ポジティブ・ネガティブ両面へのコメントもあった。

コメント

複数のリフレクションモデルから自分の教育実践の現場の実情に合わせたものを選び取る過程がセルフ・スタディ的で面白い。

the student teachers were able to use video to reflect on their teaching and, most importantly, act on it and make changes to their practice(p.31)

とあるが,実際に改善を意識して取り組み,実践が変わったかどうかは書かれていない。

SETTフレームワークは教室内インタラクションの種類を同定するが,その特徴ゆえ個別のインタラクションの中身に目が向くだろう。
それを授業全体から俯瞰してどのような目的で置いたのかを振り返るのが難しいのではないだろうか。
教師の語りを分類してメタ言語を得ることを教員になった後のリフレクションにも活きるという書き方をしているが,分類に躍起になってリフレクションが十分に深められない可能性もありそうだ。
考察にもあるように(b)暗黙の認識について自覚的になるために別のモデルも併用できるようになると良いかもしれない。

ただ,授業を「なんとなく」で流してしまうのではなく,全ての発話・やり取りに何かしらの意味を持たせることを意識したり,特定の種類のやり取りや発話に注意を向けて改善を図ったりするには使い勝手が良いかもしれない。
少なくとも授業動画を見返して行うリフレクションとは相性が良さそうだ。

文献情報

MacIntyre Robert(2019). "The Use of Frameworks with Video to Foster Reflective Practice in Pre-service Teacher Training in an EFL Environment." Language Teacher Cognition Research Bulletin 2019. pp. 16-32.

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