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生徒のWANTとDON'T WANT

英語科教育法Iの第3週。
今日の模擬授業は高校1年生4月を想定して、SVCとSVOを見分けられるようになろうという授業。

スライドおしゃれやなぁ

生徒役としての経験が活きた模擬授業

S=C、S≠Oという説明を手がかりに簡単な例文でSVCとSVOの文型を整理していく。(S=C問題については授業でもまだ扱えていないので追々。ただ、5文型の導入段階において「S=Cだと考えよう」と指導すること自体には私は現段階で反対しない。)
その後、プリントを配布して練習問題に取り組む。

プリントに印刷された例文の文型を考えるのだが、そのプリントの難易度がまたなかなかなもので、それをあえて練習問題としてやらせようと思った学生の発想が面白かった。これについては後でまた触れる。

1. These books are interesting.
2. He runs a small restaurant in his town.
3. Life is sweet as honey.
4. I have finished my homework.

練習問題

前回、別の学生が行った模擬授業では生徒側の「巻き込んでほしい」というWANTが満たされなかったことが検討会で明らかになり、今回の先生役の学生はそこを意識してプリントを配った後「ちょっとまだよく分かんないなって思ったら、隣の人相談したりして解いてみてください」と声をかけ、生徒らは自然と隣の人と話す体勢になった。
思い返せば前回の模擬授業で生徒役として「相談したり調べたりする時間が欲しかった」と検討会で発言してくれた学生が今回の先生役の学生である。
彼女は早速、自分が生徒役として抱いたWANTを教師側に立った時に念頭に置いて授業をした。「前回生徒役した時に話させてほしいって思ったんで…」と模擬授業構想段階で既にチラッと言っていたのだが、正直その時から結構嬉しかった。
早くも反省的実践家としての第一歩を踏み出しているように私には見えた。

なお、前回の授業の振り返り記事はこちら。

WANTを持たない生徒(役)たち

私が対話型模擬授業検討会を大学院生の頃に初めて経験した時から思っているのが、みんな思った以上に授業中に生徒(役)としてのWANTを持っていないということだ。
私自身は小学校2年生ぐらいの時から学校の先生になりたいと言っている人間だったこともあり、「こういう授業にしてくれたらいいのに」という思いを持ちながら授業を受けたり、(自分のWANTから遠ざかり過ぎて)授業を受けることを放棄したりしていた。
なので、対話型をやるといつも私は「先生に〇〇してほしかった」「この時〇〇したかった」とWANTがポンポン出てくる。(わがままなだけなのかもしれない)
一方、先生の展開する授業の流れに素直・・に乗ってきた経験が豊富な後輩たちの中には生徒のWANTをなかなか持てないor言語化できない人も複数いたと記憶している。

今回の模擬授業でもそこが課題として浮き彫りになった。
私のファシリも改善の余地だらけではあるのだが、それにしても生徒役のWANTが出てこないなぁ、と。

対話型模擬授業検討会終了時点のホワイトボード

この大学のように開放制の教職課程で教員免許を取る学生は授業・課題に終われとにかく忙しい。1年生の時には沢山いたはずの仲間もどんどん教職科目の履修をやめていくのが常だ。
そんな中でも食らいついて英語教員免許の取得に向けて頑張っている学生たちは、基本的に英語教育への想いを強く持っており、真面目に英語学習に向かっている。

私としてはそんな素敵な学生たちと過ごすことができて幸せでしかないのだが、模擬授業の生徒役をやる際にはそのような英語学習に真面目に取り組む自分を一旦「外れ値」だと考える必要がある。

その上で外れ値的な生徒を意図的に演じることも選択肢の一つだが、生徒役全員が今の自分と大差ない中学生・高校生を演じることになると、なかなか教室にいる多様な思いを抱えたリアルな生徒たちの思いは見えてこない。

念のため補足すると、何でもかんでも「嫌だ嫌だ」という生徒を演じてもらいたいわけではない。(そういう子も現実にはいるかもしれないが、それよりは)先生の授業が面白ければ付き合ってあげたり、むしろ周りの生徒より楽しんだりするけど、逆に楽しい・面白いと思えない授業からは簡単に「脱落」していくような生徒が沢山いるという現実を直視することが大事だ。
先生側もそういう生徒のために授業をバラエティ番組みたいに楽しいコーナーで埋め尽くすのではなくて、その生徒が少しでもその授業を通して成長できるためには何ができるのかを考えることが大切になる。

この授業に出ている学生の中にはリアルに英文法の学習が嫌いな学生がいる。実は前回も今回も我々は彼女の存在に大いに助けられている。
SVCとSVOを見分けられることの「ありがたみ」をさほど実感していない高校生としての感覚を他の学生より強く持っている彼女からは「なんでやらなあかんの?」「分からんかったけど、まぁ別にええか」というコメントが出てくる。

全員がこのテンションになるとそれはそれで模擬授業としての難易度が爆上がりしてしまうのでなかなか難しいところではあるが、これを彼女に頼ることなくそれぞれの学生が意図的に出来るようになると、より多様な視点で英語授業を捉える力に繋がるだろう。
(逆に彼女には文法学習が好きな生徒を演じてみてほしいところでもある)

検討会の最中や検討会後に「本当の高校1年生ならこの授業でどういう事をしたいって思うだろう?って事をもっと考えながら生徒役をやってみよう」ということを語ったのだが、それは果たして彼(女)らにとって有益なフィードバックだったのだろうか。

授業から1日経ってこの記事を書いているのだが、昨日伝えるべきだったと今思うのは「WANTはなくても、DON'T WANTならもっと出てくるかも?」ということだ。

WANTだけでなくDON'T WANTを持つ。「なんでやらなきゃダメなの?やりたくないんだけど」という状態の生徒が教室にはほぼ確実にいる。それも一人や二人ではないだろう。理想化された、無菌室のような模擬授業空間ではなく、多様な生徒の雑多な思いが交錯する場として模擬授業を作り上げていきたい。

私にとっても学生たちにとっても極めてチャレンジングな課題ではあるが、ここで妥協せずに1年、2年とやり抜いた後の彼(女)らの成長した姿が本当に楽しみだ。

野心的なWANTを持つ先生

板書技術が不安だった教師役の学生は、模擬授業前日には夜遅くまで教室で板書の練習をしていたのだが、結局不安が勝ったのか当日は綺麗なパワポを用意していて黒板は一切使っていなかった(笑)

幻の板書をここで供養しておこう。

そんな技術面での不安を抱えていたのとは裏腹に、授業の中身は野心に溢れたもので見ていてとても楽しかった。

まずは上でも紹介した難易度高めの練習問題について。

1. These books are interesting.
2. He runs a small restaurant in his town.
3. Life is sweet as honey.
4. I have finished my homework.

練習問題

SVCとSVOをシンプルに整理するためだけの練習問題であれば、2番の"in his town"も、3番の"as honey"も、4番の"have"もはっきり言って「邪魔」だ。教育実習なんかで指導担当の先生に何も言わずにこれを見せたら相当なダメ出しを喰らうかもしれない。

しかし彼女は「生徒に戸惑いを生みたい」というWANTに駆られてあえてこの問題群をチョイスした。
その結果「全問正解したい」と思っていた生徒には焦りが生まれたが、これも先生の掌の上という感じだろう。
答え合わせの時にも生徒のミスを事前に想定しているからこそ落ち着いてフィードバックできていた。

どうしても英語をそれなりに理解していて、良い英語の先生になろうという思いもある学生は「分かりやすさ至上主義」になりがちだろうと私は思っていた。
事実、私が彼女たちぐらいの学年の時にはそういうタイプの模擬授業をしたことがあるし、バイト先の塾では静岡県内の全校舎の中で最も分かりやすい授業のできる英語講師になることに腐心していたと言っても過言ではない。

しかし彼女はもうすでにその分かりやすさ至上主義を乗り越えている、というかそもそもそんな授業観を持っていないのかもしれない。

もちろんまだまだ練習問題の作り込みや、生徒の既有知識の想定、間違えた生徒・正解した生徒へのフィードバックなど、もっと良くしていける部分は沢山あるのだが、彼女が初めての模擬授業で意図的に生徒に「分からない」という思いを抱かせることを選択したその気概を持っていることは、教師教育者としてこの上ない喜びだ。
これからの成長が楽しみで仕方ない。

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