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関係代名詞のパターンプラクティス

中3の後半,いよいよ英文法も大詰めの関係代名詞まで来た。
関係代名詞は人・ものの一般的な性質を表す形容詞や,(主に)目の前の人・ものを修飾できる分詞では表しきれなかった,より複雑な情報や目の前で行われていないことも表すことができる極めて便利な文法だ。

関係代名詞の難しさは,関係代名詞というアイテムそのものというよりも,関係代名詞の後に続く文の制限がないことだ。
もちろん関係代名詞の格(主格/目的格/所有格)の問題も英語の語順というか,基本構造が理解できていない生徒にとっては理解が難しいところだが,それ以上に先行詞+who/which/thatの後には完了形でも進行形でも受動態でも現在完了進行形でも比較表現でも仮定法でも何でも入り得る。

書き言葉で複雑な物事の説明に多用される関係代名詞(を用いた文)を正しく読めなければ英文の理解は一生「なんとなく」の域を出ない。
一方,中3の時点で「話すこと[やりとり]」の中で関係代名詞を使用することはかなりハードルが高い。「書くこと」や「話すこと[発表]」でもなかなか使いこなせる生徒は少ないだろう。

それでも,関係代名詞を用いた名詞句の感覚を身につけるために,パターンプラクティスとして書いたり話したりはしてほしい。
でも,「私は昨日父が買ってきた本を読みました」みたいな文を英訳するだけの時間はできるだけ減らしたい。

今日はそんな想いから生まれた実践。

英語教育2.0の指導アイデア 「マイトーナメント」

元のアイデアは英語教育2.0様のこちらの活動から拝借した。

元記事にあたっていただければ分かるが,これは元々比較級のパタプラ用の指導アイデアである。
「AとBどっちがすき?」と相手に聞いて,選ばれた方が次の戦いに進出し,最後に優勝したものが最上級で表されるという,比較級・最上級の使用場面をイメージしやすい非常に優れたパタプラだと思う。

実は今教えている中3生が中2の頃にこの活動を拝借しようかと考えたが,正直当時の私の教えていたクラスでこれをやっても“English? Japanese?” “Japanese!”みたいな会話になり比較級の使用が蔑ろにされてしまう気がしてボツにしていた。

それから1年余りたった今,関係代名詞のパタプラを考えていたところ「あ,トーナメント使えそう!」と閃いた。

導入

かわむらの作成したサンプル

上の例は私が作成したもの。トーナメントには8個の学校がエントリーし,ALT(や生徒)と次のようにやりとりしてトーナメントの勝者を決めていく。

  • かわむら: “Which is better for you, a school which has only 3 classes a day or a school which has very interesting teachers?”

  • ALT: “A school which has very interesting teachers.”

大会創設 & エントリータイム

生徒たちはまず自分だけの大会を創設する。理想の友達,理想の女の子,理想のゲーム,理想の先生…etc 色々なものの1位を決める(ペアの生徒に決めてもらう)大会を作り,8選手(?)をエントリーさせていく。

ドラクエのパーティーに入れる仲間オーディションになっていたり,寮生は魅力的な寮を8つエントリーさせる生徒もいれば,様々な問題を抱えた寮を8つエントリーさせて「最もマシ」な寮を決めようとする者も。
(最もマシ,というか現状の寮への不満を8つの架空の寮に全て背負わせて,何が最も問題なのかをあぶり出そうとしたのかもしれない)

パタプラよりも個性の色濃く出るこの時間が楽しかった。

いざ,トーナメント開幕!

トーナメントが始まると最初はスクリーンに映し出されている通り,“Which/Who is better for you, 〇〇 who/which … or 〇〇 who/which …?”とペアの子に質問する生徒たち。

1回戦第3試合ぐらいになると,ペアによって違いが生まれてきた。
変わらず“Which is …”から始めている生徒と,トーナメント表に書かれている名詞句(〇〇 which/who …)だけを読み上げる生徒がいた。
一瞬「ちゃんと疑問文作って質問してね」的な指導をしようと思ったが,「まぁいいか!」と流した。

これが「まぁいいか」と思える理由は,

  1. 関係代名詞のパタプラなので,関係代名詞を含む名詞句を言えればOK

  2. 日常会話でも2回目からは「疑問文」の部分の省略は普通に起こる

という2点ある。
2に関しては,「〜な〇〇と,〜な〇〇どっちがいい?へー!じゃあ,〜な〇〇と,〜な〇〇だったら?」という風なイメージだ。

一方でしっかり最後までフルセンテンスで言っている生徒達も偉いなと思うし,何より私が見れた範囲では指をさして「こっち」とかやってる生徒は質問側も回答側も居らず,どちらも関係代名詞を含む名詞句を何度も何度も繰り返し口にしていた。

振り返り

今日は楽しくトーナメントをすることに終始したため,まだ活動の振り返りが行えていない。何なら別のクラスではエントリー時間を取りすぎて大会の開催が来週に延期された。

次回生徒に伝えること,伝えないこと含め,この活動を一足先に振り返る。

関係代名詞の機能の不理解が浮き彫りに

好きなアニメキャラ決定戦のトーナメント表

上の画像はあるアニメ好きな生徒が作ったトーナメント表である。
見て分かるように,関係節が単なる名前の紹介になっており,人やものの性質や行動を表すという機能を果たしていない。
このトーナメント表であれば最後の一単語(名前)だけで成立してしまう。

エントリーの段階で私がこれに気付けば良かったのだが,残念ながら私が気づく前に大会は開催され,優勝者も決まってしまったようだ。(ちなみに私はNagisaを推す,というかこの中だとNagisaしか知らない。)

関係副詞も教えたい

生徒たちには「関係代名詞は万能だから,関係代名詞理解したら何だって説明できるよ!」と言っているが,残念ながら万能ではない。
特に日本語母語話者にとってはお馴染みのエラーがボンボン出てくるし,そのエラーに自分で気づく生徒はかなり限られているだろう。

例を挙げると,「ゲームができる寮」を“a dormitory which can play games”とするような感じだ。
whichが主格だ目的格だとか,省略できるできないとか,そんなことをどれだけ教えても,なかなかこのwhichが関係節の中で主語を担っていて,上の文が(統語的にはまぁOKでも)意味的に不適切であるということは自分で気付けない。
私が一言「これって,寮がゲームできるってこと?」と聞くと,「あ!」と言って“a dormitory which we can plae games”と直すだろう。今度は統語的にも非文となってしまう。
これまた間違いだと気付ける中学生は稀有だろう。

ちなみに私はこの類の間違いを今日の時点ではほとんど指摘しなかった。
パタプラなのに間違った文を言わせてもいいものか?」とかなり不安にもなったが,腹を括った。
というのも,もし自分でこの文の違和感に気付ける生徒が出てきたら,それは関係代名詞というアイテムの理解がグッと深まる気づきになるはずだからである。

これは自慢なのだが,中学時代から英語が得意で文法大好きだった私は自分でこの間違いに気づき,塾の先生のところに質問に行き,「君は知りすぎてしまったようだね…」みたいな顔をされながら特別に関係副詞を教えてもらった。
あの時の快感は今でも忘れられないし,関係詞というあまりに理に適った良質なシステムに抱いた恋心に近い感情は今でも薄れていない。

気色の悪い余談はさておき,月曜日の授業では上のような文の違和感に辿り着き,(「テストには出ないよ」と念押しした上で)関係副詞を簡単に導入するところまで行きたい。
名詞や副詞のはたらきを整理して,そこに関係代名詞と関係副詞を当てはめるという極めて抽象的な作業は,もう少し先になるだろう。

ICTを用いた共有で復習も楽しみながら重厚に

それぞれが作ったトーナメント表は「ロイロノート」の提出箱に提出してもらい,全員が他の生徒の提出物を見れるよう設定した。

そうすると30近い数の楽しいトーナメント表が目の前に広がり,一つ一つ見ながら自分でトーナメント表を進めるだけで,8つの関係詞を含んだ名詞句に触れることができる。しかもトーナメントを厳正に進めようとすればするほど,その名詞句の伝えたい意味・イメージをしっかり頭の中で思い描く必要がある。勝ち残った名詞句については繰り返し出会うこととなり,頭の中で名詞句の処理スピードも増しそうだ。

生徒たちがテスト前の比較的忙しい時期に授業の中の「遊び」の産物を復習に使う気になってくれるかどうかはさておき,上に書いたようなこの「教材」の良さは伝えた。
あわよくば他の人のトーナメントを進めながら,(日本語の表現と照らし合わせた時の)関係代名詞の不完全さに気づく生徒も出てきてほしい。

パタプラも案外悪くない

正直私はこれまでの授業であまりパターンプラクティスに真剣に取り組んでいなかった。
「実際のコミュニケーション場面では…」という思考が常に邪魔をしていた。
最近は高校受験がないという中高一貫校の良さをもっと活かそうと,スピーキング活動(特に「やりとり」)の時間を意識的に増やし,過去に習った文法もその中で復習するチャンスをうかがったりしている。

そういうことをやり始めると,「あー,ここで比較級が言えれば…!」みたいな場面に多々出会う。その時に「2年の時にもっと比較級が口を衝いて出るぐらいにしておけよ!」と過去の自分を叱りたくなる。

2月にはブリティッシュ・ヒルズでの研修も待っている彼ら。どんどん国際交流系のイベントも増えている本校では,リアルな英語コミュニケーションの経験を授業外で積むことも難しくない。
であれば尚更,授業の中でしっかりパタプラに取り組んでおくことに大きな意義がある。

定期試験が終わったらタスクベースの活動にもっと振っていこうとも思っていたが,過去に習った文法のパタプラを(楽しく!!)やる時間も良いもんだ。

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