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映画『七人の侍』を見て組織の悲哀を感じてしまった話

はじめに

※注意
このnoteには1954年に公開された黒澤明監督の映画『七人の侍』のネタバレが含まれています。
ネタバレを気にする人は一度映画を見てから読んでください。

ざっくり登場人物紹介

  1. 島田勘兵衛
    この作品のストーリー上の主人公。
    後述する6人の侍たちや農民たちを指揮する役割。
    実戦も行うが、どちらかと言うと指揮官の役割が多い。
    生き残る。

  2. 七郎次
    島田勘兵衛のサポートする忠実な副官。
    何故かこの人だけ槍を使う。
    生き残る。

  3. 岡本勝四郎
    7人の中では最年少のルーキー。
    見るからに幼さが残っており、おそらく戦場に出たことがなく「侍」という言葉に憧れを持つ。
    生き残る。

  4. 林田平八
    全体を盛り上げるムードメーカー的な存在。
    剣の腕前は「中の下」。
    7人の中で最初に死ぬ。

  5. 片山五郎兵衛
    一人でなんでもできるオールマイティタイプ。
    察しもよく弓も扱える。
    2番目に死ぬ。

  6. 久蔵
    剣の腕がとにかく立つ切り込み隊長。
    チームプレイというかスタンドプレーが光る場面で活躍する。
    3番目に死ぬ。

  7. 菊千代
    この作品のもう一人の主人公。
    実は武士ではなく農民の出。
    平民の暮らしの大変さを身をもって知っている人。
    場面を動かす起点になるトリックスター的な存在。
    最後に死亡する。

逼迫する中で捨てる札の順番

さて、ざっくり登場人物の情報は読んでもらったので、さっそく書きたいことを書いていく。

僕が『七人の侍』を見て思ったのは、
「これ、組織を生き残らせる場合の捨て札の順番じゃん!」
ということだ。

さらば〇〇

改めて7人の主要登場人物の役割を整理する。
「指揮官」「副官」「ルーキー」は生き残り、「ムードメーカー」「オールマイティ」「切り込み隊長」「トリックスター」は死ぬことになるのだが、順番としてはムードメーカーの平八から死んでいくことになる。

この理由を考えると、逼迫していく状況というのはとにかく現場を回すリソースが不足しがちである。そうなると組織の空気は徐々に殺伐としていく。

そんな中で「ムードメーカー」が最初に戦線を離脱してしまう。
一見すると役割があるように思うのだが、畳み方が見えている組織のテンション感というものはすでに決まっており、そのゴールに粛々と向かうことしか求められなかったりする。
そうなると場の空気を盛り上げるムードメーカーの役割というものは却って組織の空気を乱してしまう存在になってしまうのかもしれない。

また、しばしばムードメーカーは場のネガティブな空気を浄化する過程で自分がネガティブに飲み込まれてしまうことがある。
そうなってしまったムードメーカーは精神を病んで組織を離れたり、自らの体質に合わないと組織を離れていってしまうのかもしれない。

さらば〇〇〇〇

ムードメーカーが去り、どうやらこの組織の先行きは前途多難そうだという空気が組織に漂いはじめる。
次に組織を去ってしまうのは「オールマイティ」な五郎兵衛だ。

「オールマイティ」な人材が組織を去る理由はそのオールマイティさゆえにだ。
そこまでポジティブではないゴールを目指す場合、用意される人員は少なく必要とされるスキルは高くなる傾向になる。
そうなった時にオールマイティタイプの「なんでも65点は取れます」のような能力はしばしば帯に短く襷に長くなってしまう。
そうなった時に組織としてはそこまで必要ではなくなるので、幸か不幸か序盤での退場になるのかもしれない。

さらば〇〇

場を盛り上げてくれるムードメーカーが去り、今度はいろいろなことを任せることができるオールマイティタイプも去ってしまった。
さすがに無傷ではいられないのだろうという空気が組織に漂い始める。
そんな中、いつも謎の技で進捗を上げてくれていた頼りになる「切り込み隊長」が組織を去ることが決まったそうだ。

切り込み隊長タイプが組織から不要になる理由。
それは「目処が付いたから」だ。
「全体の負けを最小にする」という目的がある状況で、謎の技でゴリゴリ進捗を上げてくれる切り込み隊長は序盤では役に立つ。
ただし、中盤以降のしめやかに終わりに向かっていく組織は進捗を上げることよりも「いかにタイミングを合わせるか?」みたいなことが大事になってくる。
そうなった組織にスタンドプレー強強マンの居場所はなくなってしまう。
というわけでお役御免である。
若者に見せてくれたかっこいい背中は忘れない。

さらば〇〇〇

切り込み隊長もいなくなった。
いよいよ場面は最終局面だ。
タスクの量も人の量もあきらかに減り、あとは輝かしい(?)フィナーレを飾るだけである。

最後に組織を去るのは組織が立ち上がったときからいる実力者だ。
彼は「気持ちで繋がれ」という古いタイプの人間とも「利益で協力しろ」という新しいタイプの人間とも対話ができる貴重な人材だ。
それゆえに組織が立ち上がった時から所属しているのだろう。
彼のカリスマ性は組織がピンチの時に困難を打破するきっかけになった。
ただ、彼はいろいろなことを知りすぎてしまったようだ。
ネガティブな事実はなんとなく穢れを纏っていそうなので彼には去ってもらったほうが穏便な予感がする。

結局誰が生き残ったのか?

全てが終わった。
当初は不可能だと思われていた問題を犠牲は出しつつ解決することができた。
雨が止んで晴れ間が見えてきた。

生き残ったのは、指揮官、副官、ルーキーの3人だ。
指揮官は指揮官ゆえに一番安全なところから物事を俯瞰して見て的確に指示を出し続けた。
副官はそれを組織の中の伝達役になりサポートを続けた。
ルーキーは新人ゆえに矢面に立たされず、各ポジションの悲哀を目撃する経験を得た。
彼らは仲間を失った悲しさを胸に秘めつつ目的を達成した功績を評価され次のプロジェクトに向かうのだろう。
彼らの物語は続くのである。
めでたしめでたし。

-了-

あなたのポジションは何なのか?

物語をながながと書いてしまったが、ここで「あなたのポジションは何ですか?」ということを質問して終わりにしようと思う。
人は何かしらの組織に所属している。
賃金を得た経験がある人は会社やバイト先という組織にいたことがあるだろう。
そうなった時に「なんかあんまりいい感じではないな」と思ったことがある場合は、もしかすると組織がネガティブな状態にある中で、七人の侍の死んでしまった側のポジションにある可能性があるのかもしれない。

「今度もまた負け戦だったな」じゃないよ!!

おまけ

このnoteを書く際に、参考にさせていただいたページのリンクを貼っておきます。

内田樹さんの『七人の侍の組織論』

・七人の侍 wikipedia

大阪で音楽関係の仕事をしています。 アニメや漫画、TVゲームからボードゲームまで広く遊びが好きです。