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“独”孤児院の子、恵まれてるやん

僕はドイツの田舎にある孤児院で働いている24歳日本人。

ドイツ語ではキンダーハイムと言って、直訳すると「子どもの家」となるのだが、まぁ日本でいう児童養護施設のようなもので、僕は個人的に孤児院と言っているのだが、例えば

・“親がいない子ども”(親が早くに亡くなってしまったり)
・なんらかの形で“親と一緒に住めない子ども”(アルコール依存症や経済的事情など)

がその家で一人一部屋与えられ、共同生活を送る。

現在、家には6人の子供がいて、6歳男女、10歳女、14歳男、16歳男、19歳女が暮らしている。2週間後には12歳女が来る予定。

僕はその家で子どもらの親代わりのような存在として週5日働いている。

2023年7月から働き始め、5ヶ月が経った。

その中で感じた1番の衝撃は意外にも、「あれ、こいつら恵まれてるやん」だった。

その理由をまとめると、

1、大人が教育を受けている
2、大人に余裕がある
3、予算が確保されている
4、子どもに逃げ場がある

大人が教育を受けている

僕の同僚の一人は大学で教育についての勉強をしながら、現場での経験も積むために働いている。僕にも定期的にセミナーが設けられていて、参加しなければならない。また、僕の仕事場では月に2回のミーティングが行われ、情報共有や話し合いを行う。

僕らは決して「専門家」や「プロ」ではないかもしれないが、少なくとも普通の親はそういった教育を受けることなく子どもを育てているし、同じ密度で話し合いも行われていないだろう。それと比べると孤児院の子どもは、少なくとも僕らのようなちゃんと教育された大人に育てられているという点で一般的に恵まれていると思う。


大人に余裕がある

僕らは子の親とは違い、子を面倒見るのが仕事だ。つまり、言うなれば24時間子どもの面倒を見ることも可能だ。子ども目線からすると、必ず頼れる大人が常に身近にいてくれるということ。それも時間的に余裕のある大人が。

もちろん仕事で一杯一杯になってしまうこともないわけではないが、基本的には子どもの面倒を見ること以外することがない状態。なにも心配することなく子どもの面倒を見ることにだけ専念できる。

例えば、僕の幼少期は両親共働きだったので、構ってもらえる時間も少なかったし、仕事して家に帰ってきているので体力的な限界もあっただろう。だから、怒られることも多かったし、我慢しなければいけないことも、親の顔色を伺わなければいけないことも多かったように思う。

昨今、日本は経済的にもなかなか厳しく、両親は仕事もしなければならない上に、お金のことや人間関係のこと、食事のことなり将来のことなど、様々なことを考えなければならない中で子どもを育てていかなければならない。

そんな状況でいっぱいいっぱいでストレスを抱えた親に育てられる子どもを想像すれば、孤児院の方が健全な環境で子どもは育てているのかなと思ったりする。


予算が確保されている

これは正式に調べたわけではないので、データのようなものを根拠にしているのではなく、僕が孤児院で働く中で見えてくるお金の出入りを根拠に言える。

買い物はちょっと高めのスーパーでも安いスーパーでも特に決まりはなく、どちらでしてもいい。広い庭はあるし、おもちゃや絵本もたくさんある。子どもはそれぞれ年齢に応じて、お小遣いをもらっている。遠足や映画を見に行ったりできるし、習い事もできたり、セラピーや塾のようなものにも通える。季節のイベントごとに応じて、家が装飾されたり、アドベントカレンダーも一人一つもらえたり、クリスマスプレゼントも願ったものが3つ4つ貰える。この間、16歳の誕生日を迎えた男の子はNintendo Switchのカセットを2個プレゼントされていた。

もちろん、普通にそれぞれ保育園や学校にも行っている。

これを恵まれていると言うのかはわからないが、少なくとも貧乏ではない様子が分かるだろう。


子どもに逃げ場がある

僕らはシフト制で8人くらいの大人が毎日入れ替わりで働いている。日中は大人が必ず2〜4人は家にいるので、子どもは遊び相手なり宿題相手なりに活用できる。

親と一緒に暮らすほとんどの子どもの場合、例えば親がDVなり問題があったときに、逃げる場所がない。学校の先生は遠いし、そこまで関与してくれない場合も多々ある。子どもが児童相談所に駆け寄ることもなかなか難しい。

昔は親とうまくいかない子どもは、おじいちゃんおばあちゃんがセーフティネットとなって機能していたが、昨今は核家族化が進み、子どもの逃げ場が少くなりつつある。

毎日8人の大人が入れ替わり立ち替わりで循環しているというのは、それらに比べれば少なくとも恵まれていると言えるのではないだろうか。


とはいえ

あくまで恵まれている恵まれていないというのは、僕が勝手に見て抱いている感想である。子どもがどう感じているのかというのは分からないし、この記事を書く上ではあえて関係がないものとして意見を書いた。ヨーロッパにおける家族というものの存在は日本のそれとは大きく異なるので、僕には彼らを完全に理解することはできないだろう。

そして、親がいない子どもたちがこのような家で育った将来、どのような人間に育っているのかも僕は知らない。

教育において一概に良い悪いを述べることも非常に難しい。恵まれているから良い、恵まれていないから悪いと一様に断じることはできない。あくまで自分が日本で育ったときの環境と比べることしかできず、僕の目線で恵まれているのではないかと感じたまでだということを理解していただきたい。

僕が言いたかったのは、「孤児院に通っている子は別にかわいそうな子なんかじゃねぇぞ。むしろ、結構いい生活してるかもよ」ということで、「孤児院」や「児童養護施設」と聞いただけで勝手にそこにいる子どもを可哀想とか思っていたお前(自分)にバカヤローを突きつけたかった。

ということで、

バカヤロー。


かくいたくや
1999年生まれ。東京都出身。大学を中退後、プロ契約を目指し20歳で渡独。23歳でクラウドファンディングを行い110人から70万円以上の支援を集め挑戦するも、夢叶わず。現在はドイツの孤児院で働きながらプレーするサッカー選手。

文章の向上を目指し、書籍の購入や体験への投資に充てたいです。宜しくお願いします。