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新規事業の評価基準

先日、「経営層と新規事業開発チームの橋渡し|投資家という『補助線』」という記事にて経営層の志向や思考について共有しました。そこでは、ROEや、それを分解した売上高利益率、総資産回転率、財務レバレッジといった指標を紹介しています。

ただ、新規事業の検討/検証段階では、そのような指標は算出自体が難しく、日々の活動にはあまり役に立たない指標だと思います(とは言え、新規事業を考える上で重要な与件ではあるので先の記事にて共有した次第です)。

新規事業開発を進めている方にとっては、検討/検証段階の評価指標や基準が気になると思いますし、事務局として新規事業開発を進めている方にとっては、どのような評価指標/基準を、どのように策定するべきなのか気になると思います。

もちろん評価指標や基準は企業によって異なりますが、基本的な考え方をこの記事でまとめます。新規事業開発を推進している方にとっては、活動の加速や付議の成功に、新規事業プログラムなどの事務局の方にとっては、評価指標/基準策定の参考にお役立ていただければと思います。

新規事業における評価の目的

新規事業は「何がうまく行って、何がうまく行かないのか」がわからない、いわば不確実性が高い活動です。そのため、仮説検証を繰り返し、リスクを低減する必要があります。

検証が不十分なまま事業化してしまうと、多額の投資をした挙げ句、撤退することになりかねません。

そこでリーンスタートアップの考え方に当てはめて言うと、「顧客の課題」を検証し、「解決策」を検証し…といった流れが提唱されています。つまり、何らかの検証を行った後、その結果を評価し、次に進むか、それとも再度検証を行うのか決めていくことになります。

この後は、検証活動を行う期間を「ステージ」、評価/審査を「ゲート」として説明を続けます。

評価基準の要件

評価基準を決めていく上で押さえておくべき要件を3つご紹介します。

意思決定につながること

当然のことながら、評価基準が意思決定とつながっている必要があります。意思決定者が「次のステージに進んでよし」と言える状態を評価基準に変換するということです。意思決定につながらない評価基準を設定してしまった場合、評価基準というだけで新規事業推進者が意識してしまうので、活動の負荷を上げてしまいかねません。

そこで大きな枠組みとしては、「事業性」「実現性」「取り組む意義」を用いることをおすすめしています。

「事業性」(儲かるかどうか)が低ければ、いくら「実現性」や「取り組む意義」があっても意思決定は難しいでしょう。また、「実現性」が低ければ、「事業性」や「取り組む意義」があっても意思決定は難しいと言えます。「取り組む意義」が低い場合も同様です。

まずは「事業性」「実現性」「取り組む意義」という大きな観点から評価基準を決めていきましょう。後ほど改めて説明します。

ステージ毎の重要な項目に評価の重点が置かれていること

とは言え、新規事業の初期段階から「事業性」「実現性」「取り組む意義」全てを説明するのは非常にハードルが高いことも確かです。顧客・課題の検証をした段階で「実現性」を求めても、どのような解決策を構築/提供するか決まっていない段階では、回答も評価もできません。

そのため、各ゲートでは、それに先立つステージの重要な項目に評価の重点を置きます。例えば、顧客・課題の検証を終えた後のゲートでは、主に「事業性」に重きを置き、解決策の検証を終えた後は「事業性」に加えて「実現性」も、実証実験/事業化判断のタイミングでは「取り組む意義」も含めて総合的に評価を行います(新規事業の狙いやテーマによって、重点を置く項目の順番は変わります)。

「2種類の過誤」を防げること

さらに注意すべきこととして、「2種類の過誤」の存在があります。「本当はよい案を棄却してしまう過誤」と「本当はよくない案を通過させてしまう過誤」です。

あるゲートで評価基準全てを必達にしてしまうと「本当はよい案を棄却してしまう過誤」が起こりえますし、評価基準を緩めすぎてしまうと「本当はよくない案を通過させてしまう過誤」が起こりえます。

なので、各ゲートで必達(MUST)とする基準と、達成できていればなおよし(WANT)とする基準を明確にしておくことが重要です。とは言え、それでも過誤をゼロにすることは難しいので、予算や人的リソースの許す限り、基準は緩めに設定し(いわば「本当はよくない案を通過させてしまう過誤」を許容し)、実際の案件の状況を見ながら評価基準を適正化していく運用も重要です。

評価基準策定の考え方・進め方

では、具体的に評価基準策定の流れと注意点を見ていきましょう。

観点を決めて基準にする

大まかな流れは、「評価観点を決め、各観点を分解して評価項目にし、それぞれの項目に基準を設ける」となります。細かな評価基準から検討を始めてしまうと、重要な評価観点に漏れが出てしまう恐れがあります。大きなところから順番に検討しましょう。

観点は「事業性」「実現性」「取り組む意義」が基本

その評価観点は先述の通り、「事業性」「実現性」「取り組む意義」を基本に置くとよいでしょう。漏れもダブりもない観点として使い勝手がいいのではないかと思います。

上図は重複があるような表現になっていますが、3つの要件を押さえている案件が採択する対象になるということを意味しています。

とは言え「事業性」「実現性」「取り組む意義」という観点では評価しにくいので、これを「評価項目」に落とし込んでいきます。弊社Relicのオウンドメディア "Battery" に掲載した『最速・最短で事業化する方法。「事業成立条件」という考え方』から例を抜粋します。

A. 事業性

  • ある課題(不満・不安・不便など)を抱えた顧客は事業が成立する規模で存在するのか

  • 解決策は、その課題を解決するのに適切か

  • その顧客は解決策に対して、十分なお金を払うのか

  • 一過性のものではなく、今後も継続的に発生する課題なのか

  • 競合/代替品に対して優位に事業を進められるのか など

B. 実現性

  • 法規制/慣習的に実現可能なのか

  • 技術的に実現可能なのか

  • 経済的に実現可能なのか など

C. 取り組む意義

  • 社会的に取り組む意義はあるのか

  • 自社にとって取り組む意義はあるのか など

基準化の度合い

さらに「評価項目」を「評価基準」に落とし込んでいきます。例えば「解決策は、その課題を解決するのに適切か」という評価項目は、ある程度審査員の主観に任せて「1点:そう思わない」「2点:どちらでもない」「3点:そう思う」とする場合もあれば(客観的であることが必ずしも正しいことではないと考えており、この話題はまた別の機会に)、より具体的に「1点:ヒアリング相手のX%未満が適切と回答」「2点:ヒアリング相手のX~X%が適切と回答」「3点:ヒアリング相手のX%超が適切と回答」とする場合などがあります。

基準をどの程度具体的に決めるかについては、

  • 評価する側が評価できるレベルで定義する

  • 新規事業推進者に重視してほしい項目は具体的に定義する

という考え方で決めましょう。

統合の観点を忘れない

評価観点を項目に分解して基準を作るという、大→小の流れで進めてきましたが、細分化した評価項目のいずれか×があっても、全体として◯としてよい場合があります。基本は評価のしやすさや、評価の漏れをなくすことを重視して分解した評価項目に従って評価していきますが、最終的に「個別の評価を統合した結果、全体としてどうなのか?」という観点も持っておきましょう。

意思決定者と握る

最後に重要なのは、評価する側=意思決定者と評価観点/項目/基準を「握る」ことです。意思決定者は結論を急ぐあまり、後々のゲートで問うべき「儲かるのかどうか」「うまく行くのかどうか」を最初のゲートで聞いてしまいがちです。

段階的に検討/検証を進めているにもかかわらず、初期段階でこのような問いが発生してしまうと、「本当はよい案を棄却してしまう過誤」が起こるリスクが高まります。「各評価基準を、いつ適用するか」。特にこの点を意思決定者と認識合わせしておきましょう。

まとめ

今回、「新規事業における評価の目的」「評価基準の要件」「評価基準策定の考え方・進め方」を共有しました。最後にお伝えした通り、評価基準の策定は意思決定者との合意が必要なため、心理的な負担が大きいタスクだと思います。

ですが、評価基準は、新規事業開発を推進している方にとって活動の道標になりますし、企業としての成果創出に向けた重要なツールでもあります。

この記事が新規事業に携わる方々の活動の後押しになれば幸いです。

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