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企業の存在意義の探索

新規事業をはじめとして、企業が成長/成功するための思考と実践を行っている会社、Relicの小森と申します。私が責任者を務めているストラテジックイノベーション事業部で討議した内容を記事にまとめました。

みなさんはご自身が所属する企業/事業において「存在意義」を考えたことはありますか?

最近「パーパス」という言葉が経営文脈で語られることが増えてきました。名和高司さんの『パーパス経営』、佐々木康裕さん、岩嵜博論さんの『パーパス 「意義化」する経済とその先』など、そのものズバリの書籍も出ています。

我々Relicの仕事でも、クライアント/パートナーが持っている事業アイデアを検討/検証して事業化するのみならず、企業の分析を行い、パーパス(ここでは「存在意義」)を再定義し、狙う事業領域を定義する取り組みを「インキュベーション戦略」の一環として行っています。

今回、皆さんが所属する企業/事業において「存在意義」を再定義する上で有効と思われる観点をご紹介します。

・企業経営層の方々や新規事業を検討/推進する方々は、新たな事業領域を探索するきっかけとして
・事業責任者の方は、企業観点から改めて事業の意義を探索するきっかけとして
読んでいただければと思います(「存在意義の再定義」から「狙う事業領域」への転換/昇華は追って記事にします。今回は「存在意義の探索の観点」としてご覧ください)。

図:存在意義の探索の観点

探索のアプローチは時系列に従って3パターンあると考えています。実務的には3つのパターンを組み合わせて存在意義を探索し、関係者との討議/合意を進めていくイメージです。

過去からの探索

まず「過去からの探索」です。「存在意義を再定義する」と言っても、別会社を設立したり、意図的に過去を否定したりする場合を除けば、過去をしっかり振り返るアプローチは、ある程度事実が存在するので取り掛かりやすいと思います。

具体的な観点としては、

  • 創業の経緯/想い

  • 意外な事実

  • 事業で培った資産

などが該当します。

いくつか補足すると「意外な事実」というのは、同業他社が当たり前のように実施しているけれども、自社が実施していない、または途中でやめた事業/サービスがある場合、「同じことをしたいが、できなかった」「同じことをしようとも思っていなかった」という2つの可能性があります。前者は、そのような制約があっても生き残っている背景/戦略/戦術が、後者は「独自の生き方を貫く」というスタイルそのものが今後の企業方針につながるかもしれません。

ヤマト運輸社が当時の大口顧客だった百貨店の配送を止めたこと(従業員も含めたステークホルダーを見渡し、持続的に事業を運営できるようにしたと推測)や、「俺のイタリアン」が立食スタイルを貫いて当初実現しようとしていたこと(おいしい食事を安く、多くの顧客に提供することと推測)などが参考になるかもしれません。

もう一つ、「過去からの探索」の補足として「資産」についても紹介します。いわゆる「有形資産」ではなく、「顧客資産」「人的資産」「組織資産」といった「無形資産」は、無形なだけに他社からも見えづらく、独自性のある強みが隠れていることが多くあります。

今お付き合いしている顧客が高齢化するのをうまく捉えたセコム社の高齢者向け住宅事業は、「顧客資産」に目を向けて存在意義を再定義し、事業領域を拡げた例と推測しています。

人的・組織資産はなかなか考察が難しいと感じられるかもしれませんが、「納期を遵守するためには高コストな手段を使うこともいとわない」というエピソードは「短納期/納期遵守へのこだわり」という人的・組織資産と読み替えることができます。

このような過去の探索を通じて「自社は何のために存在するのか」を再定義、あるいは「再発見」していきます。

現在からの探索

次に「現在からの探索」です。こちらも過去と同様、現在の事業展開という事実を分析するので、比較的取扱いやすいテーマだと思います。企業は顧客に価値を提供するために、他社とも協業することでバリューチェーンを構築しています。自社が担当しているプロセスだけでなく、その前後工程も含めて、改めて顧客にどのような価値を提供しているのか、という観点で深堀りをしていきます。

『パーパス 「意義化」する経済とその先』ではMars Petcare社が事例として紹介されています。元々、ペットフードを提供していましたが、ペットに健康を提供している、という価値の見直しを通じて、ペットの治療やウェルビーイングに目を向けるようになりました。さらに、その手段を拡充するため、現在はIoTデバイスやデジタルプラットフォームまで事業領域を拡げています。

顧客への提供価値を考える、というと当たり前だと思われるかもしれませんが、見えやすい商品/サービスの「機能」に目を奪われ、その機能が実現する提供価値が埋もれてしまっている場合も多くあります。今自社が担っているプロセスだけでなく、バリューチェーン全体に目を向けて提供価値を再考していくイメージです。

また、「存在意義」を超えて具体的な事業/プロダクト展開寄りの話になりますが、バリューチェーンの下流に目を向けると、製品の廃棄/回収プロセスが出てくる場合もあるでしょう。もしかしたら「マイナスを減らす」観点で廃棄を減らしたり、「プラスを増やす」観点で回収を効率化したりするビジネスの機会も出てくるかもしれません。

未来からの探索

「未来からの探索」では、自社のありたい姿を置き、将来実現すべき価値を現在の存在意義に含める、という手順になります。うまく言語化できていないのですが、「ありたい姿」は企業の"be"や"to be"を表していて、「存在意義」は"be"や"to be"に向かって、"do"や"to do"まで含んでいるイメージです。

将来、どのような「社会」になっていてほしいか、その中で「自社」はどのような事業展開をしていたいか/しているべきかを考えます。存在意義を再定義するということは、現在の延長線では事業展開が難しいことを意味していると思います。具体的にどのような価値転換が起こりうるのかまで考察していくことが重要です。

最近だと「カーボンニュートラル」に代表されるように、環境優先の動きが増えてきていると思いますが、これも一種の価値転換だと言えるでしょう(価値転換/未来創造の思考法についてもそのうち記事を書く予定です)。

弊社メンバーから教えてもらった例ですが、阪急電鉄社が将来的に電車賃を下げ、利用者の利便性を上げるために宝塚歌劇団をつくった、ということも未来からの探索に該当します。

また、「未来からの探索」の参考として弊社Relic代表 北嶋の著書『イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント ――不確実性をコントロールする戦略・組織・実行』から「魅力的なビジョン策定に向けた論点」をご紹介します。

  1. 有意義性:定量的な数値だけでなく、定性的な意義や価値を示しているか

  2. 貢献性:より良い未来や社会を創ることや社会課題の解決につながっているか

  3. 具体性/独自性:誰もがイメージしやすく、自社ならではの「らしさ」があるか

  4. 実現性:実現に向けた時間軸やロードマップを設計しているか

  5. 透明性/公平性:意思決定はトップダウンでも、プロセスは透明でオープンか

特に3. で触れている「らしさ」は、「過去/現在からの探索」をした結果がビジョンの具体性/独自性につながってきます。

まとめ

今回、企業の存在意義を探索する上で、有効と思われる観点をご紹介しました。我々もクライアント/パートナーのご支援の中では毎回試行錯誤をしているので、この探索の大変さも、ご紹介した観点だけでは分析しきれないことも理解していますが、皆さんのお仕事が少しでも前に進むことになれば幸いです。

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