顧客理解をちゃんとしている人とは?


はじめに

「顧客を理解すること」は全ビジネス活動の最重要事項と言われることが多いが、これを徹底的に丁寧に実行できている人はどれだけいるだろうか。マーケティングの分野では「価値観マーケティング」「ファンマーケティング」「熱狂マーケティング」、等「○○マーケティング」という言葉が言われ、新たな概念が次々と出てくるが、その中身を見ると「顧客をどのような視点から捉えて、どんな関係性を築いていくべきか」という問いに対する考え方が微妙に異なっているだけであるように思う。つまり、”顧客の捉え方に関する主張”であることが多い。それだけ、顧客が本当に求めているものが何であるかを把握することが、マーケティングをする上では最重要課題であることは間違いない。今回は顧客を理解する時に、参考になる考え方をいくつか紹介をしてみたい。全く体系的ではなく、断片的な記述にはなってしまうが、実際にマーケティング調査をしたり、マーケターの方と議論をしていて普段感じていることを書いてみる。


「顧客理解」とは何か?

まず、「顧客理解」の定義を自分なりに言葉に落としてみる。

商品・サービスを提供している既存の顧客、もしくは今後提供する可能性がある潜在顧客について、商品・サービスの購買に関連ある行動特性と、その行動の背景や理由を具体的に理解すること。

ざっくりした定義ではあるが、さらに大別すると二つの顧客理解がある。

①広い顧客理解
対象としている顧客集団の統計的な傾向を理解すること。定量アンケート調査などで大人数の結果を分析することによって把握するケースが多い。
②深い顧客理解
一人一人の人間を理解すること。直接意見を聞いてみたり、行動を観察し、その行動の背後にある心情に想いを馳せながら理解を深めるケースが多い。

個人的な感覚ではあるが、①は分析スキルの標準化・言語化がしやすいためか、②よりも書籍やネットページで解説されていることが多いように思う。そのため、この記事では②「深い顧客理解」について書く。(実際①もかなり奥深いが、最近自分が興味があるのが②なのでご了承いただきたい。)

もう少し具体的に言うと、「顧客理解」とは何か

例えば、ある商品・カテゴリの利用者を「しっかり理解している」状態とは、どのような状態か?・・・いきなり結論を言ってしまうが、下記の5つを理解することであると考えている。全然網羅的ではないし、個人的な感覚による部分も多いのだが、過去の経験から、この5つを深く理解していれば70%くらいは理解できた、と言えるのではないかと思う。残り30%が決して重要じゃない訳ではないし、その30%までこだわっている企業こそが強いとは思うが、いったん5つだけに絞って説明をしてみる。BtoCマーケを想定。

A. カテゴリ常識
B. マストなこと
C. 価値を感じる軸
D. 生活にとっての意味
E. 困っていること

A. カテゴリ常識
商品カテゴリについて顧客が持っている常識・当たり前だと認識していること。言い方を変えると、その商品カテゴリに対する現状の「固定観念」。

(例)「リモコン」の場合
①テレビに直接触れずに遠くからでもチャンネルを変えることができること
②たくさんのボタンがついていること
③触れる物体であること
④縦長のスティック状であること
⑤テレビとセットでついてくるもの
⑥電池を入れて使うもの
・・・・

B. マストなこと
上記の「カテゴリ常識」の①~⑤のうち、顧客が絶対に必要だと思っていること。これがないと、多くの場合は「離反」につながるような大切なもの。

(例)
上記のうち、マストなことは、実は①「テレビに直接触れずに遠くからでもチャンネルを変えることができること」だけである。(なので、例えばGoogleをはじめとする各社は音声入力等に力を入れているのではないか。)


C. 価値を感じる軸
ある特定の商品・サービスを「他より良いかも」と判断する判断軸(※)
(理想はその判断を行う具体的なシーンや、その判断軸がどのように形成されたのかもセットで理解したい)
※判断軸とは、「価格が安い」「かっこいい」「効果がある」等、商品・サービスを比べた時に、ある商品が他の商品よりも欲しくなると感じる軸。

(例)
消費者として複数のリモコンを意識して比べたことはないので、例が若干難しいが、例えばひと昔前であれば「持ちやすさ」「反応速度」などが価値を感じる軸になっていた可能性が高い。現代であれば”価値を感じる軸”と言えるのは「自分の感性に合うカラー・質感であること」くらいだろうか。(つまり、この商品カテゴリ自体が成熟していると判断するのが妥当。)

D. 生活にとっての意味
商品カテゴリや商品が、顧客の「生活」にとってどんな意味があるのか。

(例)
リモコンの「生活にとっての意味」は、まずは「自分の目的に合わせてテレビをストレスフリーに使用すること」である。ではその目的は何かというと例えば「仕事終わりの時間に、Netflixを楽しむため」「起床後、通期までの時間に短時間でニュース情報を仕入れるため」などが考えらえる。

E. 困っていること
その商品を買ったり使う中で、困っていること、解決したいこと。

(例)
リモコンを使う中で、個人的に一番困るのは「リモコンが見つからなくなること」である。「持ちにくいこと」でもなければ、「ボタンが少ないこと」でもないし、「デザインがダサいこと」でもない。リモコンが突然なくなるのである。(私がだらしないためである。)

上記のように、顧客についてA~Eの項目を自分なりに即答できるレベルに理解していれば、「顧客にとって嬉しいアイディア」がたくさん出る可能性が高まるように思っている。
 例えば、B「マストなこと」をちゃんと理解しつつ、A「カテゴリ常識」の③「触れる物体であること」を疑ってみる。すると、近年発達が目覚ましいAI技術による自動音声機能のアイディアに至るのではないかと思われる。他にも、顧客を理解した結果、C「価値を感じる軸」が現状は特にないのであれば、リモコンのデザインを洗練させてタッチパネルにして「リモコンを触る体験をワクワクさせる(触ると光る、なめらかに触れる)」等のアイディアも出てくる(魅力度やコストはいったん置いておく)。また、D「生活にとっての意味」で、そもそもリモコンが使われる生活をイメージして、「朝テレビでニュースを見たいが、時間がなくて忙しい人がいる」のような具体的な活用シーンを理解していたり、E「困っていること」の「リモコンがなくなる」という(初歩的な)問題を理解していれば、例えば「絶対になくならないリモコン」というようなコンセプトで、テレビとセットで売れば顧客は共感して惹かれるかもしれない。ジャストアイディアかつ適当なアイディアだが、例えばコンセプトのエビデンスとして「実は世の中の60%の人はリモコンを操作するよりも、探す時間の方が長いんです」などと衝撃的に示せれば面白そうである(※かなり適当に言っている)。

逆に一番やってはいけないのは「リモコンはテレビを操作するためのものなので、テレビでできる機能が全て使えるように、リモコンのボタンもたくさんあった方がよいだろう。競合に劣ってはいけない。」というような発想である。控えめに言っても、リモコンのボタンは多すぎである。リモコンのたくさんあるボタンのうち、本当に使っているボタンはいったいいくつなんだろうか、と思う。そのような事態になってしまうのは、A~Eを顧客目線で考えずに機能目線、競合目線で発想してしまうことが原因ではないだろうか。

顧客理解をちゃんとされているな~と思う方の特徴

色々な企業のマーケターの方とお話をさせていただき、顧客理解が丁寧だな~と思える方は、例えば、下記のような特徴があるように感じている。

A. 「カテゴリ常識」をちゃんと理解している
基本的な顧客理解を怠らず、ちゃんと顧客の常識を知ろうとしている。その理解の中で「固定観念を打開できるアイディアはないか」も同時に探している。むしろこちらが主目的であることを強く意識して、顧客の常識をまずはしっかりと理解しようとしている。顧客視点が強そうかどうかは、この常識の理解に対する姿勢で結構差がついているように思う。

B. 「マストなこと」をちゃんと理解している
「そもそも顧客が必要なのは~」と顧客の立場で考えている。その商品がそもそも作られるようになった経緯・歴史まで遡って考えてみたりしている。「そもそもこの商品が生まれた原点は・・・だとすると・・・」みたいな発言を通して、その商品カテゴリの「コア」を捉えようとしていることが多い。

C. 「価値を感じる軸」をちゃんと理解している
「価値を感じる軸」を見つけるためにインタビューなどすることは多いが、ちゃんと顧客理解をしようとしている人は顧客の発言をそのまま捉えることはまずない。なぜなら、自分が価値を感じる軸を正しく言語化できる人間はそう多くない、ということを知っているからである。例えば「香りがかわいかったので、Aブランドの化粧水にしました」と顧客が発言した時に、それをもって「判断軸は香りが良いかどうかである」と捉えるのではなく、「その”かわいい”とはパッケージデザインからきているのではないか。もしくは、ただ言ってみただけではないか?」などと、少し斜めに問いかけながら、発言を色々な角度から解釈しようとしている。深く深く考えて、納得できる仮説を導き出そうとしている。

D. 「生活にとっての意味」をちゃんと理解している
その商品・カテゴリが使われている状況や買われる状況だけでなく、その商品がどのようなシーンで使われるのか、どのように片づけられるのか、どのように譲渡されるのか、等、時間軸や空間軸をすごく伸ばして「生活」の視点で捉えている。例えば、先のリモコンの例であれば、極端な例だが顧客理解が苦手な人は「リモコンを使うシーンのこと」しか考えないケースが多い。そうなると「そもそもリモコンが見つからないという問題」「朝の忙しい時にテレビをスムーズにつけたいという問題」などの発想には至らず、アイディアの幅も狭まるのである。昨今のコロナの影響で「生活はどう変わったのか」など色々な論考が出されているが、どんな商品も生活と関連があるので、当たり前のことではあるが、やはり生活の変化を捉えておくことはとても大切である。

E. 「困っていること」をちゃんと理解している
最後に、「困っていること」については、実は顧客に聞けば意見はたくさん出てくることも多いのだが、「解決できないこと」や「解決しても実はそれほど嬉しいという訳でもない(結果売れない)」ということも多い。なので、これもCと同様ではあるが、言葉にできないことにこそ困っていることがあるはずだ、という前提を持って、発言を組み合わせて「要はこんなことに困っているのでは?」と仮説を立ててみたり、顧客の行動を粘り強く観察し続けたりして、最後は”主観”で仮説を深めようとしている印象がある。


最後に

最後に、上記のようなことを書いておいて言うのもあれなのだが、顧客理解で最も重要なのは「顧客と向き合い、色々な角度からどれだけ粘り強く理解しようとするか」であると思っている。「どんな観点で理解するか」「どんな手法で理解するか」「どんなフレームで整理すれば良いか」などは「おまけ」であると思っている。大切な人にプレゼントを買う時のように、うんうんうなりながら情報収集もしながら考えるのが実際であり、フレームに分けて整理したからと言って良い顧客理解ができるというのは幻想である。なので、上記のA~Eもあくまで参考である、というのが結論になってしまったのだが、A~Eを踏まえておけば「この人は顧客理解力が高いな」と思われるのは間違いないし、良い商品・サービスのアイディアが出てきやすくなるのではないかと思われる。

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