強みを活用したブランド拡張(1/2)
「ブランド拡張」とは、既存の強いブランドを活用して新たな商品を展開することであり、売上を伸ばす1つの手段として既に強いブランドを保有する企業で検討されることが多い。例えば、カップラーメンが「カップ飯」を作ったり、メルカリが「メルペイ」を展開することが挙げられる。この記事では、ブランド拡張に興味がある方に向けて、ブランド拡張のメリットや検討のステップとポイントを整理してお伝えする。
全2回に分けてお伝えしたい。この記事では主に「1. ブランド拡張とは」「2. ブランド拡張のメリット」について執筆する。
目次
1. ブランド拡張とは
2. ブランド拡張のメリット
3. ブランド拡張の検討のステップとポイント(次回)
(補足)ブランド拡張の考え方の応用
1. ブランド拡張とは?
「ブランド拡張」とは、ざっくり言えば「既存のブランド資産を活かして新たな商品・サービスを作ること」であり、大きく2種類の拡張がある。
①カテゴリ拡張
現在のブランドの商品・サービスカテゴリとは別のカテゴリに、既存ブランドを活用して新しい商品・サービスを展開すること。
(例)
・脱毛サービスで成長した「ミュゼ」のブランドを活用して、化粧品商品を展開
・フリマアプリ「メルカリ」のブランドを活用して、スマホ決済サービス「メルペイ」を展開
・ダイエットサービス「RIZAP」のブランドを活用して、英会話レッスン「RIZAP English」を展開
etc.
②ライン拡張
現在のブランドの商品・サービスカテゴリの中で、既存ブランドを活用して新しい商品・サービスを展開すること。
(例)
・コカ・コーラが750mLの容量を出した(容量)
・日清カップヌードルがカレー味を出した(味)
etc.
上記①、②の例はたくさんあり、大きくパターン分類もできるのだが、そのパターンを整理することが本記事の本題ではないため割愛する。「ブランド拡張」は経営視点からは売上を上げるための1つの「手段」であり、そのような意味では「リブランディング」「M&A」「新ブランドの立ち上げ」等と並列の関係にある1つの打ち手と捉えるべきものである。
2. ブランド拡張のメリット
ブランド拡張のメリットとしては、大きく下記の5つがある。どれも大切だが、特に短期的には①、長期的には④が大切だと言える。
①大きなリスクを避けて、一定規模以上の顧客獲得を狙える
新規事業に比べると分かりやすいが、ブランド拡張は大きな失敗のリスクを低減しつつ、売上を伸ばしやすい。特に、既存のブランドが強く競合優位性がある場合は別の商品カテゴリでも一定以上の顧客を獲得できる可能性が高く、新ブランドの立ち上げのように「すごく莫大な投資をしたのに市場に響かず大損してしまった」というリスクは相対的には少ない。例えば、アップルウォッチは、「アップル」という強いブランドを武器にすることで「腕時計市場」に参入し、低リスクで一定以上の顧客獲得をしている。
②新規ブランド立ち上げに比べて、プロモーションの効率性が上がる
既存のブランド資産(強くて豊かな価値が蓄積されている)があるため、新しいブランドをゼロから立ち上げて、そのブランドに投資するよりも少ないプロモーション費用で売上を伸ばしやすい。例えば、ライザップのゴルフスクールのCMを見かけることがある。元々はダイエットで有名なライザップのブランドをアピールしながらも、ゴルフサービスの訴求をしており、1つのCMで「ダイエットサービス」と「ゴルフサービス」のどちらも訴求できているという意味で効率が良い。また、ブランド拡張をした方がコミュニケーションの難易度も低くなる。例えば、もし仮にライザップがブランド拡張をせずに、全く別のゴルフブランド(例えば”ゴルゴ”というブランド)を立ち上げるとすると、「ゴルゴというブランドの認知を広げること」と「ゴルゴが結果にコミットする優れたサービスであると知ってもらうこと」を両方達成しないといけないため、コミュニケーションの難易度が大きく上がる。一方で、ブランド拡張であれば「ライザップは実はゴルフスクールもやっている」という認識を広げるだけで済む。なぜならば、「ライザップは広く知られており」「ライザップは結果にコミットする」というイメージ資産が既に多くの人の頭の中にあり、「ゴルフスクールも結果にコミットしてくれるんだ」という期待を自動的に抱かせることができるためである。
③拡張先のブランドの評判が、既存ブランドにもポジティブに影響する
拡張したブランドのユーザーが、逆に親ブランドのユーザーになったり、既存ブランドのユーザーにとって拡張先ブランドの評価が高かった場合、そのイメージが既存ブランドにも伝搬し、より強固で豊かなブランドイメージとなることがある。例えば、楽天と言えば昔は総合通販サイトが主力であったが、現在は楽天トラベル、楽天銀行、楽天カード、楽天イーグルス、など多種多様な事業領域に拡大しており、しかもどの事業領域でも主要プレーヤーとなっている。そのため、楽天通販サイトユーザーの楽天へのイメージは、通販サイトとしての楽天のイメージ(例えば「安くて品ぞろえが良い」等)だけに留まることなく、「ITサービスを広く展開している企業」「生活を支える巨大企業」など、より抽象度の高いポジティブなイメージを持っているのではないかと思う。楽天レンタカーや楽天トラベル等、拡張先のブランドにお世話になっている筆者は、楽天ブランドに「便利」「安心」などのポジティブなイメージを抱いている。
④ブランド拡張の成功が、将来の売上拡大の選択肢をさらに増やす
これが実はブランド拡張の最大のメリットかもしれない。1つの領域でしか確立されていないが強いブランドと、様々な領域で確立されている強いブランドのどちらが、その後の選択肢が広がるのかを考えてみると分かりやすい。例えば「ソニー」と「ヤマト運輸」のどちらがブランドを活用して事業拡大しやすいだろうか?おそらく感覚的には「ソニー」の方が事業の選択肢は多そうである。これはなぜかというと、ソニーの方がTV、ミュージックプレーヤー、ゲーム、ロボット、スマホ、これまでブランドの領域を広く拡張してきたゆえに「技術のソニー」という抽象度の高いブランドイメージができているためである。一方で「ヤマト運輸」は、物流業界においては誰もが知るNo1ブランドであり、「強いブランド」であることは間違いないが、物流業界以外での「ヤマト」のブランドを一般の方はほとんど知らない。そのため、拡張できるカテゴリもソニーに比べると限定的であると言えそうである。非常に感覚的な議論ではあるが、ブランドがカバーできているカテゴリの領域が広く抽象度の高いブランドイメージを蓄積できているブランドほど、その先の成長の選択肢も広がるのではないかと考えている。
今回は以上である。ブランド拡張の具体例と、メリットを大まかに理解いただけたのではないかと思う。次回は、「実際にどのようにブランド拡張を検討していけば良いのか」「どんな観点で考えるのが良いか」等について執筆をしたい。