【演劇界とお笑い界の違い】
【演劇界と芸人界の違い】
お笑い界、ひいては芸人の世界に入ってみてとても驚いていることがある。
私の所属している養成所には同期と呼べる仲間が多数いる。その半分以上が、既にお笑い経験者だ。浅くとも芸歴3〜4年以上の先輩達。
トレンドの“学生お笑い”経験者もおり、若手お笑い芸人を育成する学校としては将来有望、これ以上ない豊かな土壌と評して差し支えないであろう。
通常であれば、その経験者達が圧倒的なお笑いパワーで同期の新人達を引っ張り、その確かな道筋を示してくれるのがものの道理であるような気がする。
しかしながら、私が飛び込んだお笑いの世界は若干イメージとは違った。
芸人経験が全くない同期生が、それより芸歴が遥かに上回る同期(という名の先輩)に勝ってしまうシーンを度々目にする。
それは、バトルライブのように観客の投票に応じて決まるランキングでの“勝ち”のことを言っているのではなく、単純にネタに対するお客様からの笑い声・返りの大きさのことを指している。
新人のネタが、経験者のそれに明らかに勝る瞬間があるのだ。
これは、お笑い特有の現象なのだと思う。
発想や本人のキャラクター次第では、芸歴10年の先輩芸人にも一矢報いることができる。
そして何より、“笑い”という文化自体が、我々庶民の生活にも強く根付いていることも原因の一つではないのかと思う。
きっと誰しもが、親や親戚・友人や先生を笑わせた経験が一度はあるのだ。
勿論、ネタ作りや平場など多くの経験がものをいう環境では、長い目で観察すると芸歴が上の芸人には到底及ばないのは事実である。
ちなみに、私の古巣でもある演劇・芝居の世界に置き換え比較すると、上述したような事象はまずあり得ないと私個人は断言できる。
〈新人が一人前の俳優になれるまで、3年〉
演劇界でよく使われる文言である。(今でも使われているのかはわからないけれど)
芝居の場合、
新人は発声ができない、その為客席に声が届かない。
台本の読み方も解らない。
舞台上で自由自在に動けない。
それ以外にも、劇場入りしてからの決め事への対応能力も求められる。
演じながらのバミリ移動のコツやサスペンションライトの下で効果的に映える立ち姿の研究、音響に合わせて台詞を言い終える、その技術・感覚の養い方。
それらには全て、数えきれないほどの場数や修練、それなりの年月が必要なのだ。
そして何より大切なのが、集客力。
正直な話、個人の才能次第によっては3年では足りなかったりもする。
演劇界に入って0年目の新人が、芝居を3年続けている俳優に勝つなど余程の事態だ。
なので私は俳優の現役当時、こう言葉を添えていた。
〈新人が一人前の俳優になれるまで、“早くて” 3年〉
こだわりの強い演出家(特に作家業も兼ねている人物)に当たると、新人俳優は最初の一行目から先に進ませてもらえず稽古場で居残りになる、なんて場面もザラに目にしてきた(私もやられた)。
それでもいわゆる“適応能力が高く良い芝居”をするダイヤの原石のような新人は毎年いくらでも現れるのだが、それをプロとして継続することが可能であるかはまた別の話だ。
デビューして僅か1年でレギュラー番組を持つような人気者になれる人。
実力はあるが何年経ってもチャンスも結果も得られない人。
お笑いにしても芝居にしても、芸能界は本当に不公平な世界だ。
だからこそ、多くの人が求めて止まないのかも知れない。
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