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Vol. 12「愛しのホイアン」

「だから言ったじゃないっすか。本当アホっすよね2人とも。」

そう言うと、あべじゅんは帰りのタクシーを拾いに一人前を歩き始めた。こいつ、オオハシと俺が奥に行ったのを見計らって一人こっそりキャンセルしやがってよ。ずりーやつだよ本当。

ただ今回に関しては、あべじゅんの判断が間違いなく正しかったからなんも言えねぇわな。25歳にもなって善悪の判断がつかないなんて、全く情けねー話だぜ。あまりの不甲斐なさに、僕はただただマルボーロを吸っては、大きくため息をつくことしかできなかった。

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結論を言うと、チップとして多額のお金を強面のガードに払わされた挙げ句、窓は鉄格子で塞がれていて電気がつかない部屋で、齢い60は越えている女性と、会話もぜずガードに監視されながらプレイをさせられたのだった。俺は昔の皇室か。

勿論そんな状況下で行うセックスなんて気持ちよくもなければ楽しいわけもない。あまりに僕がイケなかったため、60のおばちゃんが気を遣って僕を興奮させるために、声の出し方を吐息混じりの声の出し方に変えたり腰使いを荒くしたりしてくれたのだが、無論逆効果である。

おかげで僕は更にイクことができなくなり、最後は自分でやれと投げ出され、おばちゃんがガードとタバコを吸う横で、一人何も興奮する材料がない中虚しくフィナーレを迎えるのであった。

しかし、エレベーターに乗った時に聞こえてきた謎の叫び声はなんだったんだろう?お金払えない人に対して脅してたのか、もしくは臓器販売とか、、、?なんにせよ、あのときお金持ってなかったら多分やばかったんだろーな、、、

そう考えると背筋がゾクッとした。後ろをみると、なんだかお店に引き戻されそうな気がしたため、タバコを吸い終わるや否やオオハシと2人、先にタクシーを拾いに行ったあべじゅんのことを小走りで追いかけた。

お金は持っていて損はない。あと、風俗に行くなら日本が一番。この2つを痛切に思わされた、ダナン最終日の夜だった。

「やっぱ海は気持ちいな!!最高最高!!」

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オオハシが一人海ではしゃぐ姿を、バカンスで来ているアメリカ人老夫婦がイチャイチャする横で、怪我で海に入れないあべじゅんと僕は羨ましそうに眺めるしかなかった。

あまりに楽しいのだろう。最初30分だけと言っていたのが時計をみたら2時間経っていた。最初は僕らも冷たいビールを飲んで気持ちよく過ごしていたが、流石に2時間も待たせられると体力気力共に辛い。

おまけにイチャイチャしていた老夫婦もスイッチが入ったのか、公共の場において不適切な音を出し始めたため、あべじゅんと僕は慌てて日除けパラソルから飛び出し、クソほど暑いダナンの昼空の下、1リットルの涙に匹敵する量の汗をかきながら待つことになってしまった。

ちなみにオオハシが海から上がったのは、それから1時間が経った頃であった、、

「ここがホイアンか〜。いや〜予想以上にいい場所だな」

僕らはオオハシが海から上がった後すぐにホイアンへと移動した。ダナンからホイアンは約30km。これまでの僕らからしたら散歩コースと言っても過言ではないくらい短い距離のコースであったため、何にも気を使わず、運転そのものを楽しみながら僕ら一同はホイアンまで移動することができた。

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ホイアンに着くとまずまっさきに僕らが向かった先は、ホイアン名物「カオラウ」が食べれる食堂だ。年間で300食は麺料理を食べる麺研究科のオオハシが、絶対に食べるべきと言うこの一品に、誰が期待せずにいられただろうか、いや誰もいられない。

カオラウが到着した。見た目は上にせんべいが乗っている「ベトナム風ぶっかけうどん」とでもいえば伝わるだろうか。食べてみると、甘じょっぱい醤油ベースに出汁が効いた味付けだ。日本人に馴染み深い「中華そば」の味に親しい料理と思っていただければ想像しやすいのではと思う。ホイアンに行く機会があったらぜひトライしてみて欲しい。まあ一言でまとめると「美味しい」これに尽きる。

カオラウ.011


その後、世界遺産にも認定されている古くて可愛い町並みを、むさくて臭い男3人で散歩した。歩くだけで楽しいと賞されるこの町を歩くと、至るところに出店が並んでいたり、行商のおばちゃんが物珍しいものを売ってきたり、可愛いアオザイを着たお姉さんが誘惑してきたりと、これまで多くの観光客がこの町を「桃源郷」と称し、愛してきたことに納得させられた。

夜になると町一体が美しいランタンに照らされた。海をみるといくつもの船が浮かび、一つ一つ違う色のランタンが装飾されている。町を照らすランタンもいいが、海を照らす無数の船も情緒があっていい。そう思うと、僕の足は自然と海の方に向かっていた。そして気が付けば、夜の町を船上から眺めていた。


「タクロー、これを海に浮かべると願いことが叶うらしいぜ。これで旅の成功を祈ろう」

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オオハシから蝋燭の火が灯る、紙で作られた小舟を渡された。灯篭流しに親しいものかと思ったが、どうやら違く、願い事を叶えるためのものらしい。願掛けが大好きな僕にとっては有り難いものだ。

3人で仲良く「無事にホーチミンまで着きますように」と言い、しっかりと手を合わせ願いを込め小舟を海へと流した。小舟は暗くて何もみえない海を照らしながら、ゆっくりながらも着実に前へと進んでいった。その光景は、見果てぬホーチミンまで先が見えない道を、ゆっくりだが確実に前へと進んでいる僕ら3人と重なった。

小舟さんよ。行けるところまで行ってくれ。大変なこともあるだろうけど、あんたらなら頑張れるはず。波に打ち負かされないようにな!目を瞑り心のなかで必死にエールを送った。

「タクローいつまで祈ってんだよ。話そうぜ」
オオハシの一言でふと我に返った。すっかり祈りに夢中になっていた僕は、周りを気にせず、ずっと目を瞑りながら祈ってたみたいだ。

「わりーわりー、許してくれ。」
話に入ろうと後ろを振り向こうとしたとき、さっきまであった3つの光が消えていることに気がついた。

「あれ船は?」
「船?お前が祈ってる間、とっくに沈んじゃったよ。気づかなかったの?」
あまりの早さに驚いたが、オオハシとあべじゅんはそんなもんだろとケロッとしている。それをみて、僕もまぁいいかと船のことなんてどーでもよくなり、彼らの会話に参加し、ホイアンの夜を最後まで楽しんだ。

「撃沈」に続く

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