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8. 「3日目,4日目」

3日目に入ると、遂に我々が恐れていた高度順応が始まった。高度順応とは、文字通り高度に順応することである。もしこれを行わないで高山を登った場合、高山病になるリスクが極めて高くなる。また、高山病になればチームの迷惑になるだけではなく、最悪の場合自らの命を捨てることにもなり得るのである。だからこそ、少々体に鞭を打ってでもしなければならない、大事な行為であるのだ。もし高度順応についてどれだけ苦しいのかを知りたいという人がいれば、Youtubeで「高度順応」と調べていただけたら幸いである。

今回我々は、約2000m地点のベースキャンプから4000m地点のベースキャンプへと迎い、そこで一晩過ごしたのち4500m付近へと移動し、そこで一晩過ごすという工程の下高度順応を行った。
エベレストやデナリ、またアコンカグアといった、世界の登山難易度が高い山の高度順応からしたら大したことではないのかもしれないが、我々にとってはかなりきつい高度順応となった。まずなにがきついのかといったら、優に20キロを超えるバックパックを背負いながら、1日20~30kmを歩かなければならないこと。それに加えて、リチャードの延々続く猥談に付き合わなければならないこと。
幸い僕はレーガンと話をするよう逃げたため、リチャードと話すという難を回避することはできたのだが、大橋はというと、、、、
ご想像にお任せします、、、

リチャードに捕まり延々話を聞く羽目になった大橋を横目に歩くこと6時間、我々は4000m地点のベースキャンプに到着した。到着するやいなや、体力を使い切りとにかく腹が減った大橋と僕は、日本から持参した気圧でパンパンになった我らが「マルタイラーメン」の封を切り、沸騰したお湯の中に素早くいれ3分待ったのち、思いっきり掻き込んでやった。

本当は溶き卵を入れたらもっと旨いのに、、と少しだけ落胆しつつも、動いた歯車は留まることを知らない。優に3人前はあったであろうラーメンを、わずか5分で完食するという離れ業をやってのけたのであった。
それをみていた我らが料理長「スティーブ」は、自分が作った料理を僕らと同様の速さで食べてみようと試みていたが、猫舌なのか全く早食いができなく、1人扇風機並みの風量で食事に息をかけながら急いで飯にありついていた。

その日の夜。食事後凄まじい疲れと満足度に包まれた我々は、気づかないうちに爆睡していたようで、全員が眠りについたころ目を覚ますという大失態を犯してしまった。なんとかして眠ろうと努力するのだが、一向に寝れる気がしない。

しょうがないから外に出ようとテントのファスナーを開くと、昼間からは想像できないほど強烈な冷気がテント内に入りこんんできた。外にいても中にいても変わらないと思い、思いきって外へ出ると、そこには大量のテントから子漏れ出るうっすらとした明かりと、雲一つない空から注がれる、不純物一つない月明かりが見事にコラボした、幻想的な世界が広がっていた。
まさかこんな景色を見れるとは思っていなかった我々は、もっと高い位置から見たいと思い、テントから100mほど離れた先にある岩間場まで向かい、そこで景色をみようということになった。



歩くこと5分、少し息を荒げながら岩場に到着すると、わが最年少チームメンバーである「ジャクソン」が1人ポツンと座っていた。
ジャクソンは最年少ながら、僕ら二人のことをよく面倒見てくれる優しいやつである。優しすぎて、僕らが彼に煙草をあげていた煙草がなくなった際、僕ら2人のために煙草を買ってくると言い出し、2000m付近から走って下山し、また走って2000mまで登山して帰ってくるということを平気でするやつだ。しかもサンダルでである。アフリカ人の身体能力には、科学の力があったとしても追いつけない。そう心底思った瞬間であった。


彼は僕らにに気づいてなかったようなので「Hey」と話しかけると、満面の笑みで僕らを迎え入れてくれ、一緒に煙草を吸いながら少しだけ話そうということになった。
ジャクソンは色々なことを話してくれた。家族のこと、国のこと、学校のこと、そして今の仕事のことなど。
あまりにも楽しい時間だったため、普段は5分で吸い終わるような煙草を、高所で吸うと1分もかからず吸い終わるように、僕らの30分の会話もあっという間に過ぎていった。
別れ際、「話をしてくれてありがとう」とだけ言いテントに戻ろうとすると、「God bless you!」この一言とまたまた満面の笑みを残し、彼は自分のテントへと戻っていった。
その時の彼の満面の笑みは、僕がテントのファスナーを開けて飛び込んできたあの幻想的な風景よりも、2倍にも3倍にもい美しく感じられた。

さて。いよいよアタックの日まで残り2日。明日も頑張ろう。

次回「アタック、登頂」

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