2016/08/16
13歳の頃。町の外れに小高い山があり、その頂上に廃寺があった。
毎日そこへ通っていた。友人にも知られてない町を一望できる秘密の場所だった。
一度だけ特別だぞと念を押し友人を連れて行ったが全く響かなかった。
2年後初めての彼女を連れて行った。
良いとこねと言ってくれた。何故か涙が出た。
中学一年生の頃は独りだった。
僕の通っていた中学は二つの小学校の進学先だった。
僕の出身小学校と、もう一つは隣り町の小学校だ。
僕は中学進学が嫌でしかたなかった。
「6年間一緒に過ごしたメンバーに、別の学校の連中が紛れ込む」と感じていた。
それを「新しい仲間ができる」などと、ポジティブになれるほど、大人でもなかった。
現状維持バイアスに毒されきった僕にとって、中学への進学は苦痛以外の何物でもなかった。
入学すると、苦痛と葛藤はどんどん加速した。
なれない制服や、初めての教科、子どものままの心と、大人と張り合えるぐらい成長していく身体。
自分が自分じゃなくなるみたいだった。
思春期特有の気持ち悪さは、成長痛の痛みのように大きくなっていった。
部活は野球部だった。
小学校からの野球仲間だけでやりたかったが、そうはいかなかった。
得体の知れない先輩や、理不尽な教師兼監督も含めると、
知らない人たちの方が多いコミュニティになった。
野球という競技は好きだったが、人間関係にガマンできなかった。
次第に部活への参加も少なくなり、僕はその年齢ではやっちゃいけないことを沢山やった。
放課後は知らない町まで自転車をこぐ日々が続いた。
僕の住んでいた町は2,30分も自転車をこげば、タヌキが出るような竹林と川と池ばかりだった。
神戸と言えば都会、港町の印象が強いかもしれないが、
隅っこの実態は何のことは無い、ただのドいなかだ。
だけどいなかの環境は、あのときの僕にはありがたかった。
人間が沢山いる場所にはもう嫌気がさしていた。
知らない町の知らない山を登ると、中腹にさびれた神社があった。
部活をサボった日、僕はいつもそこにいた。
立地も悪く険しい道を通らないと行けなくて、誰も来なくて静かだった。
あの頃、僕は学校や部活という場所から逃げるように、その誰もいない場所にいた。
神社の隣りには『展望やぐら』があり、登ると僕の町が一望できた。
やぐらからの風景はとても綺麗だった。
僕を苦しめた、僕の住む町はそこから見ると箱庭のように小さかった。
町の中で生きる人の心や、今まで起きたこと、これから起きることまでが一望できる気がした。
いろんなことが頭に浮かんでは消えた。
「みんなは泥と汗にまみれて、いまごろ練習してるのかなぁ」
「このまま野球を続けないといけないのかなぁ」
「辞めたら白い目で見られるかも」
「でも俺はいったい、何がしたいんだろう。他にやりたいこともないし」
「そういえば女なんて好きになりたくないのに、中学に入ってから女子ばかり見ちゃう。嫌だなぁ」
「誰とも喋りたくない。みんなが俺を笑っているような気がして怖い」
脈絡無い自分との会話がずっと続いた。
僕は思春期の葛藤すべてを、そこで消化しようとしていた。
携帯電話なんて持っていなかった。
時間なんて分からなかった。
空の色がだいだい色になって、風がつめたくなったら家に帰った。
神社での時間がすごく好きだった。
それを味わいたくて、やるべきことをやらず、やっちゃいけないことに逃げて、僕は自転車をこいだ。
僕は神社の魅力を誰かに話したかった。
我こそは、あの感性を包み込まれて、
全身がアンテナになるような気持ちよさの発見者だと自慢したかったのだ。
とある友人に話した。
部活も同じで、仲もよかった小学校からの友人だ。
熱を帯びて話す僕の話に魅了されたのか、友人はすぐに乗り気になった。
「明日連れてけ」とせがまれた。
翌日、友人を連れて神社へと向かった。
友人は最初は乗り気だったくせに、神社までの道のりが険しくなるにつれ、文句ばかり言っていた。
山道に入ると、「しんどすぎ、もうやっぱ帰ろっかな」と文句はさらに加速した。
「いいから、着けば分かるって」
そう言って僕はズンズン山を登っていった。山道は20分は続く。
僕は慣れたものだったが、友人はキツそうだった。
息も切れ切れに登りきった友人は「うん、まぁええと思うけど、そんなええか?」と言った。
彼に感動は訪れなかった。
僕はそのときは笑ってごまかしたが、すごく哀しかった。
あの頃の僕にとって、あの神社とやぐらは一番大切な場所だった。
学校にいても、グラウンドにいても、家にいても、どこにいても、自分が何者なのか分からなかった。
やぐらに登って、箱庭みたいな町を望んで、自分の心を受け止める、
そのときだけは自分自身を感じられた。
友人の一言で、宝物と僕のアイデンティティは泥まみれになった。
そして僕は神社の話を誰にもしなくなった。
あの場所に感動している自分を、恥ずかしいとさえ思った。
話したかったはずの場所は、誰にも話せない場所になった。
一年後、僕は部活を完全に辞めて、音楽を作るようになった。
学校と神社に行く頻度は激減した。
つづく
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