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経済的自立と早期退職という釣り針

知り合いが「FIRE FIRE!」と毎日のように騒いでいる。ついにダルシムになってしまったのかなと気が気でない。

FIREとは炎のことではないらしく「経済的自立と早期退職」の頭文字だそうな。しかし根っこにあるのは「ここではないどこかに、今ではないいつかに行きたい」だ。

ドラクエみたいなRPG系のゲームには大抵「にげる」のコマンドがある。世の中に溢れるアドバイスも「つらかったらやめろ」「心を壊しそうになったら逃げなさい」「それは〇〇ハラスメントだよ」というものが多くなってきた。

僕は「救急車に乗るまで飲め」や「無事に済むと思ってバンドなんかやんな」などと教えられていたが、あの自分の環境の悪さを時代と共に認識している。

「ガマン」よりも「逃げる」が大衆の声となり始めたし多数派になっている。世論的にはそちらに向いている、または向かせようとしている、または「逃げていいよ」のほうがアクセス数が稼げるという傾向だ。

結果「逃げ」は選択肢としてとりやすいものになったわけだが、大体の「逃げなさい」というアドバイスが「後で自分に跳ね返ってくる」ということまでは言及していない。

たとえば「眠いからバイト休も!」は結局、その分の収入が減るし、そういうやつと思われながらと職場で過ごさないといけない。
「会社がイヤだから辞めよ!」は転職後にその会社と仕事をすることになったり、知り合いの知り合いとかがわりと登場するので、高確率で気まずくなる。
「酒を飲んで辛いことを忘れよ!」は翌日のクオリティを失い、やがて辛さは倍増する。

本人は逃げたと思いきや、中々逃げきれないケースが多い。ネットワーク論的概念でも説明できるが、人間は独立して生きているわけではないため、周囲の関係性から完全に切れるのは難しい。

知り合いの誰もいない界隈に逃亡しても同郷がいたり、独立しても以前の職場の人脈に頼ったり。

「完全に逃げ切る」って簡単ではないのかなぁと思う今日この頃である。実際、逃げ切り世代であるバブル以下のおっさんたちは年金削減やインフレに怯えている。

バンドにとっても「解散」は逃げの要素が相当分含まれている。やはりする前とした後では業界内での関わり方が変わるし、メンバーそれぞれが個人的に仲の良かった関係者なんかは変に気まずい。もちろんズルズル自然消滅するよりはマシなのだが。

「つらいことから逃げるな!」なんてことは言えないし、僕自身思ってもいない。でもこの情報社会では「逃げる」「逃げ切る」ことはできないと思ったほうがよいとも感じている。
考え方次第だけど逃げたらその分だけ、逆に戻れる場所が減るのだ。

これは言い方、考え方に過ぎないのだが「この場はひとまず退かせてもらう……!」とテランにダイを強襲したときの竜騎将バランのような感覚で捉えるほうが良い。

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解散より休止。逃走より撤退。

「情勢が悪いから戦略を練り直してやり直す」というニュアンスがあるだけで、息苦しさがわずかに減る。

FIREの広告が多い令和の世だけれども「これをやれば上がり!」「ここまでやれば終了!」みたいな誘い文句で釣れるひとが多いからだろう。
「ほら逃げたいっしょ?苦しいっしょ?だからこれを買えよ」と侮られているのだ。雑魚扱いされているのだ。もちろん「逃げ切る!」のツケがそこには書かれていない。

「輪廻転生」や「死後の世界」をずっとし続けてきた国の未来の信仰が「逃げ切り」に移り変わっているのはどうにも儚い。

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