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マルチ商法の勧誘を10件以上くらってきた話

よくマルチ勧誘を受ける。回数が十に到達したので共通点や法則的なことが見えてきた。せっかくなのでここに書き記しておきたいと思う。

「マルチって何!?」というひともいるだろうか。ならばこの記事で概念的なものをキャッチしてもらえると嬉しい。

僕が勧誘されたマルチ商品はこれまで
・海外口座?節税的な金融商品ぽいもの
・サプリ
・株取引のシステム的な何かしら
・なんか豪華客船みたいなのに乗れる権利
・健康食品
・すげー浄水器
などがあった。

いろいろなものを勧誘されてきたが、品物は今回どうでもいい。焦点は売買した後の仕組みにある。
下記図のように同じものを他のひとに売れば、僕に売ったひとにも入るのだ。

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MLM、ネットワークビジネス、ネズミ講、バイナリーウンタラカンタラなど様々な呼称があるが大して変わらない(と思っている)。ブリ、ハマチ、カンパチぐらいの違いだろう。マルチだ。

新たな購入者や加盟者を勧誘すると、上層域に利益がもたらされていき、連鎖によって組織や販路規模を拡大する。

ちなみに商品が存在していれば合法、実在していなければ違法らしい。
もちろん勧誘中、離席を引き留めたり複数人で圧をかけるのはそれはそれで別の法に触れる。

合法違法の違いというのはわりと曖昧なもので、たとえば軽音楽部のコピーバンドやコミケの同人誌なども著作権法に抵触しているが、裁かれることはないしグレーな気配すら漂わない。ようは合法違法の境界というのは、刑罰への導線ではなく事実上は「フレーバー」なのだ。

マルチの風は急に吹く。
僕の場合、「会ってほしいひとがいる😄」と言われるパターンが多い。音沙汰のなかった人物がふいに連絡がくるケースもあるが、紹介のパターンがほとんどだ。

ノコノコ会いに行くのだが、フタを開けてみるとほぼマルチである。全部が全部じゃないので会ってみないと分からないが、基本は話がサビに至った頃マルチ化する。ちなみに今週土曜にもZOOMで、あまり親しくないひとから、さらに知らないひとを紹介される。マルチじゃないことを願う。

次にマルチらの生態について書きたい。
マルチたちの勧誘の特色だが、とにかく強引でしつこい、くどい。気が弱いひとなら勢いで「はい」と言ってしまうだろう。

もともと温和だった知り合いが熱狂的かつ、狂乱性すら感じさせる勧誘をしてくると、人格改造の秘術でもあるのかとそちらが気になってくる。

みんながみんなああ言えばこう言うのだ(たぶん僕もそう思われてるだろうが)それぐらいマルチは絶対言い返してくる。というよりも断られてからが勝負なのだろう。

「いらないす、嫌です」「いや、ちょっと待ってよ」という応酬が100%発生するのだが、普通に生きていてもそんなことはなかなかない。

十人から受けた勧誘には他にも共通点がある。

・幸せにしたるで
・不労所得って知ってる?
・ダイモンド、ゴールドとかのランク
・感謝するようになる
・夢はあるか?
・合法だよ

などなど。

そりゃあ幸せにしてほしいし、知ってるし、ダイモンドほしい。感謝もしたいし、夢も希望も明日もないという感想しかない。

僕がいつも引っかかるのは「合法だから」だ。マルチあるあるなのだけれど釈然しゃくぜんとしない。

こちら的には別に違法なことがやらない理由ではないのだ。むしろ合法だから何でもやるわけでもない。
反対に違法だから何だと言うのだ。

みんな未成年者飲酒禁酒法、未成年者喫煙禁止法などを犯すときなどは、「違法だからやめとこ」なんて考えすらない。「違法じゃないからさ!」とノンアルコールビールを飲みながら、18禁のコンテンツに足すら踏み入れない十代と送ってきたのかお前は、と言いたくなる。

もちろん「合法やから何でもやるわけじゃないす」と言えば「そんな無下にしないでまず聞いて!」と返ってくる。僕も「何で無下にしちゃいけないんすか?」ぐらいは返す。「まぁ聞いて」で元に戻ってはしまうのだが。

これも共通して言えることだが、マルチは年上からくらうことが多い。マルチの風は上から下に吹く。
まぁ僕もマルチストになったら、年上よりは年下に声をかける気はするが……先日もかなりの猛攻を受けた。

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この前、呼び出された僕はマクドナルドに入り、隅の席でコーヒーを飲ませてもらえた。奢ってもらえたのでラッキーだった。なぜマクドなのか。

ズラーっグダーっと商材の魅力を語られ、しばらく経った頃に「で、これの広め方なんだけど……」とマルチのベールが明かされた。「あ!マルチだ」と脳より肌が反応するのが分かった。

「あ!マルチじゃないすか!このマルチ!」
「マルチって言うな!ネットワークビジネスだ!」
「ネズミ講みたいなもんです!」
「ネズミ講じゃない!」
「じゃあマルチだろう!」
「ネットワークビジネス!」
「ほぼマルチ!客にしようとしてー!」
「客じゃない!BP(ビジネスパートナー)って言え!」 
「BPはしたくないです!」
「君ならすぐにシルバーになれるんだから!」
「シルバーなんてむりです!」
「やり方教えてあげるから!」
「そもそもなりたないんです!」

マクドナルドの小さな席でこんなやりとりがあった。

マルチをくらったとき、僕は老人ぐらい大声で会話をするようにしているのだが、これは夜道の女の子と同じだ。隣りの家族連れが心底嫌そうだった。

上記のやりとりを読んでも分かるがマルチたちはみんな話がヘタだ。とにかくクソ長くて面白くない。聞いていて心を疲弊させる目的なのかは分からないが、実際つまらなさすぎて疲れる。

「これは本当、大きな話だからさ……そんな一万二万の額じゃないんだって」
「大きくなるか分かんないじゃないすか!」
「いや、もうすごいメンバー揃ってるから……」
「誰!」
「今度紹介するけど、とにかく儲かることは確定」
「じゃあなんでそんな必死なんすか!」
「別に必死じゃないし、これはいい提案をしてるんだよ。夢はあるかい?」
「この話を受けないことです!」
「そんな無下にしないで。声も大きいし興奮しないで。別に断ってもいいんだからさぁ。ちゃんと聞いて」
「おっきい声なんか出してないし!今は聞くことを断りたいです!」
「そんな無下にしないで」
「無下にします!」

みたいなやりとりが僕だけ絶叫気味に続く。

やはり大きな声を出すと疲れる。集中力が切れてきて、途中から「俺だったらどうやって売るかなぁ」などと余計なことを考えたりしてしまう。
いろいろ思考が大忙しになっていくうちに、だんだん「はぁ」と生返事になる。隣りの家族からすると、「コイツさっきまでデカイ声出してたのに急に上の空になってる」と危ないやつに見えたと思う。
ボーッとしていたら「聞いてる……?」とちょいギレで詰められた。

ボーッとしているあいだに考えたことを書いていきたい。

僕がマルチをするなら後輩に連絡する段階で「俺マルチやってんだけど話聞いてくんない?」と言いきる。マルチたちはいつも正体を明かすのが遅い。

そもそも相手にとって言葉の定義は関係ないので、ネットワークビジネスだろうが、ネズミ講だろうがどうでもいい。相手にとってマルチっぽければそれはもうマルチなのだ。むしろ「マルチで何が悪い」と草なぎくんのような堂々とした姿勢で望む方がいい。

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「俺マルチしてる」と最初に告げておくメリットは二つある。

もし相手が会ってくれるならば、「何でマルチやってんすか笑」と向こうから聞いてくれること。もう一つは人間関係が壊れにくいことだ。

「マルチの勧誘だと思わなかった」という展開はやはりどこか「騙された」という気になる。これは良くない。

それならば「マルチやってる人間を実際、生で見てみたい。あいつ洗脳とかされてんのかなぁ😌」とちょっとした怖いもの見たさで会ってもらう方がマシだ。現実的にマルチの勧誘を受けたいひとは少ないが、マルチ野郎のエピソードトークに興味があるひとはけっこういるんじゃないだろうか。ほら、あなたもこの記事を読んでいる。「マルチの話」に興味があるからだ。

そして席に着いてくれた末、「へーけっこういいすね」となるか「大変すね。アディオス。このマルチが」に着陸するかは分からない。相手の状態によるだろうが、失注したとしても変に人間関係を壊しもしなさそうだ。

『マルチや宗教の勧誘で友だちを失う』という逸話はあちこちに散らばっているが、あれはやられたひとがウザイ思いをしたからだと思う。友人がマルチをやっていても飛び火がないならば、別にかまわないはずだ。

こんなことを考えていた。話をマクドナルドの店内に戻す。

ディベートは苛烈していき、僕たちは店内中の視線を集めることになった。僕自身、まったく照れはなく、こういうときステージに立ってきて良かったと思う。

「何でやらないんだ?」
「だって嫌なもんは嫌!やだやだやだ!」
「幸せになりたくないのか」
「なりたい!」
「じゃあこれをやろう。すぐシルバーに」
「俺は幸せになることはできません!」
「一緒に幸せになろう。諦めるな!」
「二度と俺の前に姿現すな!顔面ぶん殴るぞ!」

で終了した。奥の女子高生が笑っていた。

これから死ぬまでのあいだに「一緒に幸せになろう。諦めるな!」と呼びかけてくれた年上に対して「二度と俺の前に姿現すな!顔面ぶん殴るぞ!」と言い放つことがあるだろうか。

僕たちは一緒に席を立たなかった。
「もういいよ……」と言われて僕だけが店外へと向かった。
振り返ると、マルチのひとは寂しそうに「バイトクルー募集‼️」みたいなトレイの紙をぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨てていた。いたたまれない気持ちになった。

なんであんなことまでしなくてはいけないのだろう。生きていくのは大変だけど、大変な生きることをもっと大変にしていないだろうか。
マクドナルドの外では子どもが笑いながら走り回っている。その楽しそうな声が遠くにあるように聞こえた。

数時間後に電話がかかってきた。

「今日はごめんね……マルチして」
「いいすよ……もう、べつに」
「ありがとう。もう誘わない」
「分かってくれたらいいです」
「ちなみに……これは提案なんだけど……上層部にならない?加盟金だけで入れるように取り次ぐよ。こういうのって結局、上しか儲かんないんだからさ……」
「このマルチが!さっきはよくも上しか儲かんないようなもんの下にしようとしたな!シルバーなんてけっこう下だろ!」
「いや!シルバーは誰でもなれるわけじゃないんだ!」
「マルチの親玉なんかなるか!」
「マルチって言うな!幸せになれないぞ!」
「ならんでいい!」
「いや、ちが、そうじゃな」
ぷちん。

で電話を切った。

自分より年上の人間がマルチの話をしてくると、痛ましくて世知辛い気持ちになる。怒りよりは哀しい、哀しいよりは無惨という言葉しかない。
電話越しの「お前は幸せになれない」というわりと本当にそんな気がしてくるお告げが鼓膜にべったり張り付いて苦しかった。

マルチをやれば幸せになれるなら、マルチ現役バリバリのひとたちは幸せなのだろうか。少なくとも勧誘をくらった後、心を叩くと哀しい音が鳴る。知らないけれど、たくさん勧誘に成功したからと言って、決してこの音が豊かに響くことはない気がする。

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