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キミが人を惹きつける理由

冷房が効きすぎた部屋に身震いし、手探りで身に纏える衣類を探す。手に触れた毛布を引っ張りミノムシのようにくるまった。

少し寒いくらいの部屋で毛布にくるまり2度寝。

なんという幸せな時間...。

しかし、普段と違う肌触りの毛布に違和感を感じ目を開ける。

「あぁ、昨日泊まったんだった。」

となりで寝息をたてる"あなた"をみつけると同時に、生活感の薄い部屋が視野の片隅に入り込みあなたの話を思い出した。


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「髪切った?」

休憩室で少し遅めのお昼ご飯を食べている時、突然聞こえたその言葉に視線をあげる。入り口のドアから顔だけ出してこっちを見ているあなた。

「前髪だけね」と返事をすると、「ふ〜ん」とだけ言って扉が閉まる。

「気づいてたんだ」と思うと同時に「初めて話したな」と思った。

年下かな?同い年かな?と思ったら4つも年上だったあなたは今では私の理想のお兄ちゃん像。

あなたはいつも何かを考えている雰囲気があって、冷静で、だけど冷たさを感じさせないように立ち振る舞う。申し訳ないけど頑張っている雰囲気もあまりない。

以前かなり忙しかった時に段取りの確認を上司にしたかったんだけど、案の定不機嫌極まりない雰囲気だったからあなたに聞いたんだ。答えが返ってくるかわからなかったけど上司には聞きたくなかったから。

すると、「えっとー、今こーなっててこーだから次がこーで、あの人がこーすると思うから、それはこーかな」って。返事にびっくりしたけど、自分では状況が見えていなかったので、その通りにした。

「キミよりも局面しか見てなかったし、自分も上司に聞きたくなかった。なのにそれを年下の女の子にさせるのは人としてどーなんだって思うしね。」

「いや、私が先輩だけど。」

「先輩とか関係ない。あの不機嫌な人からの八つ当たりは目に見えてたでしょ?そして、明確な指示が出るとも考えにくい。」

「まぁ、それは確かに。でも、あの忙しさのなかぱぱっと返事が来たのはびっくりしたよ!」

「あー言ったけどそれで合ってる自信はなかったし、あの時の不正解は2つ。場の流れを止めること。チームの雰囲気を崩すこと。
判断は早いに越したことはないから、その場の状況を判断し、さらに先を予想することは必須。」

「うむ」

「なんならあの話をしている最中も自分の手が止まってるから絶賛マイナス生産中。もっと言うとキミの手も止まっていたからマイナスがダブルパンチ。
指示が合ってるかどうかわからないけど、キミは動けばしっかりやる子だから何かやらせることが先決。」

「動けばってなんなのよ」

「しっかり褒めてるんだよ」

「ホントかよ」と言いながらも目が見れなかったのは照れてたから。

「だからそれっぽい流れを説明して、あとは自分が言ったように流れを作りにいけば今のキミのようなことを感じることは当たり前のことだよ。」

図られたのか、、、。

「場の雰囲気もとても大切だから怒る人は邪魔だし、八つ当たりされて縮こまるような人もキミのようにイラつく人が出来上がることはマイナスの何者でもない。だから俺が指示して俺が少し頑張ってその場を言った通りの流れに持っていけば誰も文句を言わないってわけ。」

なんか私ディスられてません!?!?!?!?と思いながらも仕事終わりに話した内容には納得感があった。

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私は"我が強い"方だと思う。というか、高校を卒業して就職した接客業では丁寧に教えてもらうなんて経験を全くしなかった。
自分で全て調べるか、メーカー担当者に聞くかの二択で、先輩や上司と言える人たちは単語や専門用語しか返してこないので、とにかく自分でやり切る!以外に生き抜く術はなかった。

おかげでメンタルは多少強くなったし、知識も仕事のやり方もかなり身についた。しかし、やっかいなことにめんどくさい仕事から逃げる上司の尻拭いなども押しつけられるようになった。
そして冒頭の"我が強い"は身につけないと何でもかんでもやらされるため、いわば防衛本能的に身につけた性格ともいえる。

その職場で半年前に異動してきたあなたは、もともとの性格もあるだろうけど、年齢は下といえども社歴で先輩である私にも敬語で物腰柔らかに対応してくれた。

だからこそさっきの「髪切った?」も「ふ〜ん」も異動したてよりは敬語などが減ってきたのかな?と。とはいえども意外な会話であった。

そんなところからなぜ一夜を共にする関係になったかを説明するのは長くなるし思い出しても恥ずかしいだけなのでしない。

でも関係をもってもいいかなって思えたのにもしっかりと理由がある。私が彼に対して思うことはおそらくだいたいの女子たちは同意してくれると思う。

あなたはいわゆるイケメンだろうし、人当たりも柔らかいから誰とでも仲良くなれるだろう。でもそれは薄い関係の人だけ。関係が深くなると見えるあなたは心の闇は表の姿が強いがために色濃く映し出される。

私の他に何人の人があなたのその姿を知っていて、"もっと知りたい"という思いを持っているのか。わからないしそんな野暮な質問をすることは自分の格を下げるような行為だし、彼への執着の象徴となってしまう。

うーん、、、。と起きた直後から頭を使いすぎた。脱力したいって思い、寝返りを打った先に目に入った無造作に落ちている服やら下着やら。

昨日をしっかりと思い出し、「色々とどーすんだよ!!」ってまたさらに頭を使いそうだったから包まった毛布をさらに巻きつけ目を瞑った。

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