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事業開発企画を成功させるには、「自分を疑う勇気」が大切。フジイユウジさん【事業のTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。第4回は、多分野で新規事業の企画を手がけるフジイユウジさん。

小売業界での新規事業の企画やデジタルマーケティングの経験を下地に、2011年に独立したフジイさん。

国内最大のクラウドファンディングサービスを提供するCAMPFIREの執行役員を経て、現在は、上場企業からスタートアップに至るまで、さまざまな企業の事業企画に携わっています。

さまざまな企業から、「新規事業を一緒に考えてほしい」「事業が成長するための企画がほしい」というお話が舞い込んでくるフジイさん。そんなフジイさんは日々、どんなふうに企画を考えているのだろう?

フジイさんは、「企画とは、山頂まで登り切るルートを描くこと」と言います。
山頂を目指す過程では、「ヒアリングの罠」や「企画する人が陥りがちな自家中毒」といった、いろんな困難がある。その上でフジイさんは、「自分を疑う勇気を持つことが大切」と教えてくれました。

企画とは、山頂まで登り切るルートを描くこと

──スタートアップから上場企業まで、さまざまな新規事業の立ち上げに携わるフジイさんは「事業の企画」をどのように捉え、どのようなプロセスで考えているのでしょうか?

僕が関わるチームではメンバーに対して事業を登山に例えることが多いです。その山の頂上が事業の目的だとしたら、一番最初に取りかかるのは、「山頂に至るには何が必要か?」という登山ルートを決めて、そのルートを構成する各マイルストンの中の最初のマイルストン(※)に全力で取り組むことです。

※マイルストンとは……計画の中に設けられた、大きな節目。インタビュー内では事業の成長見通しにおける必須の状況を意味しています。

まず、登山ルートの決め方ですが、いま現在の状態から山頂までの差を考えて、登っていくために絶対に通る必須のマイルストンは何かを考えます。現在から各マイルストンを通るとしたらどんな状態になっていなければならなくて、そうなるには時間や努力がどのくらい必要かを考え、ロードマップを引きます。あくまで計画時点で見えていることでしかありませんので、登りながらいろいろなことを学習して、ときにはマイルストンも変更して通るルートを変えていくことになります。山頂が変わることがなければ学習したことを活かして最適なルートに変更しながらアタックし続けることができます。

次に、ルートを決めたあとに踏む、最初のマイルストンについて。ルートを決めても、最初のマイルストンに到達する以外のアクションもやろうとしてしまうチームが多いですが、ともかく一合目といえるマイルストンに到達することだけに集中することが大切だと僕は思います。

例えば、まだサービスやプロダクトの価値を高めないといけない段階なのに、「今すぐ売上を立てて」と偉い人に言われるがままに短期で営業を頑張ってしまうことで目指していたルートから外れ、遭難するようなケースはよくあるんです。そういったことを避けるために、山頂に向かう到達点としてのマイルストンをしっかり設定して、「今すぐやらないといけないことは何か」と「自分たちはルートを外れずに山頂を目指しているか」を確認しながら登っていく必要があるんです。

──最初のマイルストンも含め、山頂に到達するために、辿るべきマイルストンを見極めることが大切なのですね。しっかりと山頂に届くマイルストンを見極め、そのマイルストンが置かれたルートを選んでいくための考え方を、もう少し教えてください。

事業を企画する多くの人は、「いま数字になりそうなこと」や「やれば何か起きそうなこと」をやろうとして短期目標に設定する人が多いんです。それが正しいルートであれば問題ありません。しかし、先ほどの例のように、今すぐ売上を目指すべきではない事業で、いつの間にか営業的成果を目指すルートに変わってしまったり、営業やマーケティングに全力を尽くすべきときにサービスの機能開発ばかりしてしまうなんてことは、たくさんあります。ですが、それだと運まかせになりやすいと僕は考えています。

僕は、そういうふうに「とりあえず動きだす」よりも、「狙って小さく動いて、狙い通りかを確認する」の方が、カイゼンを回せると思っています。もちろんは狙い通りにいくことばかりではないのですが、そこは当然、学習と改善を繰り返して適切なルートを選び続けられるようにすることが、事業開発には何よりも重要だと考えているんです。

小さな上手くいったことを積み上げて成功するイメージを持っている人が多いと思いますが、そのイメージで事業をやると「すぐに成果がでそう・上手くいくとわかることしかしない」になってしまう。山登りでずっと同じ高度をぐるぐる歩き続けて「たくさん動いた」といっても、山頂に向かっていることにならないのと同じで、行動量だけ増やしても山頂には着かないんです。

ルートを決めずに、つまり仮説を立てずにとりあえず登ってみるとか、そのルートが山頂に到達するために必要かどうか考えずに何かの数値目標を積むとか、そういうことに自分やチームが逃げないようにする。そうやって学習と改善を繰り返しながら、次のマイルストンに向かうルートが山頂に続いているのかを確認することで、柔軟にルートを変えながらも、ブレずに山頂を目指すことができると思います。

「ヒアリングの罠」を抜け、ペインを見つける

──事業企画が狙ったゴールにしっかり到達するために、学習と改善を繰り返しながらルートを選んでいるフジイさんですが、具体的には、事業企画する上でどんなことを大切にして山頂から外れないルートを選んでいるのですか?

事業企画やUXデザインをやっている人ならば常識ではあるのですが、「ユーザー自身は自分のことをわかっていない」という前提に立つようにしています。

──と、いいますと?

たとえば、猫も杓子もDXという時代性あってのことだと思いますけど、「ペーパーレスのプロダクトをつくりたい」という相談がよく来るんです。でも「そのユーザーは本当にお金を払って、かつ業務を変えてまで、紙をなくしたい必要性を感じているのかな?」と確認や調査をするようにしています。

それで実際にヒアリングしに行くと、「ペーパーレス、いいですね」とは言われるんです。ただ、そのあとにこちらが「じゃあ、今日から月額◯円で今から使えますけど契約いかがですか」とまで言うと、ヒアリングしていた相手は「それはいりません」と回答するんです。それまではいいですね、と褒めてくれていたのに。

あくまでもヒアリングした事例の場合ですが、お金を払う価値がないって思われていることがわかるんです。お金を払うほどの価値を感じてくれているのかどうか、ここに気づけないでユーザーの「いいですね」だけで価値を決めてしまうのが「ヒアリングの罠」です。褒めてくれたことで企画者が受け入れられていると勘違いしてしまう。

──ユーザーの表面的なニーズだけで「この企画は価値があるんだ」と判断を早まらないことが大切なんですね。

事業企画をするときに重視したいのは、「あれば便利な機能」という「ニーズ」だけではなく、「お金を払ってでも解決したい」という「ペイン(痛み)」のほうですね。企画をするとき、「自分と同じ感覚になってくれる顧客がいるはずだ」という観点を持つのは大切だけど、それがユーザーにとってお金を払ってまで解決したいペインとイコールかは別なので。そして、どうしたらユーザーのペインを見つけられ、そこに届くのかを考えるには、ユーザーの本当の声を聞くことが大切です。

企画する人は“自家中毒”になりやすいから、徹底的に疑う

──フジイさんは、事業にとっての適切なルートを見つけるにおいても、ユーザーにとってのペインを見つけるにおいても、どうやってその本質を見極めているのか気になります。

僕自身も、「最高だね」と企画を褒めてもらっただけでユーザーの実際の利用にはつながらなかった経験を何度もしてきました。そういった過去の失敗から学んで大切にしているのは、とにかく企画する自分自身を疑うこと。そもそも企画をする人は、自家中毒になりがちなんです。みんな企画してるときって、「このサービスはイケてる」って思いたがる。僕自身もそうですけど、自分が企画しているものはいいものだって思いたいじゃないですか。

──本当の批判、本当の声を聞くのを恐れていることの裏返しでもあるような気がします。

まさにその通りです。でも、本当の声に耳を傾け、そこへ目を向けないと、山頂へは登れない。

──その一方で、ヒアリングの罠があることで、本当の声にたどり着くのも簡単ではないように感じました。フジイさんはどうやって本当の声をキャッチしているのでしょう?

僕がよく使う手法は、すでに完成しているテイで企業やユーザー候補に売り込みにいきます。「ところで来月からこういうサービスを月額いくらで始めますが、御社、おいくらだったら利用していただけますか?」というような形で。

単に企画として聞くと、相手は事業やサービスを「いいアイデアですね」と評価者目線で見てしまうんですけど、「これ買いませんか」と確認することで当事者目線で見てもらえるようになります。

──なるほど。企画を実現するためには、相手を評価者にするのではなくお客さんにする、と。第三者の本当の声を聞くことは、自己陶酔しすぎないストッパーにもなっているように思います。

事業をやる上で、自分たちは山頂に登れるんだと自分を信じる心を持つことは、大前提で大切なことだと思います。「自分はできるんだ! やり切るんだ!」という強い気持ちがないと心が折れちゃいますからね。それがあった上で、「自分が信じていることは本当なんだろうか?」と己を疑う勇気が必要ということです。

疑うってネガティブに聞こえるけど、ネガティブに捉える必要はないんです。それは山頂に登り切るために必要な過程だから。自分が今できてないこと、埋めるべきポイントをポジティブに疑えるかどうかが、企画のスケールの大きさに関係なく大切なことだと思います。

■プロフィール

フジイユウジ
2011年に株式会社バンダースナッチを創業。2014年にブランド製造とアパレル製造プラットフォーム「STARted」を立ち上げ、2016年に株式会社CAMPFIREへの事業譲渡と同時に同社執行役員として参画。スタートアップから上場企業まで様々な新規事業の企画や事業のグロースに携わる。

取材・文:小山内彩希
編集:くいしん
撮影:大坂千晶