みんなの“いいとこ取り”が企画を成功に導く。SCHOOL OF LOCK!プロデューサー・大橋竜太さんのチームづくり【ラジオのTAKURAMI】
テレビや映画、音楽、漫画やアニメなど、私たちの身の回りのエンタメ一つひとつが、誰かひとりの仕事ではなく、いろんな人たちの仕事から生まれています。
パーソナリティのセンスに意識が集中しがちなラジオ番組においても同様です。
番組コンテンツの「企画」と言うと、プロデューサーやディレクターに焦点が当たりがちですが、多くの企画はチームプレーによって成り立つものです。
民放のラジオ局が提供する番組はほとんどがスポンサー収入によって制作されるため、広告主企業のマーケターや媒体社の営業担当、広告会社のプランナーも関わります。そして一人ひとりの背負っているものは、業種や立場によって異なります。
だからこそ、「WIN WIN な関係というか、“いいとこ取り”をしないと企画ってそもそも成り立たない」とTOKYO FMのプロデューサー・大橋竜太さんは言います。
10代に人気の“未来の鍵を握る”ラジオ『SCHOOL OF LOCK!』をはじめ、プロデューサーとして多くの番組を手がける大橋さん。
いろんな人の思惑が絡み合う中で、大橋さんはどうやって、みんなのいいところを引き出し、いいとこ取りな企画へと落とし込んでいるのか?
チームでひとつの企画を成功させるヒントは、どこまでも人と人との仕事であることを前提とした「他者との向き合い方」にありました。
対立を乗り越えチームにならなければ、いい企画は生まれない
──「プロデューサー」という仕事は、テレビやラジオ、映画、音楽、あらゆる業界で、制作物の「総責任者」の立場ですが、ラジオプロデューサーは具体的にどんなことを考え、取り組む仕事なのでしょうか。
よく建築を例にして、「ディレクターは大工で、プロデューサーは設計士のような仕事」と言われています。
ラジオのディレクターは放送作家の役割を兼ねている人も多く、実際に現場で手を動かしてつくる人であり、番組内の企画の責任者でもあります。プロデューサーは、番組全体の責任者。「こういう番組をつくろう」「こんなコーナーを設けよう」のように、予算管理も含めてディレクターよりも大きな視点で番組を考える仕事です。
僕はSCHOOL OF LOCK! は立ち上げの2005年からディレクターとしてチームに入り、現在はプロデューサーとして番組を見ています。SCHOOL OF LOCK! のようなワイド番組(週に複数回放送)から週一回のハコ番組までを、ひとりのプロデューサーが複数担当するのがTOKYO FMではスタンダード。
僕らは民間の放送局なので、番組には当然ながら企業からの提供がついていたり、企業の与件を背負ったコーナーが存在します。
とはいえ企業のメッセージや商品をそのまま伝えるだけではCMになってしまうので、「どうしたらエンタメとして面白く聴いてもらえるか」を考えなければいけないし、それをスタッフと一緒につくり上げていくのがプロデューサーの腕の見せ所だと思っています。
──エンタメとして面白い聴き物をつくるために、大橋さんがプロデュースする際に心がけていることはなんでしょうか。
ワンチームになることです。
ラジオに限らずどんな仕事でも、立場の違いから利害が対立することは起こりがち。面白いものをつくりたい制作側とクライアントの要望を叶えたい営業の対立、プロモーション担当と製品開発の対立……でもそうやって対立しているうちは落とし所が見つからなくて、結局いいものができないことが多いんです。
誰も傷つけずに丸く収める三方一両損じゃないけど、うまい具合の落としどころを探りながらいいとこ取りをしないと、いい企画にはなりえませんよね。成功していると感じる番組は、それぞれ背負っているものや立場は違えど、チームとしてどう成功させるかをみんなが一緒になって考えることから生まれていると思います。
例として僕が立ち上げた番組を挙げると、SUBARUさんが提供の『SUBARU Wonderful Journey 〜土曜日のエウレカ〜』。
「ラジオの強みである『ゲストトーク』と、リスナーの想像力に委ねる面白さがある『ラジオドラマ』のいいとこ取りをしたい」と立ち上げた企画です。架空の旅行会社・Eureka Drive Corporationのドライバー(麒麟・川島明さん)が、時空や空間を超えてゲストの思い出の地をドライブしながらエピソードを聞いていく設定。
架空の場所とリアルの場所をシームレスにつなぐことで、SUBARUさんの想いでもある「どこかに出かけたくなるような番組」を目指しました。
企画を生み出す仲間集めも、他者への理解から始まる
──いろんな思惑を持った人たちとワンチームになり、“いいとこ取り”をした企画に落とし込むために、一人ひとりにどんな心構えやアクションが必要でしょうか。
立場が違う人たちによる対立は、物事を自分の目線だけで見ていることから生まれます。「制作だから制作のことだけ考えていればいい」のように考えるのではなく、相手の立場や思っていることを汲み取ろうとか、許し合おうとする姿勢が大切だと思っています。
営業から「ここはお得意が外せないと言っている」のように言われたとき、「それじゃつまんないよ」と突っぱねるのではなくて「じゃあそれを踏まえて何ができるか考えよう」というような姿勢でありたいですよね。信頼関係ってそうやって育まれるものだと思います。
──汲み取り合うことや許し合うことも含め、大橋さんがプロデューサーとして日頃スタッフに伝えていることなどはありますか?
僕は、番組のスタッフには細かいところまでは言わないんです。ヤクルトや楽天などプロ野球の監督を歴任した野村克也さんがいつだったか「監督がすべきことは指導じゃなくて気づかせること」のような話をされていたことがあって、とても印象に残っています。
気づかせてあげて、「あとは自分で頑張れ」とすることによって、その人が自ら試行錯誤して成長していく。僕もプロデューサーとしてそれに近い考え方でありたいし、誰かをチームに誘うときは「気づいたあとは自分で試行錯誤する人」を誘っていますね。
結局、つくるのは人。だから人への理解が大切だと思っています。僕はチームをつくるとき、「この人はこういう癖がある人だからこの企画ならうまく回りそうだな」のように人となりを理解し、その人が入ることでチームがどうなるか想像してお誘いすることが多いです。
──企画を生み出す仲間集めの段階から、大橋さんの「企み」があるんだなと感じます。
番組の演者にしてもそう。SCHOOL OF LOCK! で演者さんを選ぶときは代々、リスナーの中高生に対して熱を持って本気で喋れる人を選んでいます。
中高生が大人とフラットな目線になって、本音で話せる機会ってありそうでない。だからこそ学校の先生や親の目線ではなく、同じ目線で対等に喋ることをずっと心がけているんです。
その時々の「普通の経験」が、企画の元ネタになる
──他者への理解や想像が、誰の思いも損なわず、“いいとこ取り”な企画につながっていくとわかりました。SCHOOL OF LOCK! を通して日々学生と対話する大橋さんが、10代や20代に企画のファーストステップを伝えるなら、どんなアドバイスを送りますか?
企画を一般の人たちに広く届けるという視点であえて言うなら、「普通の感覚」を持っておくのは大切なことですよね。
バイトや部活、「告白してフラれる」でもなんでもいい。その時々にしかできない普通をしっかり経験しておけば、それがいつか広く届く企画の元ネタになると思います。
──大橋さんが今後、ラジオというメディアを通してやりたいことはありますか?
SCHOOL OF LOCK!は今年3月に、『春の文化祭 キズナ祭 2023 supported by Yamaha』というイベントを開催したのですけど、2500人キャパの会場に1万人を超える応募をいただきました。
ラジオって他のメディアと比べてリスナーとの距離が近くてコミットメントの強いメディアだと思います。その中でリアルなイベントを企画したらやっぱり会場のお客さんはほぼ全員リスナー世代の10代で、演者の方々も普段ラジオを通じて言葉を届けている人たちの顔が見れて思うところがあったそう。すごく熱量が高いイベントだったんですよ。
なので、今後はSNSやリアルの場をもっと使って、今まで番組を知らなかった人、接点がなかった人たちにアプローチしていきたい。TikTokなどSNSにショート動画を上げていこうと準備中です。Mrs. GREEN APPLEやアイナ・ジ・エンドなど、人気のアーティストが番組をやっていることも、知らない人は知らないので。
ラジオって人の温度が伝わるメディアだし、聞き始めてもらえれば癖になってずっと好きでいてくれるよさがあるんですけど、「音だけしかない」ことが特に若い世代にとっては「物足りない」と受け取られる時代でもあると思うんです。
だからこそ僕らの方から積極的にアプローチしていかないといけないし、今まで届いていなかった人とどう接点をつくっていくかはまさに、プロデューサーの企みとして考えていきたいことですね。
■プロフィール
大橋竜太
TOKYO FMのプロデューサー。1999年に早稲田大学を卒業後、株式会社エフエム東京に入社。『SCHOOL OF LOCK!』、『SUBARU Wonderful Journey 〜土曜日のエウレカ〜』、『リリー・フランキー「スナック ラジオ」』『いいこと、聴いた』などを担当。SCHOOL OF LOCK!には、番組が立ち上がった2005年からディレクターとして関わり、現在はプロデューサーとして担当。
取材・文:小山内 彩希
編集:くいしん
撮影:飯本貴子