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現代人が身体や心の不調を抱えるのは「遺伝子」が理由かもしれない|後編

こんにちは。ニシムラタクミです。前回に引き続き現代に生きる人が抱える「健康の悩み」についてのその原因と対処法を解説していきます。

前回の記事をまだ読んでいない人はこちらから↓

前回のnoteでは「身体の不健康」について解説しました。しかし、人が抱えているのは身体の健康の問題だけでなく、「心の健康」についてもあると思います。(むしろ今はこっちの方が多いかもしれません。)

この記事では、現代に生きる僕たちが抱える「心の不健康」について、遺伝子・進化の観点から解説していきます。

人々が心に抱く不安の正体とは?

「将来が不安」、「日々の仕事の中でいつもストレスを抱えている」、「ちょっとのことでイライラする」などの『心』に関する悩みは誰しもがあると思います。

人にはなぜこのような「不安」、「イライラ」の感情があるのでしょうか?このような感情の原因は脳の扁桃体といった部分に原因があります。

扁桃体とは人の脳に備わっている警戒システムで、自分の身に何か危険が降りかかった際に、その危険に備えるように体に指示を出します。このような「アラーム機能」がストレス反応として現れます。

ただし、このシステムは人類が誕生した600万年前にできたもので、目の前に現れた猛獣から逃げたり、茂みの中にいる怪しい生き物を回避するためにできたものです。つまり、自分の命を守るためのシステムです。

現代では猛獣に襲われるなどの、命が危険にさらされるような事態はまず起こりません。しかし、「上司に怒られた」、「陰口を言われた」、「いい会社や大学に入れなかった」といった、扁桃体が「危険」と感じるもの全てに反応し、アラームが鳴り続けている状態なのです。

豊かになるほど鬱病が増える?

鬱病とは明確な定義はないですが、「何に対してもやる気が起きない」、「ずっと暗くて、重い気持ちが続く」、「喜びや興味といった感情がわかない」、「何かと疲れる」といった症状が鬱病であると言われています。

今の日本ではおおよそ10人に1人が鬱病経験者であると言われており、国の調査によると、鬱病患者の数は1996年には43.3万人でしたが、2017年では127.6万人と、年々増加しています。

しかし、よく考えてみれば不思議な現象でもあります。科学の発展により生活はどんどん便利になって、人が抱える「負」は解消されていっているのにもかかわらず、心に「不安」を抱える人は増え続けているのです。

この現象は海外の研究でも明らかにされています。2006年にアメリカの大学が行った研究によると、ナイジェリア郊外の、いわゆる発展途上の地域に住む人達と、アメリカ都市部の近代化した地域に住む人達の鬱病の傾向について調査したところ、アメリカ都市部の人達の方が、2倍も鬱病にかかりやすいといった結果がでました。

鬱病の原因はまだ明確にはされていませんが、先ほど説明した扁桃体のように、現代に生きる人たちの「心のシステム」が現代の生活に適合できていないことが1つの原因ではないかと考えられます。

文明が進んでいる国ほど「不安」が大きい

2013年のワシントン大学の調査によると、不安障害(精神的な症状が出る疾患の中で、不安を主症状とする疾患群をまとめた名称)を患う人は世界で13人に1人の割合であると示しています。

2017年にWHOが26ヵ国行った調査では、不安障害の患者数は国の近代化のレベルと相関があるということがわかりました。つまり、文明が発達すればするほど、人々は不安になるのです。

この、文明化による「不安」は「ぼんやりとしたはっきりとしない不安」といえます。文明が発展すればするほど、暮らしは豊になりますが、その結果選択肢が増えすぎて様々な不安を抱え込んでしまうのです。

不安は人に様々な悪影響を与える

「ぼんやりとした不安」は単純な負の感情といっただけでなく、僕たちに様々な悪影響を及ぼします。

①記憶力の低下
2013年にインドの研究機関が行った調査によると、常に何かしらの不安を抱いている人は、脳の海馬という部分が萎縮する現象が見られました。海馬は記憶や学習能力に関わる器官で、慢性的な不安はそれらの能力に悪影響を与えます。

②判断力の低下
僕たちには「欲望」とは別に「理性」があり、衝動的な欲望に掻き立てられても、理性のおかげで合理的な選択をすることができます。しかし、不安感が強い状態だと、脳内で様々な反応が連鎖し、より原始的な脳の働きが優勢になります。その結果、欲望を制御できずに、非合理的な判断をしてしまうのです。

③死期が早まる
日常的に不安のレベルが高い人は心疾患や脳卒中のリスクが29%も高いといった調査結果があります。はっきりとした原因は明らかにされていませんが「不安が強い人程、自分を律することが難しく、規則正しい生活を送れていないからではないか」と推測されています。

④余計に不安を感じやすくなる
不安は脳の扁桃体という部分がアラームを出すことによって感じると説明しましたが、このアラーム機能が常にONになっていると、必要以上にアラーム機能が敏感になり、些細なことでも余計に不安に感じるといった悪循環を招きます。このような負の連鎖がやがて精神疾患につながり、最悪の場合、命を落とすことになります。

原始人にはぼんやりとした不安はなかった

原始人は現代と違って生きる目的がはっきりしていました。それは長く生き延び、子孫を多く繁栄させることです。

そのために、食糧を確保し飢死しないようにする、猛獣に襲われて殺されることを回避する、といったようにやるべきことが明確だったのです。

もちろん原始人にも「食糧が十分に確保できない」、「猛獣が近くにいる」といった不安はあったかと思いますが、生きる目的が単純である分、不安自体もはっきりとしており、やるべきことが明確であったのです。

現代はどうでしょう?食べ物は十分にありますし、命の危機にさらされることも滅多になく、「生きていく」こと自体に不安を感じるような人はほぼいないでしょう。

しかし、逆に生きるための不安がないからこそ、「どのように生きるべきなのか」といった哲学的で正解のない「ぼんやりとした不安」を抱えてしまっているのです。

ライフスタイルは複雑化し、生きる目的は人によって様々です。「お金持ちになる」、「有名になる」、「好きなことをずっと続ける」など、価値感の多様性が存在しますが、その分生きていくのに迷いが生まれてしまいます。

原始時代は「その日1日を生きる」といったことに意識を集中させていましたが、多様な価値観の中で僕たちは5年後や10年後、はたまた何十年先にどう生きるかといったことにまで意識が及び、遠い未来に対するぼんやりとした不安が生まれるのです。

ぼんやりとした不安を解消する「価値感」

生き方が多様化した結果、遠い未来に対してぼんやりとした不安が生まれると説明しました。「明日やることだけをただ考えればいい」のであれば、不安は生まれないと思います。

つまり、このぼんやりとした不安を解決するためには遠い未来を明確にイメージできるようにできる必要があります。そして、遠い未来をできるだけ明確にするということは、生きる目的・価値観を定めるといったことです。

原始人のように、とまでは行かないかもしれませんが、生きる目的をはっきりとさせることでぼんやりとした不安は減らせるのです。

価値観を明確にすることでポジティブな影響があることは、研究でも示されています。2014年にアメリカの大学が行った研究によると、「価値観を持って生きているか」という質問に「はい」と答えた人は、「いいえ」と答えた人よりも、14年後の死亡率が15%も低い傾向がありました。また、「はい」と答えた人ほど、健康的な食事や運動を日常的に行っていたようです。

さらに、2015年のこちらもアメリカの大学の調査によると、価値観をもって生活をしている人は年収と貯金額が多く、「人生の価値」の強さが標準偏差から1つ高くなるごとに、貯金額は244万円ずつ増えました。

人生の価値観はどのように定めればよいか

では、人生の価値観はどのように決めればいいのでしょうか?人生における価値観の考え方の1つに「ACT(アクト)」というものがあります。

ACTは「アクセプタンス&コミットメント」の略で、不安な感情への対処法を学ぶと同時に自分の価値観を定め、自分の行動を変えていくための、心理療法です。

ACTでは価値とは「個人のさまざまな外的または内的世界と関わり持つ際にわきあがる確信、迷いなくゴールを達成する際の動機付けとなるもの、などから構成される特定の心理的現象」と定義されています。

かなり難しい言葉で定義されていますが、簡単にいうと「人生をより良く生きるためのモチベーションの源泉となるもの」みたいなイメージだと思います。

この価値観は、「お金持ちになりたい」や「有名になりたい」、「社会的地位が欲しい」といった表面的なものではありません。お金や地位、理想の仕事、愛する家族、などの全てを手にしたと仮定した上で、その状態で人生で何を行いたいか、それが本当の価値観と言えます。

人生の価値観を探るための「価値評定スケール」

人生の価値観を見つけるため手法はいくつかありますが、代表的なのがミシシッピ大学が開発した「価値評定スケール」です。医療現場でも使用されており、鬱病や不安障害の治療にも効果を発揮している手法です。

この価値評定スケールでは人生における重要な12の項目について、自分自身がどのように行動したいのかを1~2行の短い文章で書き込んでいきます。

それぞれの項目に対し、そこまで深く考える必要はなく、パッと思いつたものを書くので問題ありません。

<価値評定スケールの12の項目>
①家族
家族の中でどのように振る舞いたいか、家族とどのような関係性を築きたいか、理想の自分だったらどのように家族に接するか

②結婚・恋愛
親密な相手に対してどのようなパートナーでありたいか、相手の個性をどのように育てたいか、どのような関係性を作りたいか、理想の自分だったらパートナーにどのように接するか

③子育て
どのような親になりたいか、子供とどんな関係を築きたいか、子供と接する中でどんな個性を育てたいか、理想の自分だったら、どのように子供と接するか

④友人・対人関係
どのような友情を育てたいか、友人関係のなかに自分のどのような個性を活かしたいか、自分が相手にとって最高の友人であればどのように振舞うか

⑤キャリア・仕事
仕事のどのような点に重きをおいているか、仕事をもっと意味のあるものにするためにはどのようにすればいいか、今が理想の自分の状態であればどのような資質を仕事に活かしたいか

⑥自己成長
もっと知りたいことや習得としたいことはないか、学習や教育において自分が大切にしていることは何か、自分が成長するためにどんな資質を活かしたいか

⑦余暇・レジャー
どんな遊びをしてみたいか、自分がリラックスできるものは何か、どんな時に楽しい気持ちになるか、新しく参加してみたい活動はあるか

⑧スピリチュアリティ
宗教、大自然、宇宙のような「人智を超えたもの」に対してどのような関係を築きたいか、どのような哲学的な疑問に興味があるか

⑨コミニュティ・社会生活
どのようなコミニュティの一員でありたいか、地域社会にどのように貢献したいか、自分の居場所をどのように作りたいか

⑩健康
身体の健康について何を大切にしているか、自身の身体をどのようにケアしたいか

⑪環境
地球の環境について何を大切にしているか、環境改善で貢献したいことはあるか

⑫芸術
絵画、音楽、文学、アートとどのような関係を築きたいか、どのような芸術が好きか、参加してみたい芸術活動はあるか

それぞれの価値感を書く際のポイントして、「目標」と「価値」は異なることを意識してください。

例えば、キャリアの価値において、「企業の社長になる」では単なる目標となります。価値とはその奥にある、「事業を通じて社会に価値を提供したい」といったことなどです。

この価値観に対する記入が終わったら、それぞれの項目について、今度は「重要度」と「一致度」を10点満点で採点します。

・重要度:それぞれの価値観について、自分の人生にどれくらい重要か。点数が高いほど重要。
・一致度:過去1ヶ月を振り返って、自分がどれだけそれぞれの価値観にもとづいた行動をとれたか。行動をとれていれば高い点数をつける。

この採点で、重要度と一致度の数字が近ければ、自分の人生の価値観を大切にして行動していると言えます。逆に数字が離れていれば、自分の大切なものに背を向けて生きているということになり、日々の不安やストレスは高まります。

この「価値評定スケール」の作業をやってみることにより、自分の価値観と自分がどのような行動をとるべきかか見えてきます。

価値観を定めるのは難しい?

価値観を定める手法として、「価値評定スケール」を紹介しましたが、実際に作業をしてみても『何かしっくりこない』といったケースはあると思います。

価値観を定めるのは簡単なことではなく、そもそも人間の脳には価値観を定めるといった機能は存在しないので、仕方がないことでもあります。

そのような場合は、いったんは「最大公約数」的な一般的な価値観を採用してみるのもいいと思います。多くの人に当てはまる価値観を設定するだけでもメンタルが安定することもあります。

アメリカの大学が約20万人分のデータを調査した分析によると、人間はこの4つの価値観を大切にするといった傾向があるようです。

・自治:自分の人生をどれだけ自分自身でコントロールできるか
・多様性:仕事や人間関係に多彩さがあること
・困難:人生でやり遂げることに適度な難易度があること
・貢献:自分が他者の役に立っているかどうか

この中でも飛び抜けて影響が大きいのが「貢献」です。自分の行動が他の人にいい影響を与えられているかどうかは、人にとって大切な価値観であり、幸福に大きな影響を持ちます。

自分が何を大切にすべきかわからない場合は、この4つ、その中でも「他者への貢献」を意識し行動することで、人生のモチベーションが上がるかもしれません。

畏敬の念が心の不安を和らげる

人生の価値観を見出すことは、長期的に心の健康状態をよりよくする方法ですが、短期的に手っ取り早く、メンタルケアを行う方法もあります。

2015年、アメリカの大学の研究チームが200人の大学生に日誌を手渡し、毎日の感情の変化を記録してもらうように指示をしました。学生には「嫌な思いをした」、「楽しかった」などの感情を細かく記載させた上で、研究チームはその感情の内容と被験者の体調の変化を比較しました。

その結果、「畏敬の念」を感じた回数が多いほど心理的な不安や体内の炎症レベルが低いということが分かったのです。

畏敬の念とは何か自分の理解を超えるような、ある意味超常的な現象に触れた時に湧き起こる感情です。壮大な自然の景色を見たり、オリンピックで世界記録が出る瞬間を見た時など、何かすごい瞬間に巡り合った時に起こります。

スタンフォード大学の研究でも、被験者に壮大な山や海が映った映像を見せたところ、その人たちの人生の満足度が上がり、チャリティへの寄付を行う気持ちが増えたという結果が出ています。

この畏敬の念を身近で感じることができる方法が「自然」、「アート」、「人」の3つです。自然の中を歩いたり自然の映像を見てみる、音楽、映画、絵画などの高い創造性に触れる、過去・現在の偉人たちの生き方を知ってみるなどの方法で、畏敬の念を感じることができ、心の不安を和らげてくれます。

今ここに集中するためのマインドフルネス

マインドフルネスといった言葉を聞いたことがある人も少なくないのではないでしょうか。マインドフルネスとは「今この瞬間にだけ意識を集中させている状態」のことを指します。

マインドフルネス状態になるための代表的な方法として瞑想があります。瞑想は科学的にも効果が証明されており、精神的な疾患の治療にも用いられています。

アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究によれば、1日30分〜40分の瞑想を8週間ほど続ければ、精神的な疾患に対して、薬物治療と同等のレベルの改善効果がありました。その上、副作用もないので、非常に効果的な手法と言えます。

マインドフルネスになるための瞑想の方法については、ここでは割愛しますが、今のこの瞬間に意識を集中させることにより、未来のぼんやりとした不安から解消され、精神的な不安を減らすことができるのです。

さいごに

現代では「ストレス社会」といった言葉をよく耳にしますが、まさしく文明の発展により、僕たちはストレスを感じやすい環境に身を置いているのだと思います。

精神的な病は中々自分では気づかないことが多く、症状が重くなって気づく場合が多いです。そして気づいた時には心だけでなく、身体にも悪影響を与えます。

このようなストレスに無理に争うのではなく、自分たちが何故ストレスを感じるのかを理解し、うまくこの社会に適合していくことが大切です。

未来のぼんやりとした不安のためにストレスに耐えなが生きるのではなく、自分の人生の価値観を見つけ、それに向かって行動をしてみれば、人生がより良くなると思います。

2回に渡って「現代人の健康」について解説してきましたが、個人的にも健康というのは人生を楽しむためのベースとなるもので、絶対に欠いてはいけないものだと思います。

現代人ならではの病を理解し、少しでも何かが改善すれば幸いです。




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