映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を3回観た(初見〜3周目の感想)
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を観てきた。
公開初日に観て呆然としながら二日後にまた観に行き、今週末もまた観た。
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』はドラマ『岸辺露伴は動かない』の劇場版だ。
この実写ドラマシリーズをとある(2020年の)年末にNHKでやっているのを見たのが全ての始まりだ。
(記事を書いている6月現在、Amazon Prime Video見放題対象になっている)
当時の私は「ジョジョって有名な漫画だよね」「岸辺露伴って誰か知らないけど、Twitterで話題になってるしなんか面白そう」くらいの興味本位で見始めた。
だが、それを観たが最後、岸辺露伴が出てくるというジョジョ4部が気になってアニメジョジョを一気見し、漫画も8部まで全部読んでしまい今9部もリアルタイムで追いかけている。
端的にいうと沼にハマったわけだ。
そんな人間が今回、この映画を観に行った感想を(ネタバレ有りで)綴っていこうと思う。
折角3回も観に行ったので、初見の感想と、2回目以降の感想とを分けて書いていこうと思う。
初見の感想を摂取して健康になりたい映画鑑賞済みの人間向けのブログだ。
↓あらすじは映画公式サイトにあるので見てください。
というか映画観てない人はこんなブログ読んでないで今すぐ劇場で観てくれ〜〜
追記:2023/9/22よりAmazonプライムビデオでも配信が開始されたのでこちらも何卒...…配信だと一時停止しながら見られるので良い
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CGVX76SP/ref=atv_hm_hom_c_E6DOit_16_1
初見の感想:露伴のようで、露伴でない
さる2月、「岸辺露伴実写映画化!!」という情報が解禁された。
わたしは映画化に合わせ出版されたJCコミック版の『岸辺露伴、ルーヴルへ行く』の原作を読んで、映画の公開を楽しみにしていた。
...…実を言うと、コミックを読んだ感想は結構「……?」という感じだった。
面白かったしホラー・サスペンスとしては「動かない」シリーズと同じくらい好き。
でもなんか違う感じ。
ジョジョのようでジョジョではない、露伴のようで露伴ではない、そんな感じがした。
そんなことを思いつつも劇場版公開の日を迎え、ウキウキで劇場に足を運んだ。
まず感想としてはとにかく絵面がいい。
最初の故買屋の薄暗さ、ラグジュアリーなオークションの場面、風情ある旅館の過去編、そして曇り空のパリ、荘厳で美しいルーヴル。夏の夢のようなラストシーンまで。
というかボウタイを締めた岸辺露伴のビジュアルが良すぎる。ルーヴルの絢爛豪華な装飾の中にいても全然浮かないって何????
でも過去編の青年期露伴に関しては、どうしてもここまで、ジョジョ原作やドラマ版の高橋一生演じる露伴を観てきているので「これが……若い露伴……?」という違和感のようなものがあった。
原作と違うとか映画の作風に合わないとかそういう意味ではない。
淡くほろ苦い思い出の中の、若くてまだ青い露伴、というイメージには忠実で、完璧すぎるくらいだ。でも自分が知ってる露伴じゃない、という感じ。
というか、どう成長したらこの純朴な青年が捻くれまくった性格の悪い露伴になるんだ。
それに対して、原作にない要素ではあるが、作品の軸となる「黒い絵」を巡るサスペンスという要素はすごくいいと思った。
モリスの描いた黒い絵を通じてルーヴルに導かれていく、そこで絡まっていく露伴の過去、という、奇妙な縁を感じられるストーリーは面白かった。
(原作の過去編からいきなりルーヴルに降り立つ露伴、という荒木先生の漫画にしかない勢いも、もちろん好きだが)
それから編集者・泉京香というキャラクター。
泉編集は、ドラマのレギュラーキャラではあるが原作には出てこない。
が、怪異に取り憑かれない(避けられる)+ウザいくらいお気楽という彼女の性格が、このエピソードでは邪悪な絵の「闇」に対して「光」になっているのがとてもいい。
彼女にも、父親が5歳で亡くなっているという過去がある。それでも過去に囚われていなくて前向き、というのが、「過去に囚われる」というこの映画が持つ重い雰囲気を、ちょっとだけ救いがあるものにしている。
それから、「邪悪な黒い絵」を描いた絵師、山村仁左衛門とその妻奈々瀬の過去の掘り下げがあるのもよかった。
血縁による因縁、というのはジョジョでは頻出のテーマだ。
露伴の直接の先祖は奈々瀬で、仁左衛門は血のつながりはないが、「(絵に執着して)踏み越えてはいけないラインを踏み越えて酷い目に遭う」運命を見ると「岸辺露伴の先祖だなぁ」という感じがする。
急に主演: 高橋一生の時代劇始まって「は⁇」って思わず(心の中で)言っちゃったけど。
2回目の感想:揺れ動く感情と表情
映画を一回観たあと、圧倒的な絵面の良さと色々衝撃の展開でどことなくふわふわしていたので、そのすぐ後に2回目を観に行った。
同じ映画を2回見ると1回目は「どうなっちゃうんだろう」というハラハラで見逃してた部分が見えるようになって良い。
個人的にちょっと気になってた点も解決できた。
過去の回想でルーヴルのキュレーターが黒い絵を撮りに来る前、なぜ奈々瀬は「黒い絵はルーヴルにある」って言ったのか。
その直後、露伴のおばあちゃんが「買い手が決まってたはずなのに古物商がいなくなった」って言っていて、奈々瀬がそう言った時点で既にルーヴル行きが決まってたってことか……
過去編を改めて観てみると、光の使い方とか、ピュアで美しい若露伴、しっとりした雰囲気の奈々瀬とか、印象的なシーンが多い。
個人的に好きなのが、若露伴が奈々瀬をヘブンズドアで読もうとしてやめるシーン。
奈々瀬を抱きしめて、そっと顔に手を伸ばすけど、ふと手を止めて、穏やかな表情になってそのまま手を下ろす。
「いや、この人の心を覗き見るのはやめておこう」って台詞はないのに、これだけで全部伝わってくる。
終盤、現在の露伴が奈々瀬をヘブンズドアで読むシーンもあったけど、こちらもよかった。
読もうとして躊躇って、奈々瀬がそっと手を頬に持っていって目を閉じる。
でもまだ躊躇っていて、しばらくの間のあと、とても優しい声で能力を発動させる。
この間が、成長した露伴にとっても彼女は「心の中を見てみたい、でも見てしまっては憧れが崩れてしまう」存在というのが伝わってくる。
それから、ルーヴル地下倉庫での一連のパニックのシーン。
初見では気づかなかったが、確かにカットが変わるごとに蜘蛛の巣がどんどん増えていってる。
最初は真っ黒な絵にしか見えなかった「黒い絵」から、炎に照らされて女の人の顔が浮かび上がってくる演出もすごい。
徐々に「黒い絵」の正体がわかっていくのに合わせるように、絵に描かれているものが段々見えるようになり、正気を失っていく人々の中で最後に残った露伴がその絵を直視した時の、静寂。
初見の時もゾワッとしたけれど、何回見てもこの場面はゾクゾクする。
あとやっぱり、自分がやばい怪異に手を出してしまったことに気づいてビビりまくる露伴はめちゃくちゃ面白い。
露伴先生、ビビると声がわかりやすく震えるし、「ああ、やってしまった...…」みたいな後悔の表情を浮かべてるの面白い。全部自分から首を突っ込んだことなのに...…
3回目の感想:滲み出る「露伴」
3回目は白状すると入場者特典のイラストカードに釣られて行ったのだけど、3回観ても新たな気づきがあったし面白かった。
まず、流石に3回も観たので青年期露伴への違和感というかがかなり和らいでいる。
青いしどう考えても今の露伴より素直で良い子(?)だけど、漫画への熱、作品に対する誇りが言葉の端々に感じられる。
岸辺露伴というキャラクターは、「動かない」シリーズなど色んな短編に出ている。
基本的な性格は変わらないものの、その度にその時々の行動や言動が結構変わっている(原作を読んだ時や初見の時の違和感は、おそらくそれが原因だと思う)。
でも、漫画を描くためなら何でもするという点は芯として変わってなくて、その点(とあのバランみたいなヘアバンド)が、どこに出てきても「あ露伴だ」と思わせる部分になっている。
↑「岸辺露伴は動かない」の各エピソードも、実は描かれた時期や媒体はバラバラで面白い。
岸辺露伴というキャラクターに対する「こうでなくては」という思いを一旦脇に置くと、「こういう面もあるのでは」と思えてくる、そういうキャラクターではないだろうか。
とまあ色々ごちゃごちゃ書いたけれど、この映画の露伴は、台詞回しや細かいポーズの一つをとっても「あ、露伴だ」となってびっくりする。
ジョジョの台詞あるある「『鉤括弧』が多い台詞」を各語のアクセントで表現していたり、立ち方や座り方など、一つ一つの動作に『説得力』がある。
泉編集も(彼女の「ウザさ」に観る側が慣れたのでそうは思わないだけで)最初に見た時の「なんじゃこいつ」感は台詞や動作のどこかに現れている。
固定化された『キャラ』、というよりも、「立ち居振る舞いから『キャラ』が滲み出ている」という感じかもしれない。
オークションで大人気なく絵の値段を釣り上げ、普段は態度がでかいのにルーヴルという場所に敬意を払い、好奇心の赴くまま黒い絵の謎を追いかけ、でもその根っこには若い頃の思い出があったりする。
最初感じた「これが露伴......?」という違和感が、「ああこれも露伴だ」という納得感で回収されていく。そんな風に感じた。
...…という具合で、同じ映画を3回も観た人間の感想日記をここまで書いてきた。
映画だけでなく、関連書籍も大概買ってしまったので私はもうダメです。ビジュアルブックが良すぎて夜しか眠れない。
↑ビジュアルブック
まだ上映中なので一回観た人もまだの人も是非劇場に観に行ってください。
※追記
6月9日からオーディオコメンタリー付きの上映もあるということで、まんまと4回目を観に行った。
美術や音響、衣装の話やその他色々な撮影裏話も面白かったし、「そんなのコマ送りで見ないと分からんよ」という細かい隠し要素も聞けてとても良かった。
意外に役者さんが、自分の役を一方引いたところで観ているというか、「こんな編集はいやだ」「ここの露伴意地が悪い」という風にツッコミを入れつつ見ていたのが面白かった。
あと、高橋一生のトークが面白すぎてシリアスな場面でも笑いそうになっていたので、オーディオコメンタリーは2回目以降に観るのをおすすめする。
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「動かない」ドラマシリーズ、敢えて一つ選べと言われたら「くしゃがら」回が好きです(とらつぐみ・鵺)