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姉と旅して何が悪い

2012.03

2012年、3月。
暦の上では春だけど、桜が咲くにはまだ早い。
大学進学を機に岐阜県の田舎町から名古屋に出てきて、二年が経っていた。

二年間の大学生活を経て、わかったことがある。
どうやら現実世界にはテレビドラマで描かれるような華のキャンパスライフなんてものは存在しないらしい。
単位を落とさない程度に授業に出席し、ぼっちを回避できるくらいには交友関係を築き、必要最低限のお金を稼げるほどにバイトをして...
振り返れば、可もなく不可もない平凡な大学生活を送っていた。

春の陽射しはズルい。僕をベッドに縛りつけて離さない。
窓際にベッドを置いたのはミスだったかもしれない。ベッド中心の生活に拍車をかけている気がする。
なんでこんな季節に長期休みを作ったんだ日本政府。

そんなことを考えながら、いつもと変わらず二度目の眠りにつこうとしていた僕を非難するかのように、電話が鳴った。









ねぇねぇ、カンボジア行かない?



電話に出た僕に、開口一番そう告げたのは姉だった。
なんてふざけた誘い方だろう。「コンビニ行かない?」みたいな温度感で海外旅行に誘ってくるんじゃない。
しかも、僕はそれまでに海外に行ったことがあるわけでもないし、「海外に興味がある」と話した覚えもない。
あまりにも唐突過ぎる。





は?行く





なんてフッ軽な弟だろう。と自分でも思う。
会話開始から10秒もかからずにカンボジア行きを承諾する弟なんて、そうそういない気がする。
(でも、意思決定の早さはむしろ見倣って欲しい。いいかね、諸君。行きたい、と言い続けているうちは、行くわけがないのだよ。直感で「行きたい」と思ったら「行く」。これが大事。)


行くと決めてからは早かった。
パスポートを持っていなかった僕は地元に帰省しパスポートを取得。
パスポートを手に入れたら息つくこと無くビザを取得。
着々と渡航の準備を進めていった。


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このカンボジアへの旅行が僕にとって初めての海外旅行で、姉との初めての海外旅行だった。




2019.05

一般的には、社会人になると海外旅行に行く回数が減るらしい。
お金の面では学生より潤う反面、連続した休みを取りづらい、というのが理由らしい。
実際に社会人になって4年、それを身を以て経験してきた。








ねぇねぇ、トルコ行かない?



そう、姉である。いっかい落ち着いてほしい。
お互い社会人になっているというのに、この姉はいつまで学生気分でいるんだろうか。
そんな簡単に誘いに乗れr





は?行く





仕事を言い訳に海外旅行にいけない、と言っている人たちにはぜひ見倣ってほしい。
旅をしやすい会社で働いている僕はさておき、姉は普通の会社員だ。なのに、姉から誘ってきた。しかも、期間は一週間を予定していると言っている。なんなら姉は一年前の夏にもアメリカへ旅行していたし、冬には台湾にも旅行していたはずだ。姉を見ていると「社会人になると海外旅行に行く回数が減る」というのは幻想なんじゃないかと思いたくなる。
(この文章を書くにあたって、姉にどういう仕組み?と聞いてみたら「いい?休みは貴重なの。持てる全ての休みを注ぎ込んで、ようやく旅行に行けるの。旅行には、それだけの価値がある。」と返ってきた。尊敬に値するわ。敬礼。)

それはさておき、デジャヴみたいなやりとりを経て、無事に(?)姉と二回目の海外旅行に行くことが決まった。




2019.06

ひとつだけ、知っておいて欲しいことがある。
ここまでの文章の流れ的に、僕と姉はさぞ仲がいいのではないか、と勘違いしている人がいそうだけれど、違う。仲は悪い。
カンボジアの写真を二枚載せてみたけれど、どちらも僕のソロ写真なのには理由がある。めちゃくちゃ探したけど、ツーショット写真が無かったのだ。本当に仲が良い兄妹なら一枚くらい撮っていそうなものだけれど、無かった。「ふたりで海外に行く!」と言えば親が全力で止めようとするような、そんな兄妹。でも、二度も「行く」と即答してしまった僕は馬鹿なのだろうか...




2019.07.31

気付けば、7月も終わりに近づいていた。
5月に航空券を買ったにも関わらず、僕は何も準備をしていなかった。
渡航日は8月13日、今日からちょうど2週後だ。
今回の旅では行きも帰りもモスクワを経由することになっていて、わざわざトランジットの時間が長めのフライトを購入していた。ロシアも満喫しちゃおうプランである。我ながら頭がいい。
ふと、気付いた。ロシアに入国する、ということはビザが必要になる。そう、ビザが必要になる。ビザが必要になry

ビザ取ってねぇーーーーー!!!!!!!!!!!!!

やっぱり馬鹿だった。「我ながら頭がいい。」とか、寝言は寝てから言って欲しい。めちゃくちゃ焦って姉に連絡したら「え?私もう取ったよ?」らしい。どんだけだよ姉氏。弟は今やっと気付いたっていうのに。
調べてみると、トランジットのビザは最短3日、10,000円で取れるらしい(文章作成時)。渡航2週間前までに申請してたら無料だったらしいけど、もはや8月と言っても過言ではない今、四の五の言ってられない。
早速、在日ロシア連邦大使館のサイトからビザの申請をしようとフォームを埋めていく。そして、知った。ビザ発給のために大使館領事部に赴くには、事前予約が必要らしい。んでもって、その事前予約、すぐ埋まるからまず予約できないらしい。




オワタ/(^o^)\




いやいや、ふざけている場合ではない。
行きも帰りもトランジットに24時間確保している。
その時間をずっと空港で...?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ困る困る困る困る困る困るこまry((((;゚Д゚)))))))



お願いだよモスクワぁー泣
ロシアに入国したいんだよ僕わァー泣



いやいや、韻を踏んでいる場合ではない。
焦りながらも冷静に、僕は打開策を探した。諦めてなるものか。トランジットでロシアに入国してこそ、今回の旅は完結するのではないか。
助けて何卒お願い何卒助けて何卒お願い何卒助けて何卒お願い何卒助けt......ん?

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ロシアビザセンター...?
これはもしかして......???

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いけるゥーーーーー!!!!!!!☆〜(ゝ。∂)☆〜(ゝ。∂)☆〜(ゝ。∂)☆〜(ゝ。∂)☆〜(ゝ。∂)☆〜(ゝ。∂)

なんだよもう、めちゃくちゃ焦ったじゃん。
代行料金として追加で4,500円?払う払う!!!なんてったって救世主だからね!!感謝してもしきれないよありがとう!!!!!!!!

東京に住んでてロシアに行く予定があるみんなー!!!
直前でビザ取ってないことに気付いて焦ってるみんなー!!!
そんな時はロシアビザセンターで取るといいよ!!!!!
直前でも丁寧に対応してくれるよ!!!!!

これでもう怖いものなどない!!!
待ってろロシア!!!待ってろトルコ!!!!!




2019.08.13 at Tokyo

出発当日、僕は成田国際空港にいた。

地元からはセントレア(中部国際空港)の方が近いけれど、成田発のフライトの方が安かったから東京で待ち合わせすることになったのだ。


...「待ち合わせ」だなんて、彼女との海外旅行デートかと勘違いしそうな言葉をチョイスしてしまったけど、待ち合わせ場所にくる来るのはもちろん姉である。

姉と合流する前に海外用ポケットWi-Fiの受け取りは済ませていたし、合流さえしてしまえば、空港ですることなんてチェックインくらいだ。(言い過ぎ

ちなみに、今回利用したのはグローバルWi-FiさんのポケットWi-Fi。
めちゃくちゃ便利だったので、気になった方は下記のサイトからチェックしてみてください。このサイト経由だと割引あります。宣伝です。




2019.08.13 at Moscow

時差っておもしろいなって思う。
10時間近く飛行機に乗っていたはずなのに、モスクワについた時、日付的には4時間しか経っていなかった。
地球よ、今日も元気に廻っているのだな。

ということで、無事にモスクワに到着しました。

待ちに待ったトランジットタイムなので、そそくさと入国審査ゲートに向かいます。(入国審査ゲート周辺、めちゃくちゃ内装が綺麗だから写真を撮りたくなる人絶対いると思うけど、あそこ撮影禁止エリアなので気をつけてください。)
対応してくれた入国審査官のお姉さんがめちゃくちゃ顔立ちが綺麗で、めちゃくちゃガン見してしまったら、めちゃくちゃ怪訝な顔されましたごめんなさい。
なんか話しかけてくれたけどロシア語はさすがにわからん!ごめん!
これで、ひとまず、入国だ!!!!!!










って思っていた。
実際の僕は入国できていない。
お姉さんがパスポートを返してくれない。
僕に好意を抱いてしまって足止めしているわけでもなさそう。
え、怖い怖いやめてよ
って思っていたら、お姉さんがパスポートを返してくれた。
No」っていう言葉と一緒に...........


No...?!?!?!?!?!?!!!


いやいやなんでやねん!
ちゃんとビザ貼ってありますやん!
なに!ビザの種類間違えたの?!!
いやいやちゃんとトランジットやん!!
なに!ダブルのビザだとダメなの?!!!
いやいやそんなわけなかろう!!!
なん!で!!だよ!!!
「Why?!ロシアンピーポー!!!!」だよ!!!!!


って感じに「Why?!」って言ったら、冷静に日付をペンで指された。


いや、うん。
だからちゃんと8月13日やんか!!!!!!!

って感じに「Why?!」を連呼してたら、冷静に日付をペンで指された。(2回目

なに、間違い探し始まっちゃったの?!
日付はちゃんとあっt.............

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血の気が引いていくのがわかった。
「あぁ、血の気が引くってこういうことか。小説みたいだな...」
なんて感傷に浸っちゃうくらいには冷静になった。


今年、2019年やんけ...
なんで2020年の日程で発行されてんねん。
未来生きちゃってんじゃんよ。
でも、思い返してみれば焦りながらフォームを入力していたあの時、「2020」と入力していた気がしなくもない。

.......


お姉さんも僕が気付いたことを察したみたいで、出発ロビーへの行き方を説明し始めた。ロシア語で。(わからんて

い、いや、でもさぁ!!!
ビザの申請するときに航空券も出したよ?!
それ確認してから発行してくれたよ?!?!!
てゆーか、下の日付見てよ!!2019になってるよ!!!!!
なのにダメなの?!!!?!

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みたいなことを拙い英語で必死に喚き散らす僕。落ち着けよ。
半泣きになってんじゃん。落ち着けよ。

救いようもない状態になっている僕を見兼ねてか、お姉さんは別の入国審査官を呼んだ。今度の審査官はお兄さん。

お兄さんも顔立ちが綺麗ですね。助けてください。

そんなことを願っている僕に向かって、お兄さんは「ちょっとコッチついておいで」と言って事務所を指差した。ロシア語で喋ってくれるもんだから実際はなんて言ったのか知らんけど。

事務所の前に着くと、「ちょっとここで待っててね」と事務所に入っていくお兄さん。
お兄さんだけが頼りの僕は待ちます。忠犬になれるのではないかと思うくらいに、じっと待ち続けます。




10分が経ちました。
お兄さんは出てきません。でも、お兄さんだけが頼りの僕は待ちます。忠犬になれるのではないかと思うくらいに、じっと待ち続けます。




30分が経ちました。
お兄さんが出てくる気配はありません。でも、お兄さんだけが頼りの僕は待ちます。忠犬になれるのではないかと思うくらいに、じっと待ち続けます。




1時間が経ちました。
お兄さんは僕の存在を忘れてしまったのでしょうか?出てきません。でも、お兄さんだけが頼りの僕は待ちます。忠犬になれるのではないかと思うくらいに、じっと待ち続けます。





1時間半が経ちました。
人間、1時間半も放置をされると感謝の気持ちが薄れるようです。僕は忠犬になることは出来なかったのだと己を憐れんでいたその時...


お兄さんが出てきた!!!


犬だったら尻尾振りまくってんじゃないかというくらいに喜びを全身で表現している僕に、お兄さんはスマホを向けてきた。

君を入国させることは出来ない。
日本の大使館にも連絡してみたが、「入国させなくていい」とのことだった。
残念だけど、我慢してくれ。

ですよね!!!わかってた!!!
大丈夫だよお兄さん!僕、泣かない!!!

にしても、Googleさんは本当にすごい。
アプリを入れているだけでロシア語を英語に変換出来てしまうのだから。
ところでさ、お兄さん。なんで英語やったん?そこ日本語でよかったんちゃう???



こうして僕の24時間空港滞在が決定した。
冷静になった今、ようやく気付く。


あ。姉もう入国してしまってるやん


そう。入国審査でモタつく僕を横目に、姉はさっさと入国審査を済ませてしまっているのだ。
とりあえずLINEで連絡を取ろうとしてみる。


「...この空港、Wi-Fiがねぇな??????????」


正確には、シェレメーチエヴォ国際空港には空港Wi-Fiが存在する。しかし、その認証方式はSMS認証。要するに、電話が使える状態じゃないとパスコードを永遠に受信できないのである。


(・∀・)


(・Д・)


オワタ/(^o^)\



ヤッベェよ!!!連絡取れないじゃんwwwwwwww
24時間空港にいなきゃいけないことよりそっちの方が事件である。
でも、こうなってしまった以上、仕方がないので、最終手段に手を染める。

退けば老いるぞ
臆せば死ぬぞ

データローミング、オン!!!


説明しよう!
海外でSIMを入れ替えたわけでもないのにデータローミングをオンにするということは、高額請求を覚悟したということなのである!
そう、僕は大人の男になったのだ。

機内モードを解除するや否や、姉にLINEで発信する。




ハハッ。出ない。
思わず○ッキーになっちゃうわ。

かと言ってなぁ...
どうしようもないしなぁ...
姉も海外初めてじゃないし大丈夫だろ、うん

てか疲れたなぁ...寝るか

( ˘ω˘ )スヤァ...


みたいな冗談を脳内で繰り広げていたら、本当に空港の椅子で寝ていた。
目が覚めたのは、iPhoneが震えていることに気付いたからである。






「よ゙がったあぁぁぁあぁああああああああああああああああ生ぎてだぁぁぁぁあああああああああああああああ」


電話に出ると、姉は泣いていた。
生まれてこの方、口喧嘩で姉に勝てたことはないし、常に気が強い印象の姉なのに、泣いていた。
何かトラブルに巻き込まれたんじゃないかと、気が気ではなかったらしい。(実際、巻き込まれていたわけだけど)

泣きじゃくる姉の話を聞くと、こんな感じだった。
先に入国審査を終えた姉は空港からの移動ルートを確認するため、Wi-Fiを求めて少しだけ歩き回ってみたらしい。結果、空港にWi-Fiがないことを知り、とりあえず弟と合流しようと審査ゲートに戻ると弟の姿はなかった。
連絡をしようにもWi-Fiがないし、ひとまず宿泊予定だったホテルに向かった。
そしてホテルに着いた今、電話をかけた。

電話の途中、なぜか「ロシアってロシア語表記しかなくて死ぬほど怖いんやぞ!!!」と怒られた。それは僕のせいではない。

次いで僕の状況を簡単に説明すると、「明日の始発で空港に向かう。とりあえず疲れたから寝る。」と言って姉は電話を切った。
電話を切る直前、「僕のことは気にせず観光しておくれ」と伝えたら「ホテルに着く前に赤の広場(聖ワシリイ大聖堂)には寄ってきた」とのことだった。抜け目ない。でもまぁ、無事で何よりだ。

ところで、寝落ちして気付いたのだけれど、ロシア寒くないか...?
今は8月。日本は夏。というか猛暑。誰が長袖なんぞ持ってこようか。
思い返してみれば入国審査官のお姉さんも、お兄さんも、なんなら他の空港職員も服を着込んでいた。「夏なのになぜ...?」と思っていたけれど、なるほど寒いのか。夏でも寒いのか、ロシアよ。

そんなことを思いながら、僕は眠りについた。
ついに明日には、トルコだ。

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