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「SaaS-Powered WorkSpace」と「SaaSOps」、2つのキーワードから見る日本のSaaS活用課題について

前回の記事で、米国では情シスという広い領域から、SaaSの導入から利活用を一元的に管理し、SaaSを運用する上で必要な作業を自動化した管理運用手法として「SaaSOps」が生まれたということを紹介しました。

米国では1企業あたり110個のSaaSを導入しているというデータがあり、SaaSをいかに使いこなすかということが企業の生産性を高めることに繋がるといわれ、その核となるSaaSOpsに注目が集まっています。

Better Cloudの定義によれば、企業のSaaS活用は3つのカテゴリに分けられ、最も多くのSaaSを導入・活用しているトップ15%の企業を「SaaS-Powered WorkSpace」と呼んでいます。
そして、これから徐々にこのSaaS-Powered WorkSpaceにカテゴライズされる企業は増加していくといいます。

今回の記事では、SaaS-Powered WorkSpaceという概念と、SaaSOpsの詳細を見ていきながら、SaaSがあふれる現在、そしてこれからの時代における企業のSaaS活用について解説していきます。

すべての組織がSaaS-Powered WorkSpace化する米国 

米国のSaaSマネジメントプラットフォームであるBetter Cloudは、SaaS導入数と社内での全利用サービスのSaaS比率によって、企業のSaaS環境を下記の3つのカテゴリーに分類しています。

Better Cloud:State of SaaSOps 2021の資料より

①SaaS-Powered Workplaces(全体の15%)
平均SaaS導入数:212
平均SaaS比率 :93%

②Workplaces in Transition(全体の70%)
平均SaaS導入数:79
平均SaaS比率 :55%

③Traditional Workplaces(全体の15%)
平均SaaS導入数:39
平均SaaS比率 :8%

トップ15%のSaaS-Powered Workplacesでは、1企業あたり平均でSaaS導入数が212(!)、SaaS比率が93%と、導入するほとんどのサービスがSaaSだといいます。
一方で、ボトム15%のTraditional Workplacesでは1企業あたり平均でSaaS導入数が39、SaaS比率が8%とまだまだSaaS以外のパッケージ型のサービス等を活用することが多いようです。

一見すると「先進的な企業はSaaSを多く活用している」という結論に帰結してしまいそうですが、Better Cloudは、すべての企業においてSaaS導入数、SaaS比率が増加していき、将来的にはすべての企業がSaaS-Powered Workplacesになると予想しています。

その背景にはSaaS市場の急拡大があります。
SaaSの世界市場は2030年まで年平均18.83%の成長率で拡大し続け、約5倍の市場規模になると予想されています。(参考情報)
また、多くの領域でこれまでソフトウェアサービスの主流となっていたパッケージとSaaSの市場規模が逆転し、SaaSが主流となることが確実視されています。(参考情報)

このようにそもそも世の中にあるサービスがSaaSばかりになることで、昔ながらの体制の企業であってもSaaSを導入するように社会全体が変わっていっているのです。

ちなみに、2020年11月にSmartHRが、社内で利用しているSaaSを公開していました。
その数は71。十分多いように感じますが、上記のカテゴリではボリュームゾーンのWorkplaces in Transitionの平均よりやや下という数です。
※2年前の情報なので、現在の導入数は増えているかと思われます。また、SaaS導入数が多い方が優れているということでは決してありません。

SaaS-Powered WorkSpaceが高める企業の生産性。その1つがリモートワーク

SaaSを多く導入し、うまく使いこなすことのメリットは生産性の向上です。そして、その最たる例がリモートワークです。

SaaS-Powered WorkSpaceでは71%の企業がリモートワークを実施している一方(※)、Traditional Workplacesではリモートワーク実施企業が44%にとどまりました。
※社員の4分の3がリモートワークを行っている企業の割合

Better Cloud:State of SaaSOps 2021の資料より

ここで誤解してはいけないのが、SaaSを多く導入している企業は、自然とリモートワークが行えるようになる、ということではなく、「SaaSを多く導入している企業は、リモートワークが円滑に行えるように環境を整える傾向にある」ということです。

リモートワークに限らずに従業員の生産性を高めるために、SaaSを自宅からでも使いこなせるよう管理し、セキュリティの問題をクリアにして社内の情報に迅速にアクセスできるように環境を整える。SaaS-Powered WorkSpaceにカテゴライズされる企業にはそういった傾向があります。

SaaS-Powered WorkSpaceが生産性を高めるためには、SaaSを使いこなすための投資が必要です。
そしてその投資先は「SaaSOps」です。

企業の生産性を左右するSaaSOpsとは?

SaaSOpsとは、社内のSaaSを運用する上で必要な作業を自動化した管理運用手法の名称です。

SaaSOpsは、主に下記の3つの領域を含みます。

① 活用 (Discovery)
② 管理 (Management)
③ セキュリティ (Security)

Better Cloud:What is SaaSOps? より

SaaSOpsを推進する担当者は、SaaSの効果的な使い方を確立して従業員にトレーニングを行ったり、プロセスを自動化したり、部門間でのコラボレーションのためのルールを策定したり、SaaS管理のためのツール管理といった業務を行います。

従来の情シスという領域からSaaSに特化し、自社がSaaSを使いこなすということに責務を持って活動するSaaS運用のスペシャリストとしての役割が求められます。

日本企業の半数以上が陥る「SaaSを使いこなせない」という本末転倒の課題

SaaSOpsが求められている背景には、急増するSaaSによって起きているいくつもの問題があります。
特に大きなものは、そもそも導入したSaaSを使いこなせないという問題です。

2022年に実施された調査結果によると、自部署に導入したSaaSを活用できているかどうかという質問に対して、約4割が「あまり活用できていない」「よくわからない」と使いこなせていないと回答しています。

株式会社LegalForce:SaaSの活用に関する実態調査より

使いこなせていないという問題を分解すると、大きく2つに分けられます。

① 機能を使いこなせない
② 管理ができていない

「① 機能を使いこなせない」は、導入したSaaSの機能理解不足や、使いこなすための従業員のリテラシー不足によって引き起こされます。
また、従来の業務フローに導入したSaaSを当てはめようとすることで、不具合が発生するということも特に日本企業において顕著に現れています。

SaaSは従来の業務を簡易的にするだけでなく、業務自体を無くし、またまったく新しい画期的なソリューションを提供します。
SaaSの機能を理解し、従来の業務フローと照らし合わせて、必要に応じて新たな業務フローを構築していくという考えも必要です。

「② 管理ができていない」は、具体的には、従業員の入退社や異動に伴うアカウントや権限の管理が煩雑になっている、セキュリティが担保されているか把握できていない、また最適なプランの見直しができておらず費用がかかりすぎているという状況です。

SaaS導入後は、各部門が管理を行うことが多く、アカウント・権限を含めたセキュリティ管理は部門のマネージャーに一任されることがほとんどです。その結果、管理ルールが定められておらず、パスワードを使いまわしたり、アカウント削除を忘れてしまったりと、退職者でも機密情報にアクセスできてしまうようなケースも起こっています。

SaaSを使いこなすためには、SaaS機能と自社の業務フローへの理解を持って、セキュアで運用しやすいルール設計の必要があります。
一方で、導入するSaaSが日々増えていくため、常に新しいSaaSに応じたルール設計が発生します。

これらを各部門の自主性に任せて実施していくことには無理があります。そこで生まれたのがSaaSOpsです。

SaaSOpsが変える日本社会の働き方

日本でSaaSOpsが台頭することで得られるメリットは、生産性の向上、そして働き方の自由度向上です。

SaaSOpsは、自社がSaaSを使いこなすということに責務を持って活動するSaaS運用のスペシャリストです。

前述のような「SaaSを導入したが使いこなせない」という問題を解決し、企業はSaaSをより効果的に活用できるようになり、生産性向上に繋がります。

また、SaaSを企業がセキュアかつ効果的に使いこなすようになると、個人の働き方にも大きな影響があります。

コロナ禍でリモートワークを導入する企業は増加しましたが、それでもセキュリティの問題でオフィス出社を実施している企業、社内の重要情報に自宅からアクセスできないために出社して仕事を行う社員は多く存在します。

日本のテレワーク普及率はコロナ禍で大きく増加し、東京都のテレワーク実施率は2022年3月時点で62.5%まで増加しました。(参考情報)
しかし、日本全体で見ればこれよりも低下し、また米国では2018年時点ですでにリモートワーク導入率は85.0%(※)という高水準です。

海外と日本のリモートワーク導入率の比較
厚労省:テレワーク総合ポータルサイトより

米国の例に倣い、SaaSOpsが広まることでテレワークが促進され、働き方の自由度も向上していくでしょう。

※記事前半で紹介したリモートワーク実施率とは参照元の定義が異なります

おわりに

今回の記事では「SaaS-Powered WorkSpace」と「SaaSOps」という2つのキーワードを通して、SaaS活用について解説していきました。

記事に登場するデータや海外事例を見ていきながら私が感じたことは、SaaSを導入するだけでは生産性向上も働き方の自由度向上にも繋がることはなく、SaaSをいかに効果的に運用・管理するかが大事だということです。
そのためにSaaSOpsに投資することがこれからのSaaS全盛時代に求められています。

私自身のSaaS事業者としての経験でも、日本企業はSaaS運用を苦手としていると感じています。

SaaSOpsの新設という構造的な改革は、一朝一夕では行えません。
しかし先に述べた通り、すべての企業はSaaSを活用するSaaS-Powered WorkSpaceへと移り変わっていきます。

SaaSOpsも今後トレンドワードになることが予想されます。
SaaSOpsの概念やその価値を、ぼんやりとでもいいのでぜひ知っておいてください。

DXERは既存の情シス領域をアップデートすることで、企業で働く個人がいきいきと活躍できる環境を作り、日本企業の競争力を高めていこうと考えているスタートアップです。
現在、今回紹介したSaaSOpsの考えも取り入れて、複数のサービスを開発しています。

少しでもご興味を持っていただけたらぜひカジュアルにお話させてください。


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