【後半ネタバレ有】オトゲキフェスティバル2021作品「ユートピア・オン・ザ・トレイン」感想
今回はオトゲキフェスティバル2021レッドチームのラジオドラマ作品「ユートピア・オン・ザ・トレイン」を視聴したので、その感想を書きたいと思います。
<関連URL>
・オトゲキフェスティバル2021
・制作者K.O.presentsさんのTwitter
作品は8/10(火)まで視聴できるようです。
購入すると写真のようなステッカーがもらえます。
詳しくはホームページを見てみてください。
【あらすじ】
三人の勇者は汽車に乗り魔王討伐を目指す。
勝利の先に何があるのか。
(オトゲキフェスティバル2021ホームページより)
1. 【ネタバレ無】この作品はこんな人におすすめ
1)ファンタジー作品(小説、アニメ、ゲーム等々)が好きな方
2)みんなでワイワイガヤガヤしているのを聴くのが好きな方
3)声フェチな方
1)ファンタジー作品(小説、アニメ、ゲーム等々)が好きな方
この作品の最大の魅力は世界観にあると思います。
私はRPG(ドラクエ、ゼルダの伝説等)が好きですが、ゲーム自体を進めるというより攻略本や設定資料集を眺めて妄想するのが好きなタイプでした。
ですので、視聴する前からあらすじを見てワクワクしていました。
レッドチームのTwitterを覗いてみると「登場しない設定集」が公開されており、背景までよく練られていると感心しました。
2)みんなでワイワイガヤガヤしているのを聴くのが好きな方
サイトやTwitterにもある通り、この作品は3人の勇者が主人公です。
汽車の中での会話は、会話によって話が進行するラジオドラマならではのテンポではないかと感じました。
部室のような楽しそうに会話している雰囲気が好きな方におすすめです。
3)声フェチな方
登場人物は3人とも声が良いです。
ラジオドラマは音しか情報がないので、その声を受け付けられるか否かはその作品の評価自体に関わってくる重要な課題です。
3人ともその個性をしっかりと表現できており、聞きやすいです。
特に紅一点のルナの声は話がスッと頭に入ってきました。
私が感じたこの作品の伝えたいことは「自分のやりたいこと、好きなことをやるべきである」ということです。
自分のやりたいことがあるけど周りの目があって勇気が出ない方、是非視聴してみてください。
さて、ここからはネタバレ有りで、私が感じた良かったところ・悪いところについて書いていきます。
ネタバレ有りですよ!!!
2. 【ネタバレ有】この作品の良いと感じたところ
1)真っ向からファンタジーの世界観の表現に挑戦している
2)登場人物達の目的がはっきりしている
1)真っ向からファンタジーの世界観に挑戦している
先述しましたが、この作品の最大の魅力は世界観です。
RPGの世界観をフリにする(例えば勇者ヨシヒコシリーズ)のではなく、少ないリソースを使って真っ向からファンタジーの世界観の表現に挑戦している点がこの作品の評価できるポイントだと思います。(もちろん勇者ヨシヒコには勇者ヨシヒコの魅力があります。)
練られた設定はもちろん、それをベースとした脚本や音響、イラスト等ラジオドラマとして表現できる媒体を総動員してこの世界観を表現しています。
具体的な例を挙げましょう。
冒頭のシーン。洋風ファンタジーの城下町を彷彿とさせるようなBGMが流れ、汽車の汽笛が響きます。
そして、飛ぶドラゴンを汽車の車窓から眺める疾走感あふれるイラストが登場し、最初のセリフ。
「すげえ。ドラゴンが飛んでるよ!」
この一連の流れによって、視聴者を現実の世界からファンタジーの世界へと上手く導入できていると感じました。
2)登場人物達の目的がはっきりしている
登場人物3人の個性がきちんと表現されていることは先述しましたが、その要因として3人とも物語上の目的がはっきりしていることが挙げられます。
3人とも魔王を倒すことを目標としていますが、この作品において魔王を倒すことは良い意味でも悪い意味でも、あくまで通過点に過ぎません。(これについては悪かったところで少し触れます。)
重要なテーマは魔王を倒した後どうするかについてです。
魔王を倒した後の夢については、
ロー:本当の故郷に帰ること
トリア:この世界に残る(←医療機関の設立、ルナと一緒にいたい)
ルナ:トリアを支えたい
特にトリアはその目的への葛藤が多く表現されており、見ごたえがありました。
3. 【ネタバレ有】悪いと感じたところ
・分からない言葉が飛び交う冒頭2分
世界観については一通り述べましたがその弊害もあると感じました。
ファンタジーという特異な世界を表現するため、否が応でも説明台詞が多くなってしまいます。
作品の世界で生きる登場人物達を表現したいのはわかりますが、「竜の霊峰」、「魔力でもない謎の力で飛んでいる竜」、「ドラゴンバレー」など聞きなれない言葉が立て続けに速いテンポで飛び交い、一回聞いただけでは正直わかりませんでした。
これらのワードは、その後の話に登場せず(裏の設定では関わっているのかもしれませんが)、少々蛇足ではないかと感じました。
その後、「街に着いたら何をしたいか」という議題になり、その会話によって2人の登場人物それぞれの性格が表現されています。
イラストや音響でドラゴンがいるファンタジーの世界というのは十分に伝わるので、登場人物たちの性格や人となりが分かるセリフを冒頭にもう少し入れた方がスッと話に入っていけると感じました。
・作られた存在、作った存在の葛藤がほとんどない
これは特にローとルナに対して感じたモヤモヤです。
ルナは、ローとトリアによって作られたNPC(non player character)です。
物語中盤、ルナはローとトリアの会話を偶然聞いてしまい、その真実を知ることになります。
その後ルナはローを問い詰めるのですが、ローはいとも簡単に真実を話してしまいます。特に衝撃的だったのが「見た目と性格はトリエが決めて能力は俺が決めた…」とつらつらとキャラメイキングについて話し始めるシーンです。
確かに会話を聞かれてしまい、もう言い訳ができない状況と諦めて真実を話したのかもしれませんが、だからと言って旅の道中ずっと隠してきたことを、言う必要も無いことまでも躊躇なく喋るローには恐怖すら感じました。
ローはトリアやルナと違い、他の登場人物や出来事から影響を受け、考えや感情が変化するという流れが無い気がしました。それをもっと表現した方がローという人物に奥行が出ると思います。
これについては、ローは残酷な奴なんだで片付くかもしれませんが、それを受けたルナのリアクションについては更に大きな問題があると感じます。
「自分が誰かに、しかもずっと旅をしてきた仲間達に作られた存在である。」
このことは自身の存在意義に関わる重大な問題です。
真実を聞き、確かに衝撃は受けているようですが、怒り狂ったり、悲しみに声を振るわせたりなど感情が爆発することはありません。その後はローから夢について聞かれ冷静に考え出してしまいます。そして話題はトリアへの恋心の話へと切り替わります。
恋は盲目と言いますが、もっと考えなきゃいけないテーマが目の前にあるだろ! と不自然さを感じました。
ロー:仲間をプログラミングで作り、その事実を今まで黙っていたこと
ルナ:自分はずっと旅をしてきた仲間達に作られた存在であり、それをずっと隠されていた
恋愛話は二の次で、このテーマに対する葛藤をもっと描かないとモヤモヤが残り、その後の彼らの行動の説得力が弱まってしまうと感じました。
強いて言えばルナの存在問題に対しては最後のシーンにおいて、ルナの気持ちを聞き、葛藤の末トリアがゲームの世界に残るという選択をしたことで、ルナも意思を持った1人の人間であるという答えが提示されていると言えないこともないです。しかし当事者であるローとルナの葛藤や変化を更に見たいと感じました。
例えば、わだかまりが残ったまま汽車が街に着き、魔王との戦闘が始まる。
その戦闘でルナに助けられたローは、ルナという存在を再認識し、考えを改める・謝罪をする。や、戦闘中にトリアを援護する中で改めてトリアへの想いを感じ、私は本物であると自認するなど、魔王(脅威)との戦いという大きなイベントがあるので、それを有効に使えば良いのではと感じました。先述したように魔王との戦いが良い意味でも悪い意味もサラッとしており、少し勿体ない気がします。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。
先述したように、この物語で伝えたいことは「自分のやりたいこと、好きなことをやるべきである」だと感じます。
作中のローのセリフで、「好きなことをすれば良い」という言葉があります。
また、物語終盤で元の世界に帰る決心を固めたローに対してルナが引き留めますが、「俺プログラミング好きなんだよ」とローが言うことでルナも理解を示すシーンも印象的です。
大きな出来事としては、トリアはゲームの世界に残るという、側から見れば現実逃避とも捉えられるような決断を自らの意思で固めました。
昨今SNS等で誰もが意見を発信でき、人の目が気になる社会になっていると思います。
そんな中でも、人目を気にせず自分のやりたいことを勇気を持って挑戦することが大切だと感じました。
そういう意味では自己の目的に忠実に行動したロー、トリア、ルナの3人は、仮に魔王を倒さなかったとしても本当の意味で"勇者"なのかもしれません。
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・制作者K.O.presentsさんのTwitter