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「残り物に福があったロシア」より

ソ連崩壊後、旧共産圏はバラバラになり、ロシアは「張り子の虎」といわれた。さらには、リーマンショックのあと、ほかの新興国にくらべて立ちなおりが遅かったが、よく見るとまだ、そこにはいいものがたくさんある。たとえばエンジニア。アメリカの航空機メーカー、ボーイング社は、ソ連が崩壊するや、スホーイやツポレフなどからすぐさま元社員を三千人ほど雇い、彼らに航空機の設計をさせている。いま同社がロシアで機体などの設計を担当させているエンジニアの数は、アメリカ国内とほぼ同じだ。半導体メーカーのインテルも、やはり国内と同数の設計者をモスクワ郊外に置いている。ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)でもロシアは強さを発揮している。BPOとはコンピューターシステム開発の請負業であり、インドがいちばん盛んだ。SIer(システム、インテグレーター)だけでも、大手になると六〜八万人もの技術者を抱え、主としてアメリカの仕事をこなしている。一方のロシアは、まだ一〇〇〇人規模の会社が何社かあるだけである。しかし、ロシアのBPOはインドではできない複雑な仕事も引き受けてくれる。概要や開発の目的を伝えるだけで、具体的なやり方までを考えてくれるのだ。創造性が豊かで、難しいことを好む文化があるといってよいだろう。
また半導体はロシアの苦手部門だが、これが逆に限られたチップで設計する創意工夫を生んでいる。日本やアメリカは半導体がどんどん安くなったため、集積回路やマイクロプロセッサの設計がどうしても粗くなってしまう。しかしロシアは少ないメモリでつくっていたため、いわば「箱庭的」な非常に細かい回路設計を行うのが得意なのだ。

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