【2023.5.29】財政審、サ高住への提言について考察

財務省の財政制度等審議会(財政審)は5月29日、政府への提言を鈴木俊一財務大臣へ提出しました。
財政制度等審議会とは、財務省の中にある組織で、財政健全化に向けて国の予算編成などを話し合う機関のことです。

この提言の中で、財政審は介護分野に向け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居している高齢者に対する給付の現状を問題視し、その是正を要請しました。

具体的には、「画一的なケアプランや過剰なサービス等の問題事例が見つかっており、ケアプラン点検を通じた見直しも不十分」「ケアマネジメントについては、利用者にサ高住の入居者がいる場合には、それ以外の場合と比較して、所要時間が3割程度少ない」などと指摘しています。
そこで、サ高住等でのケアマネジメントに「同一建物減算」を適用するとともに、訪問介護等についても、利用者が同一建物に集中している場合には、さらに減算を強化して適正化を図るべきと主張しました。

資料:歴史的転機における財政(令和5年5月29日 財政制度等審議会)

財政審の強引な主張

この財政審の提言について考察していきます。
まずは、財政審が主張しているサ高住の問題点を整理してみましょう。

財政審の主張するサ高住の問題をまとめると、以下の4つになります。

  1. 画一的なケアプラン

  2. 過剰なサービス

  3. ケアプラン点検を通じた見直しが不十分

  4. サ高住入居者のケアマネジメント時間が少ない

以上の問題点について、財政審が提言する同一建物減算が有効な対策になり得るのか、ひとつひとつ見ていきたいと思います。

1.画一的なケアプラン

サ高住の入居者に対して、同じようなケアプランを作っているということを問題視しています。入居者それぞれに合わせた、個別的なケアプランを作れということなのでしょう。

財務省が主張する同一建物減算では、この問題を解決することができません。「同一建物減算をしたから画一的なケアプランが作れる」というロジックは成り立たちませんよね。
画一的ではない個別的なケアプランを作るための対策のひとつとしては、ケアマネジャーがアセスメントやモニタリングに費やす時間を増やすという方法が挙げられるでしょう。
同一建物減算は有効な対策とは言えません。

3.過剰なサービス

入居者に対して必要以上の介護サービスを使っているという指摘です。サービスを抑制することにより、介護報酬を抑制したいのでしょう。

一見すると、同一建物減算をすることで解決しそうな感じがします。
しかし考えていただきたいのは、過剰なサービスを行っているのはあくまでも一部の事業所だということです。
悪質な一部の事業所を是正するための対策として、サービス全体に影響する対策をとるのは強引過ぎます。過剰なサービスを行っていると判断される事業所があるなら、個別に是正すれば済む話です。
何も悪くないその他の事業所まで、画一的に減算対象とするのは、いかがなものでしょうか。

3.ケアプラン点検を通じた見直しが不十分

ケアプラン点検とは、ケアマネジャーが作成したケアプランが、ケアマネジメントのプロセスを踏まえた適切なケアプランとなっているかを、保険者がケアマネジャーとともに検証することです。

仮にケアプランの見直しが不十分なのだとすれば、さらに点検する仕組みを作ればよいでしょう。ケアマネジャーの質の強化につながる対策なども考えられます。
この問題も、同一建物減算すれば解決する話ではありません。

4.サ高住入居者のケアマネジメント時間が少ない

サ高住の入居者へのケアマネジメントは、それ以外のケアマネジメントに比べて所要時間が少ないという指摘です。

少ない時間でケアマネジメントができているなら、逆に生産性が高いと評価されてもよいと思いますが、どうなんでしょうね。
所要時間が少なく、ケアマネジメントの質が悪いというなら、1と3で述べた対策を講ずれば済む話です。
この問題も、同一建物減算が解決策にはなりません。

どうにかして給付抑制したい財務省

以上のことから、サ高住の問題点の改善するために同一建物減算を行うのは効果がないということがわかりました。

財務省には賢い方が多いですから、同一建物減算がサ高住の問題の対策にならないことくらいきっとわかっているはずです。
サ高住の問題を解決することは、財務省にとって些末な問題に過ぎません。
それよりも財務省にとって大事なのは、社会保障費の給付を抑制することです。

サ高住の問題の根本解決はどうでもよく、給付抑制のために同一建物減算をしたいのでしょう。
だって財務省ですから。

それにしても、こうして少々の論理矛盾など気にせず強引に給付抑制策を推し進めてくるあたり、どんな手段を使ってでも削減したいという財務省の本気度が伝わってきます。
今後の議論が注目されますね。

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