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【2019年2月26日(火)】


気が付くとビルの屋上に立っていた。
屋上といっても普通の広さではなかった。例えるならば、小学校のグラウンド並みの広さだ。私の後ろには、屋内へとつながる扉があった。扉の前には顔の見えない警備員が一人立ち塞がっている。
私の前には大人数の列ができていた。皆一列で並び、建物の端の方へと続いていた。細かい人数までは数えてはいないのだが、300人以上は並んでいた。一番前は屋上の端、一歩踏み出せば地面へと落下してしまう。そこには顔の見えない警備員が合図を出し、最前列の人が飛び降りるよう促していた。私は最後尾についていた。何分か何秒かおきに一歩、また一歩と進んでいく。

最前列を見ると、順番に人が飛び降りている。
私は怖くなり、屋内へと入ろうと振り返った。しかしさっきまであったはずの扉は消えていた。顔の見えない警備員と共に。
一歩、また一歩と進んでいく。

確実に自分の番が近づいている。
私の前にはまだまだ人がいるが、自分の番がやって来るまでは時間の問題だろう。待つということに恐怖を覚えた。
周りの人の表情を見てみると、私が見る限りの人は全員無表情だった。
一歩、また一歩と進んでいく。

なんとかならないか考えてみた。
屋内へとつながる扉は無くなってしまったが、飛び降りなければいいのではないかと考えた。飛び降りなくてもどこに逃げればいいのかはわからない。
一歩、また一歩と進んでいく。

いきなり最前列の人が叫びだした。おそらく、飛び降りたくないと喚いていたと思う。次の瞬間、顔の見えない警備員が最前列の人を警棒で殴り倒していた。動かなくなったソレを屋上から投げ落とした。
一歩、また一歩と進んでいく。

顔の見えない警備員には逆らえないと思った。しかし、逃げ切ってしまえばなんとかなるのではないかと思った。そして、屋内へとつながる扉が無くなっていたことを思い出す。
一歩、また一歩と進んでいく。

私は、前に進むのが恐くなった。まだまだ前には人がいるが、いつかくるであろう自分の番が恐かった。私は進むのをやめた。
私の前の人が一歩進んだ。
そしてゆっくり振り返り、物凄い形相で私を睨んだ。
一歩、また一歩と私の前の列が進んでいく。

相変わらず前の人は睨んだままだ。距離が数歩分離れただけなので顔がよく見える。しかし何もしてこないので、私はそのまま傍観者となる。
一番前を見ていると、今までと違う光景がみえた。
五人まとめて飛び降りさせられている。
いきなり前の列との間隔が空いた。今まで一人ずつ飛び降りていたのが五人に増えたからだ。最後尾の人が相変わらず睨んでいる。

「こっちに来-----い!!!!!」
いきなり最後尾の人が私に向かって叫んだ。
私は怯んだが、最後尾の人が前の方を指さしている。
「こっちに来-----い!!!!!」
再び叫ばれた。
私は、恐怖で動けなかった。そして振り返ると、顔の見えない警備員が警棒を片手に私の方へと向かっていた。
殴られて落されると思い、すぐに列の最後尾に戻ってしまった。
さっきまで睨んでいた人は、もうこちらを見ていない。

一歩、また一歩と進んでいく。
飛び降りる人数が一人ずつに戻っていた。


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