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祖父の育児日記-歳晩

書物に囲まれ静かな老後を過ごしてたはずの父は、不思議なくらい、ごく自然に孫との生活に入りました。
孫が生まれた日から、自分の膝にのせたまま。
「疲れましょう、替わりましょう」といっても、手を振って離しませんでした。
胡坐の中が孫の席。父は紙とハサミと糊を座右において、人形をつくり、紙で火山や海をつくり。毎日がピタゴラスイッチの世界でした。悪天候でない限り、ほぼ毎日近所の神社や田畑や小川に連れ歩いてくれました。
父の好きな「宋詩選」の中に、孫をつれて散策をしていた彼の気持ちを詠っているかのような詩があります。

 歳晩            王安石
月は林の塘に映りて澹く    ツキハハヤシノイケニウツリテアワク
風は笑語を含みて涼し     カゼハショウゴヲフクミテスズシ
俯き窺いて緑の浄きを憐しみ  ウツムキテウカガイテミドリノキヨキヲイトオシミ
小さく立ちて幽な香りに佇む  チイサクタチテホノカナカオリニタタズム
幼きを携えて新しき葯を尋ね  オサナキヲタズサエテアタラシキハスノミヲタズネ
衰えしを扶けて野の航に坐す  オトロエシヲタスケテノノワタシブネニザス
延縁して久しく未だ已まざるは エンエンシテヒサシクイマダヤマザルハ
歳晩れて流光を惜しめばなり  トシクレテリュウコウヲオシメバナリ

美しすぎますね。

今は誰もがインターネットで、知識を得、友を得る時代となりました。一昔前は、漢詩や和歌が、もう少し日常の中に、目に触れるところにあったなあと思います。


振り子 脊椎
きょうもおもしろかったね

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