【ホテルログ⑩LOG】数ある制限の中に生まれた、ホテルらしくないホテル
10回目のホテルログは、尾道のHOTEL LOGについて。
インドの設計スタジオ「スタジオ・ムンバイ」が手掛けたホテルが尾道にできたと聞いて、ずっと泊まりたい思っていたホテル。ようやく行けました。
話題性が高いホテルなので、知っている人も多いと思います。
既に詳細を説明するレビュー記事や対談記事はたくさんあるので、あえてそれらを読まずに、自分なりの感想を書いてみました。
今回もたっぷりの写真中心にお届けします。
HOTEL LOG, Onomichi, Hiroshima, Japan
2018年12月に誕生したLOGは、昭和38年に千光寺山の中腹に立てられたアポートメント「新道アパート」をリノベーションしたホテル。
LOGの名前は「Lantern Onomichi Garden(ランタン・オノミチ・ガーデン)」の略称。ランタンのような柔らかい光で、街をやさしく照らす。街のオアシスであり、集いの場としての意味が込められているそうです。
もともとアパートだけあって、敷地内に中庭がたくさんあり、一般のホテルとは一線を画した楽しげな構造。リノベーションはされていても、建物の歴史を強く感じることができました。
尾道駅から歩いて15分程の距離にあるLOGは、細い坂道の中腹にあるため、車では乗り入れができません。
荷物と一緒に登るのはなかなかハードな坂道ですが、「この坂道を登らなければ辿り着けない!」という不都合な体験が、期待感を膨らませてくれます。
エントランス&建物
坂道を登っていると、ホテルへ繋がる正門が右手に現れます。
周辺の一軒家と同じように瓦屋根の正門は、異国感のある空間を想像していたので意外に感じました。
少し離れた所から見たホテルの外観。
日本家屋の戸建てが立ち並ぶ坂道地帯にあって、珍しい集合住宅だったようです。
建物に入っていくと広い展示空間が。
この日は、ピエール・ジャンヌレの家具の展示イベントを開催していました。
建物に入ると、両サイドに中庭があります。
下の写真の中二階のドアの部屋がチェックインロビーになっています。
個人的には、まずこの建物に心奪われました。
豊かな緑に囲まれた敷地内にあるピンク色の建物は、周辺の日本家屋とのギャップで異世界のように感じられます。
段差が多く、スキップフロア(中2階等中間に位置するフロア)があり、エレベーターが無い。
バリアフリーフレンドリーでは全くないし、エレベーターもなくて不便。
エントラスンにロビーがあり、カフェ・バーがある新しいホテルのセオリーとは逆行する作りが逆に新鮮です。
新築ではなく、既存の建物と歴史を活かすからこそ避けられない不便さが、このホテルの唯一無二の魅力を作り出しています。
客室
気になる客室も期待を裏切りません。
LOGの客室は6室だけ。それぞれが40㎡の広さです。
3Fに位置する客室に辿り着くには、ここでも階段を登る必要があります。
自然光がたっぷり入る客室は、ローベッドが中心に、全体的に腰を落として滞在する作りになっています。
襖で途切られた空間の分け方は、日本の旅館のエッセンスが感じられます。
部屋の床、壁、天井には和紙が貼られていて、日本の素材へのリスペクトも。
手間を掛け、手仕事で作られた事が伝わってくるディティールを目にすると、滞在の特別感が増していきます。
すっかり西欧化した空間で暮らしていた自分にとって、日本古来の素材の中で過ごす時間は久しぶりで新鮮でした。
和紙に関しては、汚れや劣化が表面化しやすいと思うので、運営者目線で考えるとこだわりがすごいなと感じます。
拭き取れないからシミできやすいだろうし、汚れたら変えるの大変そう...。
運用の不便さは承知の上で、便利とは言えない和紙の利用に踏み切っていることがこのホテルの意思を表し、オリジナルな魅力に繋がっていると思いました。
窓からは尾道の絶景を見渡せます。
高台にあるからこその景色は最高です。
部屋の設備は最低限の仕様で、テレビはありません。
ドリンク類はお茶のセットと水のボトルのみ。かなりミニマルです。
段差の上に置かれたクッションがソファ代わりに。
客室だけでなく、一度ホテルに戻ると周辺には何も無いので、夜は早めに就寝しました。
普段都会で暮らしている人にとっては良いリフレッシュができると思います。
カフェ
施設内には、滞在者でなくても利用できるカフェ "Cafe & Bar Atmosphere"があります。
窓から尾道の景色や海が見渡せ、気持ちが良い空間。
誰でも利用できることもあり、終日多くの人で賑わっていました。
ピンク色を貴重に、朱色のドア、椅子、カウンターを組み合わせて同色系でコーディネートしている空間も素敵で、こだわりが詰まっています。
コーヒーはもちろんお酒も出していて、この日は自家製のベルガモットチェッロを。
地元、瀬戸田のベルガモットを皮から漬け込んで作っているそうで、本格的です。
カフェには屋外スペースもあります。
建物の至るとこで景色が見え、光が取り込めるように設計されています。
建物内でふと目を上げると、尾道の絶景が目に入ってきて、山の中のリゾートの様です。
レストラン
モーニングとディナーが食べられるレストランは1Fに。
今回はディナーは外で食べたので、朝食だけを頂きました。
▲レストランの扉。美術館のカフェのような佇まい。
ここはカフェのピンクとは一転してカーキの壁。
各施設ごとに異なる色使いが本当に素敵でした。
料理は、料理研究家の細川亜衣さんが監修しているそう。
素材の味を生かしたシンプルで優しい味付けは、ホテル全体の空気感ともマッチしていました。
ライブラリー
宿泊者限定のスペースとして、ライブラリーがあります。
この部屋の色はモスグリーン。漆喰の壁、天井が空間全体を異世界のリラックススペースに作り変えています。
ホテルらしくない意外性と、一貫したLOGという人格が感じられるホテル
写真を見てなんとなく分かるかもしれませんが、LOGの客室には、いわゆる居心地の良さ(椅子の座りやすさや空間の快適さ)はあまりありません。
施設全体を見回しても、エレベーターもカードキーも大浴場もジムもないし、廊下は屋外だから寒い、等など、従来のホテルの利便性は持ち合わせていません。
このホテルの魅力は全く別のところにありました。
ここ数年は東京オリンピックに関連して日本でもホテルブームとなり、各地でたくさんのホテルができています。
(オリンピックの見込みが不明な今でも、動き出したプロジェクトは止められず、ホテルは増え続けているそうです。)
その多くが耳障りの良い今風なコンセプトを掲げ、予定調和な作りをしていると感じています。
もちろん、ビジネスなので勝ち筋が実証されたセオリーを踏襲するのは当たり前。
ただ、泊まる側としてはそのホテルだけの魅力、人格を体感したい。
その観点で、LOGはオリジナルな魅力に溢れた、新しい体験ができるホテルでした。
徒歩でしかいけない坂の途中に、昭和38年からある建物にホテルを作るなんて、制限だらけで想像するだけで大変。
そもそもセオリーは実行できないし、利便性も追求できない。
車が乗り入れられないため、この空間を作るためには何度も往復して資材を運び入れる必要がある。
エレベーターなんて到底作れないですよね。
そんな多くの制限の中で、合理的には進められないハードルを乗り越えて作り上げた空間だからこそ、空間に息づく人格が感じられるのではと思います。
「制限」や、「意思」から新しいアイデアが生まれることを改めて実感。
二日間の滞在から、たくさんのインスピレーションをもらえたホテルでした。
日本にももっとこんなホテルが増えたら最高です。
<LOG>
HP:https://l-og.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/log_onomichi/
Address: 〒722-0033 広島県尾道市東土堂町11−12
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