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個性について

個性について

個人主義の時代が加速し、みんな個性を出したい、個性的でありたい、と言う。自分探しは終わるどころか、ニーズは衰えず自己啓発本は次々と発売されていく。いつになったら、自分を、そして、個性を見つけることができるのであろうか。

でも、その探している「個性」というものは一体何なのだろうか? オリジナリティ? それであるならばもうあなたはあなたなので、探す必要はないと思うのであるが、そういうわけではないらしい。オリジナリティと言っても、世の中に通じる武器みたいなイメージがくっついてきてしまっている。特に世の中の役に立つものとか、それこそ仕事に役に立つ個性を人は求めているので、そういう今の時代の、今の流行にあったものであればいいかもしれないが、みんながみんなそんな個性を持っているわけではない。

『僕のヒーローアカデミア』という漫画が人気であるが、それを見てみるとまさにみんなが「個性(わかりやすい特殊能力)」を持っている世の中が描かれている。でも雑魚キャラは結局個性があっても雑魚キャラなのである。きっと多くの人たちが求めている個性主義社会なんてものがあるとしたら、ああいう感じになってしまうのではないだろうか。結局、個性にも優劣がついてしまう。そうした時、個性を追い求めていた人は、自分の個性を見つけたところで幸せになることは果たしてできるのだろうか。

そして、人は自分の個性を変えることはできない。当たり前だ。変えられない、その人にしかないものであるから個性なのである。人は個性を見つけたのにそれが仕事に役に立たない個性だと知った時にどうするだろうか。

現代人は実は個性を求めているのではなく、何か世の中で生きるために役に立つ武器のようなものを求めているような気がする。そんな特別なものを探そうとしてもやはり見つからないのである。結局個性というものをそのように思い込んでいるうちは発見することはできない。むしろ個性なんてものは、すでにそこにあるのだから、それをどう社会の役に立てるかを考えなけらばならないのに、僕たちは個性という内面の力を手に入れるのではなく、外に力を求めるがごとく、剣でも、銃でも発明して、果てにはボタン一つで、個性なんてなくても使えるミサイルのような武器を作ってしまったのだ。

あまりにも個性というものを何かいいもの、役に立つもの、と考えすぎてしまっているような気がするのである。前に批評の神様と言われた小林秀雄氏の著書『小林秀雄 学生との対話』から取り上げたが、ここでも取り上げてみたい。

"感動しなければ、人間はいつでも分裂しています。だけど、感動している時には、世界はなくなって、自分自身と一つになれる。自分自身になるというのは、完全なものです。莫迦は莫迦なりに、利口は利口なりに、その人になりに完全なものになるのです。つまり、感動している正体こそが個性ということですよ。"

小林氏は、感動している正体こそが「個性」だと言っている。続きを読むと、

 "僕の書くものはいつでも感動から始めました。だから、書いたものの中に自然と僕というものは出ているのでしょう。僕は感動を書こうとしたのであって、自分を語ろうとしたのではない。ただ感動がどこかからやってきたのです。"

とある。それ(個性)は「自然と僕というものは出ているものでしょう。」と言っている。これはなんて当たり前のことなのか。創作という中で個性を発揮するというのは確かに才能みたいなものが求めらるだろう。でも、個性自体は自然と現れてしまうものなのだ。

でも、無理に個性を出そうとしてみんな迷ってしまう。それこそ、外ばかり見ているので個性を出そうとすればするほど人真似になってしまうのである。もうすでにあなたはそこにいて、世界80億人いてもあなたはあなたひとりだけなのだ。もうそれだけでユニークな存在なのである。でも何か特殊能力みたいなものを期待するから、結局、自分が知っている誰かの能力からそれを探そうとしてしまっているのではないだろうか。

あなたと同じ姿、形であなたと同じ考え、あなたと同じ経験をしている人なんてどこにもいないのである。だから、あなたの個性は間違いなくあなたの中にしかないのである。そんな当たり前のことに気がつかないで、外を探し回っても見つかるわけはないのである。

あなたがもしあの漫画の中で雑魚キャラで生まれてきたらどうするだろうか? 個性はもうわかってしまっている。そうなると結局その個性を活かして、どう生きるか? ということを考えるしかないのではないだろうか。個性を探すよりもどう生きるか? 結局、個性があろうがなかろうが、個性を見つけようが見つけまいが、どう生きるのか? ということが重要なのではないだろうか。それがわかっていないのに、個性を生かすことなんてできるのだろうか? 逆に、自分がどう生きるか? というのが明確になった時にこそ、個性というものが現れてくるのではないだろうか。つまりは、自分が自分でしか生きられないとわかった時に、それが個性だったとわかるのである。

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