見出し画像

ソユーズの前身ロケット「R-7」の歴史

※この記事は2022年4月15日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


前回までロケットとミサイルの共通点、そして技術的な違いについて解説してきた。

改めて簡単にまとめると、ロケットというのはそもそも兵器として開発された歴史があり、その始まりが第一次大戦後のナチス・ドイツが開発したV2ロケット。これは欧州本土からブリトゥンの首都ロンドンを直接攻撃できる短距離弾道ミサイルとして開発された。ところが、戦後ドイツは敗戦し、アメリカとソ連がロケット開発者をドイツから引き抜いたことで、その後の宇宙開発、ミサイル開発の中心はこの2カ国となっていく。

一方、技術的な違いでいうとロケットとミサイルの違いは大きく2つ。
1つは酸化剤の量。空気のない宇宙空間を進んでいくロケットと、あくまで地表に落下させることを目的としたミサイルとでは、積まれる酸化剤の量に大きな違いがあるということ。もう1つは、積まれている貨物が人工衛星なのか弾頭なのかという違い。宇宙探査や宇宙からの電波を送信する目的などで飛ばすならロケット。対して、弾頭(つまり爆弾)を載せてどこかを攻撃する目的で飛ばすならミサイルだ。
これらの共通点と違いを知った上でニュースを見ると宇宙開発や軍事のニュースもより理解が深まる、という話だった。

では、ミサイルとして転用できるロケットは戦後どのように発展していったのか?今回はその簡単な歴史をソ連のロケット開発に焦点を当てて解説しよう。

戦後のアメリカがレッドストーンロケットの開発を進めていたのに対し、ソ連では「R-7」という名のロケットが開発されていた。

アメリカが早い段階からロケットを大型化して飛距離を伸ばそうとしていたのに対し、ソ連は無理をせずV2ロケットを改良することからスタートする。その結果開発されたのが、比較的小さなロケットを複数束ねて使用する「クラスター化」という技術だ。以前放送でも話したが、これは現在のロケットにもよく用いられる構造である。

宇宙まで飛ばすほどの大型のエンジンを開発するのは正直コスパがあまり良くない。そこで、小さいロケットを複数束ねることで宇宙まで到達できる推力を確保しようと考案されたのがこのクラスター化である。

R-7は、完成当初は大陸間弾道ミサイル(ICBM)として利用するつもりだったのだが、液体燃料の搭載に非常に時間を要してしまったことと、広い射場が必要であったことなどから兵器としてはあまり使い勝手のいいものではなかった。ところが、ロケット先端に積まれた弾頭を人工衛星に置き換えて打ち上げたところ、優れた能力を発揮する。

人工衛星スプートニク1号の打ち上げに世界で初めて成功すると、その翌月には犬を乗せたスプートニク2号の打ち上げにも成功した。
ミサイルとして使う予定だったものを宇宙開発用のロケットとして運用したことで大きなな成果を上げることができたのだ。
R-7ロケットは、後に世界のロケットの中で最も長期にわたって使用されるソユーズの基礎となる。

アメリカは当初、レッドストーンの開発にいち早く成功したことで軍事的にも優位に立つのとができたと驕っていたが、ソ連がR-7ロケットを使って世界初の人工衛星打ち上げに成功すると、アメリカは一気に焦りだす。

それまでロケットを兵器としか見ていなかったアメリカは、宇宙開発にも利用できる可能性を見落としていたのだ。
これを機にアメリカは、ロケットを兵器としてだけでなく宇宙開発のための輸送手段としても開発するようになっていく。
今では宇宙開発のイメージが強いアメリカだが、開発当初はソ連にだいぶ遅れを取っていた。その遅れを取り戻し、追い越すようになるのは、ソ連が崩壊する頃からだ。

まとめると、兵器として開発したはずのR-7ロケットを宇宙開発のために利用したら、大きな成果を上げることができ、ソ連はロケット開発をアメリカに先んじてリードしていたということである。

参考文献:ロケットの科学 改訂版 創成期の仕組みから最新の民間技術まで、宇宙と人類の60年史 (サイエンス・アイ新書)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?