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ある晴れた、ある日の、ある時間。
頼む!一生のお願いだから!
リビングで叫ぶ少年と、見向きもしない母。
あきれ顔の女性と、手を合わせて身を丸める男性。
これは窮地に追い込まれた人間と、縋られる人間によって繰り広げられるプロレスのようなもので、全国各地で行われている。願いが叶うかは定かではないが、自己中な誠意の表現方法としてこの国に根付いているのだ。
僕もこれまで数多くの「一生のお願い」を使った。
友達に筆記用具一式をかりるときも、授業に寝坊してしまって、代わりに出席をお願いするときも、ちょっと本気でお願いしなければならない時に、この伝家の宝刀を使ってきた。
「一生のお願い」はとても便利だ。お願いが叶えば、使用回数が1回補充され、叶わなければ消費されない。どうだろう、じつに便利なものではないか。ちなみに完全に合法である。
競馬を嗜むようになって以来、僕は購入した馬券が写真判定になった時には必ず「一生のお願い」に世話になっている。軸馬の3着or4着判定の時に至っては、友達の分の一生のお願いも消費させてもらう勢いで祈っている。
人は一生のお願いを使う時、「今後の人生、何もお願いできなくていいから」と思っているだろうか。
おそらく答えはノーだ。どうせまた使えると思っている。
馬券を外すと、その瞬間死にたくなる程のお金を失うことはあるが、外れたところで命を落とすことはない。あーやっちまったぜ。と思い、そして何事もなかったかのように、次の一生のお願いの準備に取り掛かる。
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僕らの生活にはやり直すチャンスがいくらでもあって、だから次に進める。少なくとも僕はそう信じていて、毎週のように競馬をやっている。同じような失敗を繰り返しているが、そこは目をつぶり、そうして2024年ももうすぐ半分を終えようとしている。本当に学ばない男だと思う。
正直に申し上げて、ゴールデンウイーク明けから今日まで、結構負けている。もう我ながら感銘を受けてしまう。
そして今週末に来たるは、日本ダービーである。
5月ラストを彩るJRA競馬最大のレース。夏のような日差しが降り注ぐ府中競馬場で、18頭の若駒がダービー馬の称号を目指す。競馬を見たことがあるものであれば、それがどれだけ偉大で、尊いものかを知っているだろう。
ダービーに関する名言で有名なものがある。
ダービー馬のオーナーになることは、一国の宰相になるよりも難しい。
その国のトップになるよりもさらに難しいこと。ダービーはそれだけ格別で、ダービー馬のオーナーは絶対的な地位なのである。
今年のダービーも世代有数のメンバーが揃った。
無敗の2冠馬を目指す、ジャスティンミラノ。
クラブ史上初のダービー制覇を誓う、コスモキュランダ。
世代最高のポテンシャルを秘める、ゴンバデカーブース。
その他皐月賞を緊急回避となったダノンデサイル、世代屈指の末脚を持つ皐月賞4着のアーバンシック、英雄と共に邁進するシュガークン、そして未完の大器ダノンエアズロック。
出走馬それぞれに、ダービーにたどり着くまでのストーリーがある。順風満帆だった馬もいれば、神経をすり減らす日々を経て、ようやくたどり着いた馬もいるだろう。
毎年7,000頭以上生産されるサラブレッドの頂点を決めるレース。大げさではなく、この日のために生きるホースマンは確実にいる。
枠順は大外でいい。他の馬の邪魔は一切しない。賞金もいらない。この馬の能力を確かめるだけでいい。
ダービーを勝てば一生が変わる。
そのために、まるで全ての運をダービーに使ったかのような馬もいたし、ダービー馬になった日を境に燃え尽きてしまう馬もいた。志半ばで命を落とした仲間もいた。
身を挺しても手に入れたい称号、それがダービーである。まさに生涯一度の晴れ舞台。やり直しのチャンスは2度とないのだ。
ダービー馬になる権利は、18頭すべてに与えられている。
きっとどの馬にもチャンスはある。
5月26日(日)15時40分。
僅か2分半の舞台に、全てのホースマンが思いを込める瞬間がすぐそこにあるのだ。
この記事のタイトルは、若い頃聴いていた曲の歌詞を引用した。
ある晴れた、ある日の、ある時間
あるメンバーと、強く差す日ざしのもとに集まり、
がむしゃらに、過ぎてくわずかな日。
きっと青春の刹那的なシーンを歌ったものだろう。
もう2度と来ない日を、最高なものにしたい。
この日が一生続くものだと思いたい。
ゆっくり、じっくりと時間を漂うも、時は確実に過ぎていく。
この一瞬を尊く思う感覚と、ダービーがなんだかフィットした気がする。
あなたの大切な馬や、僕の大好きな馬が
どうか素晴らしい走りを見せてくれますように。
そして最後の直線で、
誰かの「一生のお願い」が突き抜ける姿を
僕はしっかりと見届けたいのです。
※タイトルの曲です
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