デンマークにおける学びの素描④(No.8)ー私立小中学校(Lille skole)訪問(後編)

0.民主主義とデンマークの教育
1.インタビューから
 (1)授業の中身について
 (2)学校運営について
   1)生徒と学校運営
   2)保護者の参画のあり方
   3)まとめー三角形の運営


0.民主主義とデンマークの教育

インタビューを行った内容について、「民主主義」というキーワードに沿って記したい。

というのも、私がデンマークの教育に関心をもったのも、デンマークの学校教育が「民主主義的な素養の育成」に力を入れているのではないか、という関心と仮説をもったからである。

きっかけは、デンマークでは、投票率が80%を超えたり、政治的な汚職が少なかったり、ジェンダー間の社会的平等において非常に高い水準を保っていたりと、OECD等が発表する「民主主義がどれくらい進んでいるか」という指標でも総合して高水準を示している、ということを知ったことにあった。

その事実と、デンマーク流の教育の間に、何か関わりがあるのではないか、と感じた。

調べていくと、「フォルケホイスコーレ」という現在私が通っている成人のための学校の存在に行き当たった。

当時、社会的地位の上でも周辺に追いやられていた農民達にこそ、共同による学びを通じて「啓蒙の光」を授かってほしい、というコンセプトをもって生まれた。
この学校の存在を、ボトムアップ式に民衆の力を伸ばしていく機関と理解した。
また、別の誰かの要求ではなくて、民衆による、民衆のための学校である、と捉えた。

そして、この「フォルケホイスコーレ」の存在と理念が、デンマークの公教育にも良い影響を及ぼしているのではないか、と考えた。

言い方を変えると、デンマークの公教育も同じように、民衆による、民衆のための学校として機能しているのではないだろうか、という感触をもった。

今回、実際に担当の先生から話を聞く中で、断片的にではあるが、「民主主義」を学校教育の中でいかに機能させるのか、もしくは、いかに〈民主主義的な〉学校をつくるのか、考えられている様子が伺えた。

では、具体的にどういった形で「民主主義的な教育」は機能していると言えるだろうか。


1.インタビューから

(1)授業の中身について

前編で記載した授業のスタイルに、「民主主義的」と捉えられる要素はあるだろうか。

インタビューに際して、率直にそのことを聞いてみた。
「デンマークの教育は、民主主義の素質を磨くことを目的としていると聞いたが、本当か。本当なら、授業の中でどのように実践していますか?」

担任の先生の答えは、「イエス」。そして、取り組みとしては、〈対話〉をベースに授業を構成している、ということだった。

それは、机椅子の配置の仕方に、よく表われている。子どもたち同士が、身体を対面させられる配置となっている。

授業の展開の中では、どうだったろうか。

グループ毎に俳句を劇にする展開は、子ども同士の対話によって進んだ。
またその際、子どもたちは身体をよく使っていた。言葉と身体双方を使った対話(「身体/言葉的な対話」)、と言えるかもしれない。
1年生という年齢段階を考えても、〈言葉=概念〉による対話だけではなくて、そこに身体の感覚を介した方が、理解が捗るのだろう、と感じた。

インタビューの中で、担任の先生が、身体を使うことと、対話を通して学ぶことの重要性を強調していた。
教育学者のデューイの考えに基づきながら授業を創っているようで、「you learn in groups together(グループの中で共に学ぶこと)」を目指している、と言っていた。

また、「対話による学び」を構築する上で、「They have to feel safe and trust」(安全と信頼の感覚が欠かせない)と言っていた。

このように、〈対話〉のスキルを磨くことに重点を置いた授業は、「民主主義的な素養」を培うことにどう関わっているのだろうか。この点は、整理が必要であると感じた。

他の授業の例として、6年生以降の「政治」の授業で、大臣等役割分担をしてロールプレイを行ったり、テーブルサッカーを使って、政党毎に色分けをし、議員の顔写真を選手に貼ってプレイをしたりすることもある、ということだった。これらを通して、政治や社会問題に関心をもたせるそうだ。



(2)学校運営について

さて。インタビューの話は、学校運営に及んでいった。
その中で、「民主主義的」であると感じた部分をピックアップしたい。


1)生徒と学校運営

生徒は、学校運営にどう関わっているのだろうか。

デモクラティックミーティング(正式名称の確認が必要。)があり、0年生から9年生まで、各学年2名ずつの代表者が話し合う機会があるようだ。そこに、担当の教員も参加する。
生徒から学校に関する要望を聞いて、一緒に話し合っていくことが目的のようだ。

0年生の段階から代表者がおり、また年齢に関わらず一律に2名ずつ参画している、というのが興味深い。

その運営の中身については、詳細に聞くことができなかった。

ただし、例えば、バスケットゴールを置いて欲しいという要望などもあり得るし、歓迎であるということであった。
このあたりに、「子どもによる学校運営」の断片を感じた。

また、担任の先生の子ども時代だった25年前と比較して、子どもたちが「現状維持」を望んでいることに、物足りなさを感じていると言っていた。

これは、日本では、あまり聞かれない台詞かもしれない。

これは、子どもたちから生まれる要望や変化を求める声を歓迎する先生の姿勢と言えるだろうか。

もし本心であれば、そこに「民主主義的な素養」を育てようとする本気度があると言えないだろうか。

ちなみに、こうした子どもたちの声を学校運営に組み込もうとする先生の姿勢は、日本に比べて、学校や先生の裁量権が大きいという行政的な事情も絡んでいる。


2)保護者の参画のあり方

インタビューの中で、担任の先生は、しきりに保護者の参画の重要性を強調していた。

保護者の側から話し合いたいという旨の要求があった場合には、時間をつくり、直接話し合うことを大切にしているそうだ。メールがくることもあり、その後、話し合いの場を設定するようである。

そして、こうした話し合いの場を重ねながら、教育や子育てについてコンセンサスと信頼関係を築いていくのだろう。
いつでも保護者と対話をしようとするフットワークの軽さと、オープンな心構えを感じた。

ちなみに、保護者の教育への参画意識の高さは、私立の学校でもあるため、学校の理念に共感をし、強く興味を寄せる保護者の方々であるという背景があるとのことであった。

デンマークの教育の中でも、公立学校では事情が異なるかもしれない、と言っていた。この点は、別に調査が必要である。


3)まとめー三角形の運営

ここまで、インタビューで聞いたことの一部を書いてみた。

インタビューを通じて私自身の頭に浮かんだのは、「三角形の運営」ということである。
三つの頂点に、学校、保護者、そして子どもたちがいる。
三つが「平等」という意味で、三角形である。

先生の発言からは、子どもたちのより良く、健やかな成長のために、学校(教師)と保護者はあくまで対等で協力関係にある、という意識を感じた。

そして、学校運営のもう一点に、子どもたちがいる。(この点は、断片的にしか捉えられていないため、さらなる調査が必要。)
それは、ミーティングの場をつくり、学校生活に関する子どもたちの声を先生が積極的に聞き、学校のあり方に取り込んでいくという姿勢でもあった。

この三角形に、「民主的な学校運営のあり方」を考えるヒントが落ちているように感じた。

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