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越境するための深化──ビジティング・メンターとともに深めるグラフィックデザインの可能性

「拡張する輪郭」「学ぶ組織」......といったキーワードが表すように、Takramは自らの可能性を広げるために学ぶ姿勢をもったメンバーが集まるチームです。学びの環境は個々人の取り組みだけではなく、組織としても後押しする仕組みを整えています。そのひとつが「ビジティング・メンター」という制度です。各領域でリーダークラスのプロフェッショナルとのプロジェクトやレクチャーを通して専門性を深めるこの制度が、いかにグラフィックデザインチームの輪郭を拡張させているのかを、ブランディングエージェンシーKontarapunktのボー・リンネマンさんとTakramのアートディレクター山口幸太郎が話しました。

Text by Asuka Kawanabe
Photographs by Shinji Serizawa 

Takramが大切にしている「ペンデュラム・シンキング(振り子の思考)」。個人が複数の専門性や思考を養い、問題や解決策を複眼的な視点で眺めながら発想するというこの考え方は、Takram特有のメタファーであり、カルチャーでもあります。

この振り子の思考を養うために、個人がひとつの専門性にとらわれずにいること(越境)と同時に、それぞれの専門性を深く掘り下げること(深化)も重要視しています。そのためにTakramでは、各領域でリーダークラスのプロフェッショナルをメンターとして招く「ビジティング・メンター(Visiting Mentor)」と呼ばれる制度を設けています。

この制度を活用し、グラフィックデザインチームのメンターを務めていただいているのが、北欧を代表するブランディングエージェンシーKontrapunktです。コペンハーゲンと東京にオフィスを構え、国境や文化、時代を超えるデザインを得意としているKontrapunktは、これまでLEGOやDENSO、資生堂、日産自動車など国内外の多く企業やNGO、行政機関のブランディングを手がけてきました。

ボー・リンネマンさん(Kontrapunkt共同設立者、クリエイティブディレクター、建築家)

「ロンドンで初めてTakram代表の田川(欣哉)さんに『振り子の思考』についての話を聞いたとき、私は感動したんです」と、Kontrapunktの共同設立者であるボー・リンネマンさんは話します。「エンジニアリングとデザイン、テクノロジーとクリエイティビティの領域を行き来しながら仕事をするというその考え方は、Takramの領域を見事に表現したものでした。Takramはデザイン・イノベーション・ファームであり、Kontrapunktはブランディングエージェンシーですが、互いに学べることは多いと思っています。このパートナーシップの素晴らしさはそこにあるのです」

メンターシップを通して学ぶ世界の潮流

Kontrapunktがビジティング・メンターになった当時、Takramはグラフィックデザイナーたちがチームとして活動し始めたところでした。グラフィックデザインの領域で長い歴史と多くの実績をもつKontrapunktは、グラフィックデザインやチームビルディングの経験やノウハウを学ぶうえでこれ以上ないパートナーでした。

「Kontrapunktは歴史的な背景を押さえつつも、最先端のデザインを生み出すことに長けています。また、デザイナーからストラテジスト、アートワーカーまでさまざまな専門家がいて、ブランドにまつわる幅広い分野に対応する力も合わせもっています。学ぶことが多いんです」と、Takramのアートディレクターである山口幸太郎は話します。

山口幸太郎(Takramアートディレクター、ディレクター)

これまでTakramではリンネマンさんとのメンタリング・セッションをしたり、Kontrapunktによるタイプフェイスデザインの講義を受けたほか、最近では共同プロジェクトも始めました。

「Kontrapunktの方々は親身になって、デザインについてもあらゆることを教えてくれました。とても寛容で『すべて盗んでいい』と言ってくださっています」と、山口は振り返ります。「Kontrapunktは『このデザインやコンセプトでクライアントのビジネスや活動が動くかどうか』を非常に重視しているんです。そうした考え方も大きな学びになります」

一方で、リンネマンさん自身もTakramとのパートナーシップで学びがあったと話します。「私も日本のグラフィックデザインに対する考え方や表現を学びました。日本のグラフィックデザインは独特で、見てそれとわかります。大陸の反対側に位置するデンマークと日本のデザインは、画像や記号、タイポグラフィ、色の使い方まで何もかもが違うのです」

互いにそれぞれのデザインを真似する必要はない一方、外国で働くときは自分のスタイルを維持しながらそれぞれの国に適応しなくてはならないと、リンネマンさんは考えています。「これもある意味で振り子と言えるでしょう。海外に適応しながらも、自分のアイデンティティを維持する必要があるからです」

山口も言います。「世界のグラフィックデザインやブランディングデザインを見ると、日本に比べて新しい取り組みをしているところが多くあります。そうしたところに目を向けなければ、Takramとしても成長がありません。そういう点でも、このメンターシップを通じてヨーロッパの流儀やニーズを知り、目線を上げていきたいと思っています」

国境や文化、時代を超えるデザイン

1985年に設立されて以来、約40年にわたりブランディングを手がけてきたKontrapunkt。めまぐるしく変化するデザインシーンを見てきたリンネマンさんは、いまのデザインシーンで必要なマインドセットをどうとらえているのでしょうか。

「グラフィックデザインやブランドデザインの領域は、最近はとても複雑になりました。さまざまなプラットフォームやタッチポイントで包括的かつ一貫性のあるデザインや体験を生み出すには、さまざまな専門性をもつ人の協業が必要です」

そうした協業のためには、すべてのアイデアが共有されていることが必要だとリンネマンさんは言います。「互いに共有されればされるほど、アイデアは優れたものになる」と彼が言うように、Kontrapunktでは誰がどのようなプロジェクトやアイデアをもっているかがシェアされ、そこに対してチームを問わず意見やアイデアを出す文化が醸成されていると言います。「互いの考えの違いを認め、議論することも大切です。ただ意見を拒否するのではいけません」

そうした違いを尊重する文化こそが、国境や文化、時代を超えるKontrapunktのデザインを可能にしているのかもしれません。

ブランドのアイデンティティ構築といったブランディングの分野には、さらなるイノベーションや新しい考え方が必要だとリンネマンさんは考えています。

「新しいテクノロジーによって、これまでできなかったことを試してみる必要があります。そして、Takramにはテクノロジーやイノベーションに関するスキルがあるのです。いつか一緒にブランディングプロジェクトをできれば素晴らしいですね」と話します。「デザイナーとして、われわれはオープンでなくてはならないと思います。すべてのノウハウを自社で抱え込むのではなく、経験を互いにシェアすることが専門領域の発展とビジネスの成長につながるのです」

こうした世界のデザインシーンをリードするKontrapunktと学び合える貴重な環境のもとで、Takramのグラフィックデザインチームはグラフィックデザインの可能性、さらにはグラフィックデザイナーとして越境するための深化を続けています。

Takramではグラフィックデザインチームをはじめ、一緒に働く仲間を募集しています。ご興味のある方は、ぜひCareerページをのぞいてみてください。

ボー・リンネマン|Bo Linnemann
Kontrapunkt共同設立者、クリエイティブディレクター、建築家。 デンマーク王立芸術アカデミー建築学校にて建築の教育を受けた後、グローバル企業のデザインやブランドアイデンティティ、ブランドタイプフェイスのデザインに従事。デンマークデザインアワードを17回受賞したほか、数多くの国際的なデザイン賞の受賞歴を誇り、世界のデザインシーンに影響を与え続けている。1985年コントラプンクトを共同設立。デンマークの多くの官公庁や国際的な企業の多岐に渡るブランディングを手がけ、2011年と16年にはCreative Circleからベストデザインエージェンシー賞を受賞。 母校である王立芸術アカデミーでも教鞭をとり、06年に武蔵野美術大学客員教授を務めた。

山口幸太郎|Kotaro Yamaguchi
東京藝術大学にてデザインを専攻すると同時にデザイナーとしてグラフィックデザイン、サインデザイン、映像デザイン、UIデザインなど、幅広くビジュアルデザインの経験を積む。2014年からTakramに参加。14年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。主なプロジェクトにNHK Eテレの科学教育番組「ミミクリーズ」のアートディレクションなどがある。D&AD Yellow Pencil、グッドデザイン賞ベスト100、14年日本賞 幼児向けカテゴリー最優秀賞(総務大臣賞)、アメリカ国際フィルム・ビデオ・フェスティバル教育部門最優秀賞(部門1位)など受賞多数。

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