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e-commerceの未来をピザから考えてみる

アメリカの大学留学中にインターネットブラウザーが誕生し、その後半導体エンジニアとしてシリコンバレーへ移住してから早25年。アメリカと日本のネット市場に携わってきて感じている今後のe-commerceについて、一消費者としての視点で私の考えを共有したいと思います。


ネットショッピングの歴史

みなさんはPizzaNetと言うサービスをご存知でしょうか?時を遡ることちょうど30年前、1994年にカリフォルニア・サンタクルーズでピザハットのフランチャイズを営んでいたオーナーが始めた、オンラインでピザが注文できる世界で初めてのeコマースのサイトです。ブラウザーがMosaicからNestcapeに移行し始めたまだまだインターネット創世記に目の当たりにしたこのサービスは、その後の30年間で私が体験した中でも最も衝撃的な瞬間の一つとして鮮明に覚えています。我々を取り巻くインターネット体験はその後目まぐるしく進化を遂げ、MapQuestからGoogle Mapへ移行や、iPhoneの登場によるスマホシフトなど、数々の技術的躍進は経験しているものの、それまで電話で注文するのが当たり前だった宅配ピザがインターネットで注文できるという、自分の中の常識が一気に崩れた瞬間の衝撃を超えるものは未だにあれ以来感じたことがありません。

今でもピザハットのサイトには当時を思い起こすページがアーカイブされている

eコマースの進化

とはいえ検索アルゴリズムに基づくレコメンデーションを始め、パーソナライゼーション化された広告配信、アマゾンの躍進によるロジスティックス革命など、この30年の間にeコマースを取り囲む環境は確実に進化してきました。またブラウザの表現力が上がるにつれUI/UXと言う単語が社会の中に浸透し、設計・デザインに対する重要度はこれまで以上に高まってきました。

しかし一歩引いてユーザー目線での体験を見てみると、キーワードを入力して商品を検索し、表示される商品一覧から気になる商品をクリックして詳細を確認し、レビューを読んで質や値段が妥当と感じればカートに入れて購入する、と言う基本的なフローは30年前から大きく変わっていないことに気づかされます。

「キーワード検索→商品一覧から選択→商品詳細確認→カートに入れる」というフローは30年間大きく変わっていない

未来のネットショッピング体験とは?

では、未来のeコマースはどのようなものが想像できるでしょうか? 中国で人気を博しているライブコマースは、購入体験に新たなエクスペリエンスをもたらしてはいますが、これはかつてデパートでよく見られていたプッシュ型のセールス体験の変革に過ぎず、一般的なeコマースサイトにおける購入体験を置き換えるものではありません。では最近話題のApple Vision Proのような体験が未来の姿なのかというと、ヘッドセットが必要な時点で私はnoだと感じています。二次元の画面に捉われず誰でもバーチャル空間を裸眼で体験できることが理想と考えていますが、そのためにはホログラム技術などディスプレイ技術における革新的な進化が必要なので、そのような未来が訪れることを夢見ていますがまだしばらく時間がかかるでしょう。

ホログラム技術の進化によって本当のAR/VR時代が到来する(画像はDALL-Eで生成)

従来型のリテールモデルの崩壊

とは言え次に示す記事にあるように、ここ数年アメリカの大手リテーラーは店舗の閉鎖が続いており、リテール業界では従来型のコマース体験を見直して店舗で実物を確認することに重きを置かないz世代を取り込むことは急務となっています。

そこで、現在からその未来に至るまでの間に、今ある技術を使ってどのように我々のeコマース体験をより時代にあったものに変革できるか調べてみました。

本命はメタバース?

例えばアメリカ大手カジュアルウェアブランドのJ Crewでは、3D空間でショッピングができるサイトを昨年度から展開しています。他にも高級デパートのBloomingsdaleでもメタバースの空間でショッピングができるサイトを作るなど各社試行錯誤している様子が伺えます。

このようなVRやweb3など様々なweb上での技術を試していく中、結局私が可能性を感じたのは仮想世界寄りのメタバースのではなく、より現実世界に近いストリートビューです。Google ストリートビューのような現実の画像データを使ったバーチャル空間は、平面のディスプレイに表示されているものの実際その場所に行ったような錯覚をもたらす効果があります。これはメタバースなどで受ける仮想空間で別世界に行ったと言う感覚とは似て非なるものと考えます。ストリートビューが正常進化を続け、よりスムーズに、より詳細なモデリングが行われていけば、リアル店舗の体験を置き換えることも可能になってくることが容易に想像できます。

リアル店舗を置き換える体験

例えば、360度カメラで細かく撮影されたコンビニの中を、ユーザーが画面上で自由に移動し、商品を選び、レジに移動して支払いを完了する、と言う体験が実現されれば、これまでのeコマースの体験を根本から変えることができるでしょう。例えば顧客のプロファイルに基づいた店舗のレイアウト設計や商品の配置の仕方など、よりパーソナライズされたコマース体験が可能になります。

これらを実現するVR、3D空間マッピング、リアルタイム配信技術などは既に存在します。現に既に稼働しているものも世の中にはリリースされていることは認識していますが、私のイメージしているような細部までとことんこだわり抜いたモデリング、及びスムーズな空間移動を実現しているものはまだみたことありません(あったら教えてください!)。

未来のeコマースでは、ただ商品を購入するということを超えた体験を提供しなければいけません。スマホ以前ネットに触れる機会がなかった一般消費者が、今やネットで買い物することが当たり前になっているように、近い将来実際の店舗に行かなくても、行ったような気分になってショッピングを楽しむ時代がすぐそこまできていると感じています。

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