Back Alley Story制作記

こんにちは。たこぴーです。こちらは2023年春M3にて頒布した「Back Alley Story」の制作記です。自分が何を考えていたかの記録として残しておきます。


1.制作したきっかけ+α


2023年度秋M3に出展した際、同じサークルのyakumoくん、あみるさんが春に何か出すという話をしていて、僕もその影響を受けて何か出してみるかという決断をしました。時期的な話をすれば、3年生になったら就活や学業が忙しくなって創作が難しくなるだろうという予感もあった(し、実際今忙しい)ので、あそこで決断していなければリリースに踏み切れなかったと思います。コンピレーションを開催する、という企画ありきで始まったのが今回のアルバムでした。
「インターネットやめないで」結成の経緯としては、FullmoonさんのサーバーでP0cketくんがEPをリリースするという話をしていて、出展金を分担すれば出展しやすいのではないかと相談したのが始まりです。そこから上述の2人も誘い、総員4名のサークルとなりました。

Rabbit Beat!のライナーノーツにも書いてありましたが、サークル名は仮に決めてあった名前をそのまま採用したものです。どうしてこうなった。ただ、このサークル名のおかげで自分とは縁遠い方々にも注目して頂けたこともあり、良い屋号だったと思います。
ちなみに、冬頃に@takopi_octが凍結されてしまって本当にインターネットをやめるところでした。イーロン・マスク許さねぇ(伏線)


 

2.テーマについて


今回の作品全体のテーマは「小説×音楽」という試みを行うことでした。小説のあとがきにも書きましたが、KMMにて昨年11月にリリースした『鯨』という作品のコンセプトを自分なりに展開したものです。『鯨』では私の友人である蓮丸くんと共同して企画を立案したため、彼の所属する慶應ペンクラブと私の所属するKMMで出来ることを追求しました。その結果、小説世界を表現する音楽を制作するコンピレーションを制作することになりました。すなわち、小説×音楽という形があって、そこからアルバムの内容を検討していく進め方であったと言えるでしょう。また、情景描写的な作品が多く、BGMライクであったとも言えるかもしれません。
それに対して、今作では自分自身に出来ることを突き詰めた結果として小説×音楽というコンセプトに至りました。昔から短編小説を書くのが好きで、実は高校生の頃に「たこぴー」として2,3作インターネットに公開しています。小説執筆を始めた時期自体は小学生の頃まで遡りますね。いや~あの頃は若かった(?)
少し自分の活動を振り返ってみて、単に音楽を作る、集めるだけでは「たこぴー」の表現ではない、他の人に出来ないことをやってみたい、という気持ちがあり、今回のスタイルに帰着しました。私自身のDTMの実力はお世辞にも高いとは言えませんが、複数の表現や思想、あるいは自身の経験を載せることで自分だけの表現、作品世界を確立できたと思います。
自分自身の経験を載せる、となるとやはり私小説的な形式が適当だろうと考え、まずは自分にとって大事な記憶を辿ることから始めました。
当時、GO HOMEというホラーゲームの実況を見ていた影響で「夕暮れの射す住宅街」に対して非常にノスタルジーを感じていました。そこで、夕暮れを作品の中心に配置しつつ、ノスタルジーの根源である自分の生まれ育った土地を舞台に据えるという構成を取りました。
「熱素の満ちる透明で原始的な部屋」

この作品も自分の経験に基づく作品です。もはや小説かエッセイかも分からない。
一方で、今までの経験から自宅、あるいは地元に対して息苦しさを感じていたのもまた事実です。自分の過去に触れつつ、そこに留まらない何かがあるという期待を込めて小説の舞台を転々とさせる展開を取っています。

3.コンポーザーについて


今回ご依頼を差し上げたのはどなたも同年代のコンポーザーの方々でした。1曲ずつご紹介します。

プロローグはAbleman Liveくんの「mono to prologue」です。
Ableman LiveくんはKMMで出会い、特にここ1年はリアルでの活動が増えたこともあり、かなり関わりがあった人物です。彼の楽曲は大胆な音作りと引き込まれるグルーヴが特徴的であり、今作のmono to prologueではその良さが存分に生かされていると感じます。タイトルは作品の語り方の変化を予感させるもので、普段から様々に思考を巡らせている彼らしいものでしょう。
mono to prologueはKMMの合宿でプロトタイプが制作されていた楽曲で、合宿で公開した際にはprologueというタイトルだったと記憶しています。合宿、色んな楽曲が公開されていて面白かったねぇ…

1章は衿さんの「春あらしと雲翳」です。彼とはTDL.とのコラボアルバムを通して繋がりを得て、discord等での交流によって音楽性を知るところとなりました。深いdigと音楽以外への広い好奇心によって厚みのある世界観を表現されているアーティストです。今回は最も叙事的かつ、情景の彩度が低い章を担当してもらいました。

これは何ですか?
この楽曲は短い中に「不思議な少女との邂逅」という物語が展開されているように思いました。一方で春らしいちょっと重苦しく、粘っこい雰囲気も作られていて、巧みな表現力には脱帽するばかりです。

2章はSunajiroさんの「蒼紺の狭間に」です。
初めて接点を持ったのは会場焼きコンピだったかな。Sunajiroさんが展開している青い世界観が好きで、いつか作品制作で関わってみたいとは思っていたのですが、今回依頼をご快諾いただけて本当に嬉しかったです。情景描写の上手さが際立つアーティストなので、今回の重要な場面である、夕焼けの章を担当していただきました。タイトルを拝見したとき、小説のシーンに掛け合わせながら、情景を織り込んできていて、ただただ感動するばかりでした。
イントロの優しいピアノからもう素晴らしい楽曲なんですが、パーカッションが散らばるような表現から対話をしている様子を感じられます。

3章はP0cketくんのthoughtwaveです。
今回のアルバムで依頼した中ではもっとも関わりの長いアーティストです。秋には合作をしたり、色々ありましたね。

初めてのリプがこれ。どういうこと??
thoughtwaveのライナーノーツは公開されているのでぜひお読みください。

彼に担当してもらった章は他者とのコミュニケーションをテーマにした部分で、普段から懊悩しているからこそ、ここを担当できるのは彼しかいないと考えていました。2:38からの展開は、そこに至るまでの思考が最後、少しずつ晴れていくイメージを感じられます。

4章はYuhgaoさんのHazel Greyです。アオイロホウキボシでの活動や、個人でのリリースはどれも芯の通った世界観が確立されていて毎回すごいなと思っています。
Hazel Greyもライナーノーツを公開されるとのことでしたので、僕がここで語りすぎるのは無粋でしょうか。M3でタイトルに込めた意味を伺った時、驚きのあまり叫んでしまいました。冬の陰気さと会話、人の往来といった小説の要素が織り込まれていて、美しい楽曲です。

最後の楽曲は私の楽曲「雨を晴らす、声を語る」です。
これについては後の章で言及します。

マスタリング担当はDouble Liftさんです。
彼とは比較的最近知り合った仲ではありますが、歳が同じということから親しみを覚えています。一方通行?
マスタリング担当を探していた時に、身近な方で依頼できるくらい実力がある方を考えて、彼に依頼を出しました。帰ってきた音源の空間や迫力は2mixとは段違いで、Ableman君共々、感心していたのを覚えています。

4.ジャケットについて


ジャケットは天色ほとりさんに依頼しました。
以前、偶然作品を拝見して以来、いつかジャケットの依頼を差し上げたいと考えていました。実は、KMMのアルバムのジャケットの依頼をしたことがあったのですが、都合が合わず流れてしまったため、今回改めて制作して頂けて、嬉しい限りでした。
磨かれた言葉遣いと、丹念に選ばれた色から成る作品が本当に素敵です。

今回のジャケットのタイトルをいただいており、表面が「4:00と霧」、裏面が「夕耽り」とのことでした。依頼時には「雨を晴らす、声を語る」と小説「Back Alley Story」をお見せしたのですが、記憶が散らばる様子、声を語らう様子を支持体も含めて表現されています。基調となる勿忘草色(記憶というテーマに合わせて私が選んだ色です)の上に、更にテーマを基にして黄色を配置し、日常に潜む記憶を、一方支持体の凹凸による不規則さも盛りこむことで、作品の中の「人の営み」を表現されていると伺いました。
こうして自分の想いを解釈してもらい、新たに自分の言葉で紡ぐことはこの作品の根幹にあることだったため、ある意味一番「Back Alley Story」らしい作品とも言えるかもしれません。

5.声を語ること


この楽曲を制作していたのはプライベートで辛いことがあり、生きる意味を自問自答していた時期でした。今だから書けることでもありますが、人間はどうせ死ぬのだから生きる意味はない、という命題に苛まされていました。生きていくうえでは辛いことは多いし、幸福を得ることに比べれば不幸にならない方がマシだという考え方が根底にあり、毎日楽に死ねないか、とかずっと考えていたのです。

その時期に出会った本の1つに「生の有意味性の哲学」という本がありました。まだ読み切れた訳ではないのですが、生きるために、生きる時に必要なことは自分が誰かの役に立つこと、だという観念が自分の中に芽生えるきっかけとなった本です。
しかし、誰かのために尽くすということだけでは人間は潰れてしまいます。どんなに聖人のように振舞ったとしても、どこかで見返りを求めたくなるものではないでしょうか。

それならば、人々が互いのために振舞えればいい。
互いのために人間が出来ること、それは対話だと考えます。何があろうと、対話だけは相手の存在を要求し、自身がその相手になることが出来、しかし自身の語りたいという欲求も同時に満たされる。

もちろん、欲求を基に人間を語ることには、普段は隠しておきたいグロテスクさが潜む訳ですが、私はそれが悪だとは考えません。逆説的かもしれませんが、欲求を満たそうともがくから人間は美しいのであり、人間の人間たる所以があると感じます。この世に生まれ落ちてきてしまったのだから、生きている間だけでももがいてみませんか?

最後に


長文にお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。

今回、「声を伝えること」をテーマにアルバムを制作しましたが、これから先、多くの経験を得て、これ以上の人生の意義を見出していきたいとも思います。DTMを始めた当時、雲の上にいるような方々と同じく、ブースの向こう側に立てたことが本当に感無量です。
DTMを始めた時は自分の人生がこんなことになるとは思ってもいませんでした。高校生の頃の自分に、勢いで始めた趣味でこんなことになってることを見せたら驚かれるだろうなぁ。

結びに、今回のアルバム制作に関わっていただいた方々とインターネットやめないでの3人、KMM、ペンクラブの皆様に感謝申し上げたいと思います。
またどこかでお会いしましょう。

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