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国立大学民営化の頃 その4

 国立大学が民営化された頃について、私の経験も交えて述べています。

前回は


民営化自体が先行する国立大学

 当時書かれた論文を読んでいると、政府は早い段階から、郵政省と合わせて、国立大学の民営化を想定していたみたいです。

 郵政省がその莫大な資産を宝の山として、他の民間金融機関と市場化で競争させようとしていたのと同様に、国立大学の場合も、郵政省と同一の流れで、法人化して、他の公私立大学や研究所と競争させる、研究の市場化を意図していたみたいです。

 国公私立大学や各種研究機関をを纏めて、研究教育をどうしていくかという、国の在り方にまで関係する、グランドデザインがあった訳ではなく、市場化の為に、先ず民営化ありきで進めて来たのが実情みたいです。

 国立大学法人という、民営化ではないとの論法から造られたページが、今でも文科省のサイトに残っています。

 ある意味、歴史的資料?とも解釈できる内容です。

 郵政民営化への反対の様な、研究と教育に影響する、その変化を危惧し抵抗する大きな動きはなく、国立大学は粛々と民営化され、教職員は公務員から民間へと移管されました。

 経済産業省と文部科学省の合作とも言われる、研究に重点を置き、高等教育を市場化に晒す方針は、もう一方の要である教育の議論をしっかり詰めないままであった事により、基礎研究の弱体化などの結果を生んでいる事が、6年後の調査で明らかになっています。

民営化の功罪の功

 民営化による最大の功績は、産学連携が進んだ事でしょう。というか、産学連携の為に、民営化されたと言っていい程に、順調に連携が進みました。

 また、既存の産業との連携ばかりでなく、既存の産業に直接結び付かない研究の成果についても、大学発ベンチャーとして、新規の事業が多く立ち上げられ、学内に多数のベンチャーオフィスが設けられました。

 人員に関しても、人員の定数が公務員基準でなくなった事で、柔軟に大学の特性に合わせた人員配置が出来る様になりました。この事で、研究室について、教職員の区分が多様化・複雑化します。

 教授だけでも、無期雇用の教授以外にも、有期雇用の特任教授が設けられ、無期の研究室とは別に、有期で存在する研究室も設けられます。

 有期雇用の教員については、特任を頭に付け、特任准教授や特任講師、特任助教、特任研究員などの職名となりました。無期の研究室に、有期の特任職の教員が所属するケースも多くなります。

 他にも、今までは通称では秘書や技術員と呼ばれていた非常勤職員も、学術支援専門員や学術支援専門職員などの職名に変わり、研究室については、その支援体制が充実する事になりました。

民営化の功罪の罪

 一方で、有期の職が増える事によって、雇用が不安定な教職員が増加した点などは、功罪の罪にあたる部分であると思います。

 平成の前半からの続く、国立大学を中心とした大学院重点化により、博士号取得者が拡大した時期と、国立大学の民営化が重なり、民営化により生み出された有期職が、増大した博士の受け皿の一部になりました。

 しかし、有期であるが故に、雇用が不安定であり、そこから零れ落ちる博士も出てきます。有期転換への義務がある5年で、雇止めに遭うケースなどです。

 それ以前に、文系博士では、市場化による資金の大きい理系分野への人材の偏在によって、文系分野の雇用自体が縮小して、雇用に辿り就けない博士も増えました。自然淘汰と言ってしまえばそれまでですが、研究教育も市場化されてしまったのは、本当に良い事だったのでしょうか?

 民営化によって表面上は国立大学の規模は維持されていますが、分野による偏りや、多くが有期の教職員という、不安定な雇用の増大によって生かされているのが実情だと思います。

民営化という国の政策の是非

 政府が、研究教育の将来的な在り方についてのグランドデザインを、完全に詰め切らずに国立大学を民営化し、高等教育を市場の論理に任せた事が、様々な弊害を引き起こしています。

 遠山プランなどの初期の方針である特許の10倍増加や、日本版シリコンバレーの創出などの、数々の方針がすべて成功していれば、日本の博士市場は大きく開けていた筈です。

 実際には、思ったほど市場は開かれず、大学生の将来の就職先として、大学等での研究の仕事は魅力を失っていきます。その為に、大学院の博士後期課程への進学率は、近年は減少を続けています。

 人口減少より早く博士の減少がこのまま続けば、将来的には国力の衰退により先に、教育研究が弱体化する事が危惧されます。

 民営化した事で、まだ衰退が防げているとの解釈もあるかもしれませんが、是非を問われれば、非の部分が多いと考えられます。

現代の日本の貧困化

 最後に、愚痴っぽい事で締めたいと思います。

 小泉構造改革の楽観的なシナリオで造られた、数々の日本全体を変革する方針は、当時は熱狂的な支持を受けましたが、20年以上たった今、日本全体を逆に貧困化させる結果を招いています。

 増大化した非正規雇用が、人口減少局面になった今でも、大幅な減少に至っていない事からも明らかです。

 当時の議論をリードした某大学の名誉教授が、悪びれずもせずにテレビに出ているのを見ると、気分が悪くなります。 

 20年以上も前の事なので、もう時効かもしれません。でも、政府が拙速に進めた、国立大学の民営化を始めとした、国力の発展をデザインした数々の方針が、未だ遂行されていない事を、素直に認めて欲しいものです。


 



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