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場面緘黙日記 -居場所-

前回は小学1年生の頃のお話までを書きましたが、あの出来事の後も私はずっと孤独なまま過ごしていました。

でも、「もうひとりでいい。ひとりがいい。」と思うようになり、私はつらいとも寂しいとも感じないほど"無"になっていました。


しえんがっきゅう


小学2年生のある日。

いつもの様に私は1人、教室で読書をしていた。

教卓では、女の子2人が「支援学級の教室に行かない?」と話している。

その2人のうちの1人(ここではKちゃんとする)は支援学級に通っている子だった。

その子の事情はよくわからなかったけど、私たちのクラス(通常学級)で授業を受ける時は、すぐに寝てしまったり、ぼーっとしていて名前を呼ばれても気づかなかったりということがよくあった。


だから、事情はなんとなくわかっていた。


「〇〇ちゃんも誘ってあげたら?」
と、同じく教卓にいた担任の先生がKちゃんに言った。

私は「え…?」と思ったが、Kちゃんもその友達もそういう顔をしていた。

でも、Kちゃんは少し戸惑いながらも
「行く?」と私に聞いてくれた。



 私は小さく頷いた。



私の居場所


その教室は土足厳禁だった。

入り口に入ると下駄箱があり、床はマット仕様になっていた。

「ここは本当に教室なの…?」と思うくらい、小さくて、静かで、…あったかい場所だった。

なんか変な気分だ。

学校なのに、学校にいるはずなのに、少し、ほんの少しだけ…落ち着く。


「何する?」

とKちゃんに聞かれて我に返ると、人生ゲームをやろうということになり、暫くそれで遊んでいた。

するとガラガラとドアが開き、Kちゃんの先生(ここではA先生とする)が入ってきた。

「いらっしゃい」

たまに廊下で見かける若い女の先生だった。

Kちゃんの先生だったんだな。

私は若い先生が担任になったことがなかった。
若い先生のクラスは学活の時間にお楽しみ会をやったりして楽しそうだったし、仲も良さそうで、凄く羨ましかった。

A先生は、穏やかで、優しそうな先生だった。

背後に淡い黄色の綿毛が飛んでいそうなくらい。


それから、私は昼休みになるといつもその3人でKちゃんの教室に行くようになった。

行っても特に何をする訳でもない。

ただKちゃんがお絵かきをしているのをA先生と一緒に見ているだけの時もあった。

たったそれだけだったけれど、

そこにいる時だけは、少しだけ楽になれた。

自分はここにいて良いのだと思えた。



私の居場所はここなのかもしれない。




思わず口元が緩んだ。









   パシャ。









その先生は私が3年生になると、もう、いなかった。







あの時撮られた写真は、未だに私の家の押し入れに取ってあるらしい。

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