【小説】フードロスとタイムマシン
タイムマシンが完成した。偶然できてしまったからには何かに使おうか。そこでわたしは考えた。
フードロスを無くすためにタイムマシンを使おう!
フードロスとは、売れ残りや食べ残しを理由に捨てられてしまう食品廃棄物のことであり年間ウン万トンに上るらしい。
別に持続可能な社会に明るくない私だが、使える技術は使うに越したことはない。飢餓に苦しむ子供たちには悪いが、まずは自身の好奇心を満たすために使わせてもらおう。
タイムマシンには使用用途を打ち込むキーボードと、それに適した座標(時間と場所)を検出する高性能なAIが搭載されているのだ。更に、座標の映像までモニターに映し出されるのだから半端じゃない。それに加え、タイムマシンによる干渉によって生じる影響についても問題ないと説明書に書いてある。一体どんな天才が作ったのだろう。
私の計画はこうだ。転移させるものは食品と設定し、ある座標(これをA点とする)からある座標(これをB点とする)へ食品廃棄物を移動させる。例として、A点はあるレストランの厨房で今にも廃棄されそうな大量のハンバーガーとし、B点は食糧危機に瀕し今にも餓死せんとする難民のグループとする。ボタンを押し機械を作動させると見事捨てるはずの食品はレストランから消え、公園では愉快なハンバーガーパーティが開催されていた。
実際にタイムマシンを動かしてみると、自分の行為で喜ぶ人の顔が見え得も言われぬ気持ちになった。再度ボタンを押すと四畳半の狭い部屋が眩い光に包まれあまりの眩さに目を瞑ってしまう。
一度目と違うタイムマシンの反応に困惑しつつ、何かの不具合が起きたのだと確信した。機械の発光は収まることがないため目を瞑って時を待つ。
しかし、ここで一つ疑問点が出てきた。転送された廃棄される食品は、あってもなくても処理の手間が不要になるだけで後々の影響は軽微であると考える。餓死する未来を回避した難民の影響はかなり大きいのではないだろうか。
一度目の過去改変の影響を修正する必要があるために、ナイターの照明かのような高lxに晒されているのだと理解する。
光が落ち着くとそこには見たことのある顔があった。ハンバーガーを両手にリスのように頬張る彼は、先ほどタイムマシンのモニター越しに見たばかりであった。彼の後ろにも5~6人の難民グループが同様に涙を流しながら頬張っていた。状況を整理するためグループに話しかけようにも皆食事に夢中であり、日本語で話しかけたところで伝わらないのは火を見るより明らかだ。
周囲は深い森に囲まれており、あたりに人工物は見当たらない。背の高い木々の間からかろうじて煙が上がっているのが見えるが、どうにも嫌な予感がする。
これまでの自分の行いから現状を整理する。
タイムマシンには干渉の影響を修正する機能があることと、一度目に転移したハンバーガーの山と転移先にいた難民グループに加えて私というタイムマシンに関わった存在が集まっていること。
なるほど。そういうことか、と合点がいく。私はなんと愚かだったのだろう。二度目の起動時の眩い光は転移の際に生じるものだったのだ。
飢餓に苦しむ子供たちを救うことは難しいみたいだ、と空を見上げ一人謝る。
私は転移するものを「食材」と設定していたのだ。
森の奥からはゆらゆらと揺れる火が見え、大勢の人が近づいてくる足音が響いている。
今回もあまりよい成果ではなかった。わたしは溜め息を吐きつつ深いジャングルの木々を映し出しているモニターの電源を切った。タイムマシンを利用してくれる次の者を探そう。
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