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安売りノーベル賞

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー


大声で
「職員さん、職員さん」と職員を呼んでいるのはツヨシさんだ。
ツヨシさんは、何かにつけて頭にノーベルを付けたがる。

何かを否定するとき
「ノーベルダメ、ダメ!」
固い物を食べるとき
「ノーベルこれは固いでしょう」
という具合だ。

ツヨシさんは『ノーベル』を多発乱用している。

「ノーベル」とは「ノーベル賞」のことだ。
ツヨシさんの友人の知り合いだか、親戚の知り合いだか、知人の親戚だか、とにかくツヨシさんの知り合いに『ノーベル賞』を受賞された方がいて、その話はツヨシさんに強烈なインパクトを与えた。それでその話を多くの方にしているうちに、ツヨシさんの脳みそに「ノーベル」という言葉がすっかり住み着いてしまったに違いない。

だけどね~
こう「ノーベル、ノーベル」言われると、『ノーベル賞』の価値が下がるんだよなあ。

トイレに行きたいときツヨシさんは
「ノーベルうんちしょう」
と言う。

よし、こちらも負けずにノーベルを付けて答えてみよう。

「はい、はい、ノーベルトイレに行きましょう」

「ノーベルご飯をお持ちしました」

「ノーベルテレビを観るでしょう」

「ノーベル・・・・」「ノーベル・・・」
段々と私も頭に「ノーベル」と付けることが楽しくなってしまった。

そのうちツヨシさんは職員を呼ぶ時「ノーベル職員さ〜ん」というだろう。
そしたら、私は「ノーベルは〜い」と答えるとしよう。

知らない人が聞いたら、「ノーベルって犬か何かですか?」と、勘違いされそうですが。






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