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夢のまた夢



トシエさんは、以前「妖怪の気配」がするおばあちゃんとしてチラリと紹介した可愛いおばあちゃんだ。

相変わらず物をあちこち動かしてはいるが、最近は、自分の所にお膳が運ばれると、そのまま直ぐにお皿やコップを持って立ち上がり、何処かへ持って行こうと、うろうろするようになった。

以前は食べ終わった食器を隠すのが盛んで、それを探すのは宝探しのようにのんきなものだったのだが、この頃の中身が入った状態で持ち歩くのには本当に困ってしまう。

食事は一人用の小さなテーブルで食べている。

この間、もうコップだの、お皿だの、ちまちまと一つずつ運ぶのが面倒くさくなったのか、お膳を乗せたそのテーブルを、テーブルごと押して廊下を5メートルほど歩かれていたのには驚いた。

スタッフは誰もその光景に唖然として暫く黙って見とれていた。
「えっ!何が起こったの?」
と、その状態を把握するまで時間が掛かったと言ったほうが正しいかもしれない。

「ちょっと、ちょっと、何処へ行かれるんですか?」

流石に危ないので、一人のスタッフが声を掛けた。
(途中で止められてしまったけれど、何処まで押して行っただろう?)

トシエさんは、にこにこしながら
「え~、ちょっと・・え~」
と、言った。

それにしても、小さなテーブルとはいえ、テーブルをまるでゴロが付いている歩行器みたいに、結構なスピードでスイスイと押して歩くのだから凄いことをするもんだ。
笑わせてくれる。


ある朝トシエさんはとても悲しい夢を見たのか、ワンワンと泣いて目覚めた。
「起きる時間ですよ」と、声を掛けると、益々涙が溢れて来て、手で一生懸命涙を拭っていた。

「だって、子供が・・・なんでこんな事になっちゃった?」
と、鼻声で言った。

悲しい感情が涙になって流れているのを見て、私はふと現実が幻のように崩れて行く感覚に襲われた。
私は、あの、テーブルを押して歩いているトシエさんの夢を見たような気がしたのだ。
あれはもしや、私の夢だったんじゃないか?と。
夢でトシエさんは子供にご飯をあげようとしていた。
子供の所にお膳を持って行こうとしていた。


そして、此処で泣いているトシエさんと一緒に泣きたい気持ちになった。






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