「お熱いのがお好き」
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー
キヨシさんは戦時中、腸の病気で大変苦しい思いをされたそうだ。
たまたま掛かった医者が有能だったため、奇跡的に一命を取り留めた。
その命の恩人である医者にその時こう言われたそうだ。
『何でも温かい物を食べなさい!』
なので『何でも温かい物を食べる』を頑なに守り通している。
これが功を奏したのか、キヨシさんは100歳を超えている。
そして現在では温かい物を通り越して熱い物になっている。
食事は全て食べる直前に何でもかんでもレンジでチンする。
温かい物でも熱々になるまでチンをする。
レンジでチンは良いのだけれど、漬物や酢の物等味が壊れる物や、納豆みたいに匂いがきつくなる物もある。
流石にこれはどうかと思うとスタッフが
「これも温めるんですか?これは~温めなくても大丈夫ですよ」
と、声を掛けてみる。
「いや、これも温めてくれ!」
「でも、これは温めたら美味しくなくなっちゃいますよ」
「いや、これも温めてくれ!」
「これはもう温めなくても温かいですよ」
「いや、もう一度温めてくれ!」
と、こんな具合になるので全てのものはチンする事にしている。
新しい職員さんが入って来た。
入居者お一人お一人の特徴や注意事項を説明する先輩介護士さんは、キヨシさんについてこう説明していた。
「キヨシさんはね、お熱いのがお好きだから、食事は全て食べる直前にレンジで温めて出してあげてください」
その説明を近くでこっそり聞いていた私は一人でクスッと笑ってしまった。
『お熱いのがお好き』と聞いてマリリン・モンローが頭に浮かんだのは私だけだろうか?
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