下に、下に


こもれびの、さらにうわずみの、庭に植えられた桜の木々のわずかに上を、白い蝶々たちがひらひらと舞っている。街にある手入れされた樹木というのは、きちんと高さが切り揃えられているもんだから、上から眺めるとちょっとした草地みたいになっているの。

マンションの5階のさびれた部屋で、明るい方に不意に目をやると、そんな天国模様が目に入る。

草の葉の先で遊ぶように、蝶々たちはふわふわとやる。たぶん、若い芽ってのはいい香りがするもんだから、まるで甘い空気の塊の上をなでるようにめで味わっているよう、にも見える。

日陰の世界は涼しいけれど、アリや芋虫がはっているからね。ミミズが時折顔をのぞかせるし、バッタや小さな羽虫がいっぱいだ。時折、カマキリだっているかもしれない。地上の世界はいきものたちで一杯だから、木々の上澄みに逃げてみる。そんな気持ちは少しわかる。

薄い緑のじゅうたんに、私が一歩足を踏み出せば、すぐにどぼん。青々としているけど、葉っぱに重力はないからね。蝶々にも重力はないからね。質量に縛られた私の体は、木漏れ日の底に落下するね。

逃げ場なんかぁ、ないんだよ。蝶々になりたいんだったら―まぁ、まずは落下しないと。なるべく高いところから、

下ぁにぃ、下ぁーにぃ








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