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定年退職後の私の日々(音楽活動編5:3rdと3音離れを極める)

 私も人並みの承認欲求は保持しているので、何かのチャンスに備えて下記のような名刺を常に用意している。定年退職直後にWebの名刺作成サービスで2,000円くらいで作成した(100枚)。

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 ある友人にこの名刺を渡したところ、「ところで、ミュージック・プランナーとは何なのか?」と聞いてきた。正直思いつきなので「音楽をプランニングするのだ」としか答えられない。相変わらず適当なのだ。

 とはいえ、「音楽をプランニングする」というのはなかなか良いアイディアだと今でも思っている。そこで名刺を作成した勢いで、できる事なら音楽を適切にプランニングするために、巷で言うところの音楽理論の理解を深めたいと考えた。

 時間を金で買おう・・・ということで、居住地域近傍に住んでいるレッスン系のプロミュージシャン(ジャズ・ギタリスト)にジャズギターと音楽理論を教えてもらうことにした。月に5時間くらいのレッスン時間で費用は20,000円/月程度である。

 それから、講師と二人で「あーでもない」、「こーでもない」と議論しながら、いつのまにか3年余りが経過した。さすがに、プロのジャズ・ギタリストに3年間もマン・ツー・マンでレッスンを受けると、いくら適当な私でもそれなりに音楽理論に詳しくなったように思う。そして、音楽理論には「キモ」が幾つかあって、それを意識することは非常に重要である事に気がついた。

 音楽活動で定年退職後の引き籠もり期間を乗り切ろうとしている一部の読者のために、「どんなレベルの人にとってもキモ」・・・だと個人的に思うポイントを二つ簡単にお伝えしたい。私の貧しい”承認欲求”も満足させる事もできそうだ。

 1.和音は3rd

 何のことだかわからないと思うので、順を追って説明したい。ここでいう3rdとは俗に言う和音(コード)の3番目の音だ。たとえば、誰でも知っている「ド」、「ミ」、「ソ」という3和音の「ミ」の音である。

 「ド」、「ミ」、「ソ」の「ミ」なら2番目の音じゃないの?という突っ込みは却下する。音楽の世界では、3和音の3番目:3rdと表現するのでそれに従って欲しい。ちなみに、「ド」はルート、「ソ」は5thと呼ぶ。少し、カッコイイですね。

 ・・で、この「ミ」がどうして重要なのか?と言うと、他の二つの「ド」、「ソ」が「ミ」と比較して相対的に重要度が低いからである。一般的には下記となる(バンド等での合奏の場合)。

「ド」 ⇒ 基本音であるが故に通常はベースが弾いてくれる。だから、弾かなくても問題無い。一方で、ベーシストにとってはとても重要な音
「ソ」 ⇒ 色々理由はあるのだが、彩りを加えるのが主たる位置づけの音らしく、ジャズなんかでは良く省略される

 そこで「ミ」である。この「ミ」は他の二つと比較するとなかなかの曲者だ。例えば、「ミ」をうっかり半音下の「ミ♭」で弾いたとする。すると、驚くことに明るい感じの響きがする「ド」、「ミ」、「ソ」の和音が暗ーい感じの「ド」、「ミ♭」、「ソ」の和音になるのだ。

 凄い。凄くないか・・・。これは、和音が短3和音になったのである。つまり、「ミ」は和音の響きをわずかの操作で大きく変化させる事ができるのだ。素晴らしい。「ミ」には他にも色々と曲者らしい特徴がある。

 とにかく、どうやらこの「ミ」の曲者的な特徴を十分に理解しているプロや上級アマの連中は、演奏中に「ミ」をこねくり回して「何だか、凄いぞ」的な事を演出しているらしいのだ。3年間の修行でそれがわかった。

 表現がとても抽象的だが、要はそういうことなのだ。意外と適当な世界であるが、格好良いのは音楽では正義だ。最小の努力で、最大の効果を発揮する・・・のが「ミ」であり3rdの音なのだ。まずは、この3rdを常に意識しておくと色々とわかりやすい。

2.3音離れは何でもあり

 二つ目がこれである。これまた何のことだかわからないと思うので、順を追って説明したい。3音離れとは音が上に3音離れているという事だ。ピアノの鍵で考えると黒鍵も含めて6鍵右にズレた音だ。例えば、前述の「ミ」を例にとると、3音離れている音は「シ♭」となる。ちなみに「ド」と「ミ」は2音、「ド」と「ソ」は3音半離れていることになる。

 この3音上に離れている音を同時に弾くと、独特な響きを感じる。例えば「ド」、「ミ」、「ソ」和音に「ミ」の3音上に離れている「シ♭」を加えて4和音で弾くと、”何となく不安定な感じ”を得る事ができる。感覚的なものではあるが、人間の脳はどうやら3音離れた音を聴くと、ソワソワするらしいのだ。

 「・・・うーん。俺はソワソワしないなあ・・・」という人が存在するかも知れないが、そういう人はここでは人間として定義しないでおくことにする。

 さて音楽においては、この「ソワソワした状態」というのは非常に重要だ。人間の脳はこの「ソワソワした状態」から「安定した状態」に移行することによって”安心したい”という欲望があるらしいのだ。

 「うーん。俺は別に安定したいとも思わないなあ・・」という人はここでも人間として定義しないことにする。

 一般的な音楽では、「ソワソワした状態」と「安定した状態」と「その中間的な状態」の3つがあって、それが色々と絡み合って音楽を作り出している。ちなみに「安定した状態」で代表的なのは「ド」、「ミ」、「ソ」の和音が響いている状態である。

 「ソワソワした状態」を「安定した状態」にするために、人間の脳は緊急避難的に「早く安定したい。早く、早くうううーーー。安定するためには何をやって良いよ。早くうううーーー」的な状態になる。

 これは演奏者にとっては美味しい。脳味噌がこうなっちゃうと、多少ヤバい音でも使える可能性が高まり、音選びの自由度が大きくなるからである。ジャズ等ではこの”音選びの自由度”を逆手にとって、「おおー!!何だその音は!!」的な通常では使わないような音を使ったりするのだ。

 そして、その「おおー!!」というヤバい音を使っても、正しく「安定した状態」に移行できた時は快感は更に強まるのである。

 そして、曲者3rdの音と、曲者3rdの音の3音上の音を色々と絡めることにより更にソワソワ感は増すのだ。全ての音楽は、これを上手くコントロールして人間に快感を提供している考えても良い。

 音楽を楽しむ上で、この二つのキモを知っていると色々と役に立つと思う。ちなみに「ソワソワした状態」から「安定した状態」に移行する事を音楽用語で”ドミナント・モーション”と呼ぶ。詳しく知りたい人は、さらにググるなりして確認して欲しい。