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【ルポ】トヨタの株主総会に行ってみたら夏の甲子園みたいにアツかった話(2023年)

2023年6月14日、トヨタ自動車の第119回定時株主総会が愛知県豊田市で開催されました。実際に足を運んでみたので、その様子を簡単にお伝えしたいと思います。

なお、株主総会の詳しい内容や議案についてはトヨタの公式サイトで確認できます。

トヨタの株主総会に行ったことがない人、興味はあるけど今回参加できなかったという人に、現場の雰囲気をお伝えできればと思います。

開催場所

トヨタ自動車の本社所在地である愛知県豊田市にて開催されましたが、多くの株主(おそらく4000人近く)が出席するため、会場が大きく2つに分けられていました。

1つは本社の本館ホール、2つ目はスカイホール豊田でした。僕は本館ホールに自家用車で行き、社員用の駐車場に停めさせていただきました。トヨタ本社に足を運ぶのは初めてですが、案内看板や係員のおかげであまり迷わずに駐車できました。

社員さんや警備員の方がたくさん出迎えてくださり、安心して会場内へ。

本館ホールの中でも、第1、第2など複数の会場に分かれていた。駐車場からは歩いてすぐ。

本館ホールはとても大きな会場ですが、株主全員は入りきらず、複数の部屋(会議室のような部屋)に分かれて着席。豊田会長以下、取締役員のいる一番大きなメインホールから各部屋へライブ映像が中継されていました。

僕が案内されたのは100人ほどが入る研修室のような部屋。パイプ椅子がみっちりと並べられ、ちょっと狭く感じましたね。少し暑苦しかったので、涼しい格好で行くことをおすすめします。

あまりにも出席株主が多かったのか、メインホールではなく会議室か研修室のような部屋に案内された。

パイプ椅子の足元には、お土産の入った袋が。中身は後でご紹介します。

お茶を飲みながら、ノートを取る準備をしていると、部屋の前面の大型スクリーンにメインホールの映像が流れ始めました。豊田会長や佐藤社長の姿も映ります。

そして、待ちに待った開幕。

当日の進行

  • 10:00 議長(豊田章男会長)挨拶
        監査報告、損益報告

  • 10:15 株主提案の補足説明
        株主提案に対するトヨタ側の反対理由の説明

  • 10:20 出席株主からの質問 ※一番の見どころ
        (挙手にて各会場から全12名が質問)

  • 11:50 豊田章男会長より、社長を務めた14年間を振り返って挨拶
        ※激アツ

  • 11:55 議案採決
        1~3号(会社提案)議案可決 4号(株主提案)議案否決

  • 11:57 閉会
        内山田取締役員(プリウスの生みの親)の退任の挨拶

今回の見どころは「会長」

株主総会といえば、会社の経営における重要事項を決めたり、収益や事業の結果を報告したりする、とても大切な場です。僕はこれまで株主総会というものに参加したことがなかったので、現場は「おカタい雰囲気」なんだろうなと想像していました。

確かに、会社の取締役員も出席株主も真摯な姿勢で臨んでいると思うのですが、今回のトヨタの株主総会は、全体として「エモい雰囲気」が漂っていました。想像よりも全然堅苦しくないし、笑いが起きるシーンもいくつもありました。

そのトリガーとなるのは、やはり豊田章男さんです。

章男さん(親しみを込めてこう呼びます)は2009年6月に社長に就任し、14年近くにわたってトヨタのトップに立ってきました。そして2023年4月、社長の座を佐藤恒治さんに譲り、自らは会長に就任することを発表しました。

突然の社長退任のニュースに、僕もたいへん驚きました。

涙ながらに思いを語る章男さん

株主総会では、章男さんが14年近い社長職を振り返り、辛かったこと、学んだこと、面白かったこと、やり遂げたことを、ときどき声をつまらせながら、語っていました。

67歳の章男さんは、トヨタの創業家に生まれたことから、周囲の人々に馴染めずにいつも孤独を感じていたそうです。社長になってからもその孤独は続き、何度も「辞めたい」と思ったのだとか。そんな章男さんを支えたのが、現場にいる社員だったといいます。

章男さんは現場主義を徹底し、「肩書きだけを持った一部の人に意思決定を委ねる」のではなく、「現場から会社を動かしていく」という社内改革に着手します。そして見事に会社を変えることに成功し、今の姿に育ててきたのだそうです。

株主総会では、その時に苦労したこと、辛かったことなどさまざまなエピドートが他の役員からも語られました。相談役制度の廃止を巡る、役員OBとの交渉などはとても生々しく、リアルで泥臭いものがあります。紙面の都合でここでは詳しく書けませんが、「こんなエグい話も株主総会でするの?」と驚いてしまう場面も。

章男さんや周りの役員が、時折涙をこらえながら語る様子が、映像を通して伝わってきます。こちらも思わず、うるっとしてしまいました。アツい。とてもアツい。

社長の交代という、トヨタにとって大きな節目となる年の株主総会。章男さん本人としても、取締役員としても、社員としても、名伏しがたい「思い」があるのでしょう。その雰囲気は、出席した株主からも伝わってきました。

司会進行 何度も笑いが起きた

章男さんを持ち上げてばかりで恐縮なのですが、株主総会の「議長」としての進行ぶりも上手いなと思ってしまいました。

前述したように、株主総会は真摯な場ですが、出席者を緊張させない独特の雰囲気がありました。初参加の僕でも、かなりリラックスすることができたのです。

例えば、出席株主からの質問の時間では、質問に対し真摯な態度で答えつつ、時々ユーモアを交えて会場を笑わせる場面も多く見られました。

ある質問者さんは、質問の最後に「トヨタが配信している『トヨタイズム』はとても面白いから、みんなに見てほしい」とコメント。

……ん? なにか違くない? という空気が会場内に流れたところで、章男さんが

「ありがとうございます。『トヨタイムズ』ですね」

と修正。会場内にドッと笑いが起こりました。

笑いあり涙あり、というと大げさですが、「硬」と「柔」がうまくミックスされた株主総会だったと思います。それも議長役を務めた章男さんの人柄が為したものではないでしょうか。

お土産とミュージアム

新型プリウスのミニカーもらえた!

今回の株主総会で、ひそかに楽しみだったのがお土産でした。自動車メーカーの場合、出席株主はミニカーをもらえることが多いようです。そして、今年トヨタが用意してくれたのが新型プリウスのミニカーでした。

鮮やかなイエローの新型プリウス。インテリアもちゃんと再現されている。

2022年11月に発表された、5代目のプリウス。トヨタを代表する車種の1つですが、これまでと大きく異なるデザインが注目を集めています。最近、街中でもよく見かけるようになりましたね。

そのイエローのミニカーが今回のお土産でした。ドア開閉などのギミックはないものの、インテリアまで再現されていてカッコいい。早速自宅のリビングに飾りました。

お土産の袋には、ミニカー、書籍、冊子、お茶(ペットボトル)が入っていた。

それから、リンクタイズから出版されている書籍『トヨタ「家元組織」革命 世界が学ぶ永続企業の「思想・技・所作」』も同封されていました。未読ですが、トヨタの歴史、章男さんの考え、社内改革について書かれているようです。面白そう!

下世話な話ですが、ミニカーと書籍の費用だけで100株分の配当金(3,500円)を超えそうな気が……(笑)

トヨタ会館の展示が面白すぎる

会場となったトヨタ会館には、見学用のミュージアムが設けられており、話題の新型車からエンジンの仕組みまで、さまざまな展示があります。クルマ好きとしては興味深い内容が多く、株主総会の閉会後に1時間ほど見学してしまいました。

まず、一番目立つところにはコンセプトカーの「Concept-愛i」が置かれ、来館者を出迎えます。

来館者を出迎える「Concept-愛i」 どこかトヨタらしいデザインと先進性を感じさせる。

株主総会の開かれた6月14日は、期間限定で最新のEVやスポーツカー、最高級車センチュリーなど数多くの実車が置かれ、実際に手に触れる事ができました。

センチュリーの後部座席は超ふかふか! これなら東京~名古屋間も難なく移動できそう。滅多に座る機会がないので、いい体験になりました。

株主総会当日は期間限定の展示が。初代プリウスからセンチュリー、新型クラウンまで。

また、レクサスの新型RZや燃料電池車のミライ、GRヤリス、水素で走るカローラ・クロス、そして初代プリウスなどが展示されていました。ここだけでも1日かけてじっくり見て回りたかった……。

常設展示としては、ミライのFCスタックや燃料電池パワートレイン(実物は意外とデカい)、衝突安全カットボディ(4代目プリウスのカットボディが見られる)、生産設備の紹介(溶接の種類などマニアックな解説付き)などなど。

4代目プリウスのカットボディ。「こういう作りになってたのか」と思わず膝を打つ。

宣伝ではありませんが、クルマに興味がある人、技術に興味がある人なら一度は見学してみるといいのではないでしょうか。僕はたくさんの気づきを得られました。本当に勉強になります。

まとめ

個人的に、人生初の株主総会となりましたが、本当に出席して良かったと思います。クルマ好きとしても、株主としても、本当に面白くて、気づきも多く、感動を覚えました。

今回のトヨタの株主総会は、社長交代という一大イベントとともに開かれたこともあって、取締役員、社員、株主、顧客にとって非常に意味深いものとなったのではないでしょうか。

佐藤社長をはじめ、取締役員からは豊田会長へのリスペクトの念をひしひしと感じられました。そして、次の世代にバトンを渡した豊田会長の熱い思いも。

まさか株主総会で役員の涙を見ることになるとは想像もしていませんでしたが、約14年間、外部の人間にはわからない大変な苦労をされたんだろうと思います。何度も声を震わせる章男さんの姿が、とても強く印象に残りました。

初代プリウスを生んだ内山田取締役も退任することに。トヨタは新体制で次の時代に臨む。

余談ですが、閉会後、退任の挨拶をした取締役員の内山田さんは、初代プリウスの生みの親でもあります。「ミスター・プリウス」とも呼ばれた内山田さんが、5代目の新型プリウス発売と章男さんの会長就任を見届けて取締役を退くというのも、1つのターニングポイントのような気がして、感慨深いものがあります。

できれば、また来年も(株式を保有していたら)トヨタの株主総会に出席したいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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