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名古屋は大須を観光

 なんで「毒」を食べてきちゃったんだろう。
 毒とは私の実家での「お菓子類」の総称だ。エネルギーにこそなるものの、まるで栄養分のない、脂肪と糖だけの集合体。ただ食べたい、という欲望を叶えるためだけの食べ物で、「太るわ、糖化を招き老化を促進させるわ、で体には毒でしかない」という意味でこんな呼称となった。
 実家では晩ご飯の後に甘いものを欲した時に「なんか毒ない?」と訊けば、母が「〇〇さんからもらったのがあるわ。そういえば〇〇さんは最近ね」云々と、取り留めのない、何を言いたいのか全く掴めやしない話をしながら、紙袋から砂糖とバターにまみれたデニッシュパンを出してくれた。
 実家では主に菓子パンやシュークリーム、バームクーヘン、ロールケーキなどを指すことが多かったが、私は今日、家を出る直前に三色団子と草餅を食べてきてしまったのだ。


 またしてもどこかへ行きたい欲が湧いてきた。
 先週の土曜日に隣県の湯の山温泉に行ったばかりだというのに、超絶インドア派の私には珍しいことだ。隣県へ行ったことで、アウトドアモードに入っているのかもしれない。私は何か1回やるとモードに入ってしまい、暫くの間、同じことを続けたくなる習性がある。
 ある日、洗濯用洗剤を買うと、洗剤を買うモードに入ってしまい、その後数日間、毎日いろんなドラッグストアやホームセンターを訪れて洗剤を買ってしまう。
 ある日ガチャガチャをやると、ガチャガチャモードに入ってしまい、その後数日間毎日、ネットでまだ未開拓の店を探してはガチャガチャと回し歩いてしまう。

 どこかに行きたい欲を解消するために今回はこれ以上ないくらいに手短に、自転車圏内である名古屋の大須に行ってみることにした。
 
 名古屋というのは一応は東京と大阪に次ぎ、福岡や横浜と並ぶであろう都市であるにも関わらず、観光スポットが乏しいことこの上ない。遠方から友人が来て名古屋を案内することになると、1日もたせるのは難しい。ぱっと思いつくのは名古屋城と徳川美術館くらい。なんて言っておきながら、まだ徳川美術館には行ったことがない。
 名古屋で一番栄えているのは名古屋駅と栄界隈なのだが、どちらも百貨店などがメインのため名古屋ならではの特色はない。
 オーバーツーリズムが叫ばれる今日でも、名古屋市内に居てそれを感じることはない。岐阜県にある人気の白川郷や飛騨高山を訪れる外国人の通過点でしかないのが現状だ。

 そんな名古屋で私が一番推したいのは大須だ。
 大須というのは先の栄界隈から徒歩で10分もかからないところにある。だが栄とは全く違い百貨店なんて一軒もなく、唯一無二と思われるくらいにとても風変わりな街だ。
 端的に説明すれば東京の秋葉原と新大久保と、昭和から時が止まっている商店街を混ぜ合わせて、そこにほんの数滴だけ原宿の竹下通りの要素を足したような、これ以上に混沌とさせることはできないくらいにぐちゃぐちゃでカオスな街だ。
 以前は一時、廃れていた時期もあったが、ネットで「名古屋」「大須」と検索したら「日本一元気な商店街」だとか「日本一元気なごった煮の町」という謳い文句が出てきた。

 名古屋市営地下鉄の大須観音駅と上前津駅の一駅区間にメインの商店街が2本伸びており、そこから出る脇道にも店とひしめき合う。
 秋葉原にあるようなコアな電気屋やオタク系の店にメイド喫茶。新大久保にあるようなハラル系の食材店、ケバブ屋にブラジルに来てしまったと錯覚させるような飲食屋。昭和の頃からずっと同じ商品が店頭に並んでいるとしか思えない洋品店や靴屋、雑貨屋。メインの商店街から伸びる脇道には、おしゃれな若者向けの服屋や古着屋が点在している。
 この他にも、雑貨屋やスニーカー屋の大衆的な店もたくさんあるし、食べ歩きできるようなものを売る店が多い。からあげ、たい焼き、みたらしだんごなどの店は以前からあったが、そこに韓国系の飲食店が増え始め、数年前から冷やし芋とリンゴ飴などを売る店が増え始めた。

 1年に数回は大須へ行くが、いつもは目当ての店だけをさくさくとまわって終わる。
 決まって1軒目はアジアン雑貨屋で、アジアではなくメキシコの雑貨を偵察。いつか死者の日のガイコツのオブジェと、ルチャ・リブレのマスクを買いたいのだが、買ったら買ったで後悔しそうでずっと悩み続けている。
 お次はサンキューショップ。ジョーズのポーチが欲しいのだが、こちらも買ったら買ったで後悔しそうで、まだ買うに至っていない。
「水曜日のアリス」という不思議の国のアリスをテーマにした、入り口が物凄く小さく、よって店中の換気が不十分なのではないかと心配になる店もいつも偵察する。ハンプティーダンプティーのグッズが欲しいのだが、これ、と思えるものがまだ見つかっていない。
ついでに隣の300円ショップ・CouCouも偵察して、最後に大須ういろうか青柳ういろうでういろうの「白」を買ってすぐに後にするのだが、今回は旅行者気分で大須を観光しようと思う。

 ちなみに大須ういろうと青柳ういろうは恐らく滅茶苦茶ライバルであるはずなのだが、ものすごく近くに位置している。両者の間には店が3軒並ぶだけだ。
 ちなみに私は大須ういろう派なのだが、青柳ういろうの店舗は復元した名古屋城なんかよりもずっと見応えのある歴史を感じさせる重厚な外観なので是非見て欲しい。 
 ちなみに名古屋市では大須ういろうの「白」が小学校の給食に出る。その頃からの往年のファンだ。


 土曜日の午後3時半過ぎに家を出た。
 読んでいた本になかなかキリがつけられず遅くなってしまったが、近場なので問題ない。自転車をこの上なくたらたらと漕ぎながら、車道の左端を走る私に真正面から向かってくる逆走自転車に怒りのビームを目から何度も飛ばしつつ向かった。

 地下鉄の駅で言えば上前津駅に近い、南大津通に面する万松寺商店街入り口から大須観光をスタートさせた。
 アーケード入り口には「大須」と書かれた絵馬の形をした大きな看板が掲げられており、すぐ横のビル側面に取り付けられている龍とドン・キホーテの水色ペンギンのオブジェが歓迎してくれる。ここだけでももう、大須のカオスっぷりが伝わってくる。

 土曜日の午後とあってか、万松寺商店街は入り口から混んでいた。食べ歩きする若者、家族連れ、近所に住んでいるであろう買い物に来たご老人と中国語を話すグループが何組かいた。

 いつものようにアジアン雑貨店でメキシコ雑貨の偵察を済ませ、商店街を観光客気分で写真を撮りながら進んだ。
 あれ、メイド喫茶が増えている。
 人気のからあげ屋「李さんの台湾名物屋台」は混んでいる。私も今日は観光客なので、何か歩き喰いしたい。
 「喫茶ジェラシー」なる店の存在には今回、初めて気がついた。メニューを見た限りレトロモダンな感じ。おしゃれな店が大好きだけど、ただおしゃれなものには飽きちゃって、「最近は自分の知らない昭和テイストが合わさっているものが好きなの」という感じの20代の若者たちが階段に列を作っていた。
 こんな今っぽい店があるかと思いきや、真向かいには「サノヤ」という激安系スーパーがあったり、アメリカントイなどのフィギュア屋があるかと思ったら「お茶屋」や「乾物屋」「漬物屋」「作務衣屋」もすぐそばにあるのが面白い。
 用のない店もまじまじと見ながら歩くと、この一帯はよくわからないTシャツ屋の割合が多いことに気付く。1階も2階も通りに面したあらゆるところに夥しい量の、ブランド物でも何でもなさそうなTシャツがこれでもかと吊り下げられている。
 その他、ABCマートのような大衆的な店もあるし、「SHOEGET」というレアなエアジョーダンなんかを取り揃える店もある。
 私は12年前にこの店で、LIBERTYプリントのNIKEのスニーカーを買った。ナイキなのに全体が小さな花や葉の模様なのだ。ちなみに大須つながりということで、今日は久々にそのスニーカーを履いてきた。久々過ぎたからか、随分と変色しいるし、接着が剥がれソールと本体が分離しかけているし、ソールは劣化してなんだか粉っぽい。
 この先には「メガネスーパー」もあるが、「Monkey Flip」というスタイリッシュな眼鏡屋も2軒ある。私も20代の頃は何回かこの店で眼鏡を作った。付属でもらえる「Monkey Flip」の眼鏡ケースが好きでまだ手元にあるが、ここ10年は裸眼で生活している。
 
 暫く歩くと交差点に差し掛かる。
 交差点の角にある建物がスギ薬局に変貌していてびっくりした。
 昔は「BASE」という店で、地下はアメリカントイ、1階は安い服、2階は安価なコスメショップで女子高生の頃の私は全ての階が大好きだった。それが地下のアメリカントイショップがなくなり、1階の服は一般受けしない服屋になったりアウトレット屋になったり、2階もよくわからないことになりと変貌し続けて、中部地方ならどこでも3分歩けば辿り着くくらいに増殖しているスギ薬局になってしまうとは。
 BASEの変貌っぷりに「完全変態」という言葉が浮かんだ。

 スギ薬局前の交差点を渡ると大須観音通りと名前を変えて商店街はまだ続く。
 お好み焼き屋、壺焼き芋屋、ケバブ屋、韓国系屋台、わらびもち屋、天むす屋、どて串屋、タピオカ屋など、先の商店街よりも道は狭く人通りは少ないが、食べ物は目白押しだ。何か食べたいけど、お腹が全然空いていないので歩き進める。
 この道は一番端には「矢場とん」があって、そのまま大須観音に直結している。
 ここの矢場とんには入ったことがないので店内がどうなっているのかはわからないけれど、赤ではなく白でこそあるが提灯がずらっとぶら下がっていて外観が千と千尋っぽいというか、台湾の九份の有名なお茶屋の雰囲気がある。

 矢場とんを素通りして大須観音の境内に入る。すれ違った女性が斜め上を見ながら、この世の終わりみたいな顔をしていてギョッとしてしまった。口が、ムンクの叫びと全く同じ形をしていた。なにゆえにそんな表情になってしまうのかと思ったら、頭上を飛ぶ鳩が嫌でたまらなかったらしい。
 ここの境内はとにかく鳩が多い。一斉に飛び立つ瞬間が好きだが、小学生くらいの男の子に話す母親の会話が耳に入ってきてまたもやギョッとした。
「鳩が1羽飛ぶと、1兆個の菌が舞うんだよ」
 真偽のほどを確かめたくて後から調べてみたけれど、菌の個数まで書かれているネット記事は見付からなかった。

 大須に行って大須観音にまで入ることは殆どないが、観光客なら絶対に入るだろうと階段をのぼって本殿の中に入ってみた。
 浅草の雷門のような大きな赤提灯がぶら下がっていたなんて、今まで知らなかった。ただアピールが下手なのか、鴨居のようなもので隠れてしまっていて提灯の下半分しか見えず非常にもったいない。折角こんなにも立派な提灯なんだから、ちゃんと全体が見えるような吊るし方にした方がいいのではないか、と関係者に伝えたいという気持ちが湧いたところで思い出した。

 大須観音の住職は私の遠い親戚のはずだ。小さいころから母と祖母から度々「大須観音」「遠い親戚」というワードを聞いてきた。中学生の頃だったか。ある時、それが一体どのくらい遠いのかが気になって訊ねてみたら、祖母の母親の姉妹が大須観音に嫁いだということだった。なるほど遠い。

 そして高校に進むと、同級生に大須観音の住職の娘がいた。私はそのことをクラスメイト伝手に聞いただけで、私は全く面識はなかった。「通り親戚だから一度その子と話してみたい」と思いつつも、思っただけだったのか、クラスメイトに間を取り持って欲しいと頼んだけど断られたのか忘れたが、一度も話すことなく卒業してしまった。あの時、知り合いになっておけば、提灯がもったいない件も簡単に伝えられただろう。
 
 本殿の中をなるほど、という感じで見回して大須観音を後にした。遠い親戚ではあるが、私は無宗教で無神論者なので参拝はしない。

 矢場とん側から入った大須観音を大須仁王門通り側へ出ると、目の前に「赤マムシ・金快堂」なる店があった。中に入らずとも、店先の自販機でも販売されており、自販機の横には空き瓶が10個くらい置かれていた。「ドラゴンマカ」「すっぽん精」「絶倫無双コブラ」あたりが人気商品と見た。

 大須仁王門通りに入るとすぐに、青柳ういろうの重厚な建物がお目見えする。看板には銅が酸化したかのような緑色で「家本総柳青」と書かれている。建物は黒っぽのだが、ところどころ緑っぽくもあり、長い時間の経過でしか作れない外観だ。
 そして青柳ういろうの数軒隣の「おもちゃのふくすけや」も、もう少し先の「おもちゃのだるまや」も小間物・化粧品の「大門屋本店」も長い時間の経過でしか作れない外観をしているので是非見てほしい。〝小間物〟なんて言葉からもそれがうかがえる。
 そしてそんな時代を感じさせる店舗に混じってとても小さく綺麗な「大須教会」があったり、おしゃれなカフェがある。教会前を通ったのがちょうど17時だったからか、教会前に取り付けられたベルが自動演奏されていてなかなかのボリュームだった。

 ここらへんで先のスギ薬局のある通りに戻ってくるので、その先に続く東仁王門通りへと進む。
 東仁王門通りは脇道が面白い。細く暗い脇道に勇気を持って入って行くと、こじんまりした服屋やカフェ、アンティークの店がある。人通りがほとんどないからか、店が小さいからか、店が古めかしからか、夢の中に迷い込んだような不思議な感覚になる。
 そしてこの先の東仁王門通りは異国へと突入していく。
 ピザ屋とイスタンブールカフェの前にはテラス席があり、特に異国情緒満載のイスタンブールカフェ前には名古屋在住と思われる外国人が座っていて名古屋とは思えない雰囲気がある。ちなみにピザ屋は「SOLO PIZZA Napoletana」とか「CESARI」とかいろんな店名をしているが同じ系列で、ピザ職人世界一になった人が経営している。ピザを食べて初めて「生地が美味しい」と思った店だ。名古屋駅や栄方面にも店舗がある。
 常に物凄く不機嫌そうな中東系の店員がレジに座るハラルフードの店、ケバブ屋、ベトナムのバインミーの店、インドカレー屋に続きブラジル食堂まである。「OSU BRASIL」というこの店は、店頭で回るチキンの丸焼きがとても美味しい。ソースもつけてくれるが、何もつけない方が美味しいくらい。1階の屋台っぽい席が満員でも、2階にテーブルがたくさんある。この日は1階でテーブルを全部くっつけてひとつにして、おじさんとおばさんが騒いでいた。同窓会という感じの雰囲気だった。
 ブラジルを超えると、まら新たなメイド喫茶がオープンしていた。秋葉原臭が強くなってきている気がする。
 けれど明るく広けた脇道に行ってみると、カゴを持った人がたくさん道に出ており、生臭さが漂っていた。八百屋と魚屋があった。店の登場具合に脈絡がなく、本当にカオスなのだ。東仁王門通は大きな招き猫に突き当たり終わる。
 ちなみに、招き猫を超えて南大津通へと出ると、通り沿いに「カプセルハウス」というレアなガチャガチャ屋がある。最近はどこのショッピングセンターに行ってもガチャガチャの森があるが、この店では「街から姿を消して半年以上は経過したガチャガチャ」が多く取り揃えられているので、やり逃したアイテムに出会えるかもしれないし、ちょっとタイムスリップしたような感覚さえ味わえる。とても小さな店なのだが、間口税対策の時代の物件かのように通りに面している面積が特に小さいので初めてだと見付けにくい店である。
 
 さて、メインの商店街は端から端まで巡ったが、私はまだ食べ歩きの目的を果たしてない。しかし、これだけ歩いてもまだお腹が減っていないのである。ああ、毒を食べてこなければよかった。

 そこでちょっとはずれにある「GOLDEN YEARS」に行ってみることにした。「GOLDEN YEARS」は何屋と言えばいいのか全くわからない。ゴリゴリのパンクファッションの店なのかなあ。鳥肌実と、たしか清春もここのライダースのファンだったはずだ。私は今から20年以上も前に鳥肌実のファンで、それでこの店を知った。ただパンクファッションには興味がなかったので、店先に飾られた鳥肌実の写真を見たり、GOLDEN YEARSのロゴであるガイコツマークの櫛を買ったり、「GOLDEN YEARS 名古屋魂」とプリントされたTシャツを何枚も買って着ていた。今はおぼろ豆腐メンタルな私も、昔は心臓が強かったのだ。

 東仁王門通から暫く南に歩き、ウン年振りにGOLDEN YEARSへ向かった。あそこは営業時間が短かった記憶があるけれど、今この時間なら開いているはずだ。だけれど店には入れなかった。大きくガイコツの記された看板には「OPEN14:00〜19:00」とあった。だが入り口ドアには「18:00まで休けい中です」というメモが雑に貼られていた。ただでさえ営業時間が短か過ぎるのに休憩で店を閉めてしまうとは。しかも〝憩〟がひらがなだ。昔使ってた櫛を買おうと思ってたのにな。
 
 私も今後、小売店で働くことがあれば絶対にこのくらい営業時間の短い店で働きたい、と考えながら裏門前町大通りを赤門通りまで歩いた。途中、でかでかと「パンツ」と書かれた暖簾の掛かった店があったので写真に撮った。
 
 赤門通りはゲームやトレーディングカードを売る店が並ぶ。途中、ガチャガチャの店があったのでつい入ってしまい、「部分イクラ」というガチャガチャを1回まわした。その名の通り部分的にいくらなのである。第1希望は「イクラフィギュア」という、レゴブロックの人間の上半身だけがイクラになっているものだったが、第3希望の「イクラ赤べこ」が出た。
 昔はこの通りに「世界のたばこ」という店があって、私はそこできれいな緑色の蝶々のたばこをジャケ買いしたり、大好きだった漫画『NANA』の影響で「BLACK STONE」なるチェリー味のリトルシガーを買って、吸って、気持ち悪くなったりしたのだが、辺りを見回すも店の姿はなくなっていた。
 
 赤門通りから大須新天地通りへと入ると、歩き喰いにぴったりの小さな店がひしめき合う。
 トッポギやオットクを売る韓国屋台料理の店が数軒に、からあげ数件、クレープやチキンを売る店が並ぶ。ここで何か買おう。毒のおかげでまだお腹は減ってないが、何も食べない観光なんて存在しない。

 歩き喰いしている女子グループに目をやると、「包子(パオズ)」と書かれた紙で包まれたものを食べていた。私もあれを食べよう。
 「台湾の焼き包子・包包亭」の店先にある包子を見ると、1個200円のわりにものすごく小さかった。肉まんの半分もないくらいのサイズ。でもお腹が減っていない今はその小ささが有難い。
 肉包子を買って、人通りが少なめの脇道に入って食べた。初めて入った道で、そこには喫茶店「コンパル」があった。「大須のコンパル」と聞くことはあっても、今まで見掛けたことがなかったから本当に存在するのか疑ってたのだけれど、ここだったのか。エビフライサンドが有名な喫茶店だ。
 コンパルに気を取られながら食べていたら、肉汁がほとんど包み紙の中に出てしまった。手渡された時に「肉汁に気をつけてお召し上がりください」と言われはしたが、こんなに入っているとは。油が浮いていなかったので、正確には本物の肉汁ではなく味を付けたスープなんだろうけど。最後に肉汁を飲み干した。案外おいしかった。これで目標は達成した。

 最後にスーパー「サノヤ」に戻り、晩ご飯用に炙り鯖寿司と、20枚入りの大葉が安かったので買って家に帰った。
 雨が降ってきそうで急ぐあまり、エコバッグの中で炙り鯖寿司が縦になってしまっていることに気付いた時には、けっこう家の近くまで来ていた。

 炙り鯖寿司を食べ始めると、窓の外から土砂降りの雨の音が聞こえてきた。

 炙り鯖寿司を食べ、お買い得だった20枚入りの大葉を洗って乾かすと、変色した上に粉っぽくなったソールと本体が分離しかけているLIBERTYプリントのNIKEのスニーカーをそっとゴミ箱に入れた。
 大須で買ったスニーカーを履いて最後に大須に行けてよかった。

ー今回の出費ー
第3希望が出たガチャガチャ 400円
中のスープが全部出ちゃった焼き包子 200円
エコバッグの中で縦になっても崩れなかった炙り鯖寿司 600円
愛知県産の大葉お得な20枚入り 107円
合計1307円

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