身近な自然と、遠い自然

「人間には二つの大切な自然がある。日々の暮らしの中で関わる身近な自然、そしてもうひとつはなかなか行くことができない遠い自然である。遠い自然は、心の中で想うだけでいい。そこにあるというだけで、何かを想像し、気持ちが豊かになってくる」


これは僕が大好きな星野道夫さんの遺稿に書かれていた文章だ。沖縄八重山の民謡を唄う安里勇さんのCD「海人」に寄せた星野さんの文章が遺稿になってしまった。

星野道夫さんが大好きで、その影響でアラスカのオーロラを見に行ったこともある。
星野さんはほかの本の中でも、この文章に近いことを書いていて、僕はこの考え方を大切にしている。

身近な自然と、遠い自然。その両方を大切にすること。

自分にとって、思い出の「遠い自然」がある。


それは沖縄の宮古島での思い出。
人がほとんどいない、白い砂浜を夕方散歩していたとき。
一人のおじいさんに会った。
彼は小さな網を海に投げて、魚をとっていた。

「どんな魚がとれるんですか?」
僕が話しかけると、おじいさんは笑顔で魚を見せてくれた。
「今晩のお酒の肴をとってるのよ」(そんな感じの沖縄弁だったかと)
聞けば、毎日ここで魚をとり、それを肴にして毎晩お酒を飲むそう。

たったこれだけの話だったけど、
僕にはこの風景がいまも頭の中に広がっている。

東京で、けっこう大変なこともいろいろあるけど、
そんなときは、
「宮古の海では、今日も青空の下、おじいが魚をとってるんだろうな」
と思う。ただそれだけで、気持ちがすっと落ち着いてくる。

遠い自然はこうやって自分の寄り添ってくれる。
星野さんが教えてくれたことだ。

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