#19 インドオンライン診療の最前線:PractoとMediBuddyの事例研究(前編)
私のインド人の友人の中には、オンライン診療を使っている人が何人もいる。調べてみると日本よりインドの方がオンライン医療が浸透しているようだ。インドのオンライン診療事情はどのようになっているのだろうか。
前編と後編に分けてインドの有名なオンライン診療アプリ2つ(PractoとMediBuddy)のユーザにインタビューをして見えてきたことを解説する。
前編(本記事)では、インドの医療とオンライン診療の状況、また有名なオンライン診療アプリを筆者が利用して得た気づきと、実際のユーザの声について述べていく。
インドの医療とオンライン診療の状況
インドの医療制度の最大の特徴は、公的医療機関では無料で受診できる点だ。ただ、公的医療機関は多くなく(およそ25%程度)、長い順番待ちが発生することも多い(参考)。
また人口1万人当たりの医師数は日本が約27人なのに対し、インドは約8人と医師不足が深刻だ(参考)。とくに農村部での医療アクセスは乏しい。
そんなインドだが、オンライン診療は日本より浸透が進んでいると言えそうだ。
インドのオンライン診療市場は2022年時点で11億ドル(約1649億円)と推定されている(参考)。
一方の日本は2021年時点で41億円程度であり(参考)、その差は約40倍。人口比を加味しても大きく差がつけられている。
また、日本では、2021年時点では「オンライン診療可能」な医療機関は15.2%。「初診からオンライン診療可能」な医療機関は6.45%に止まる。(参考)
コロナ禍の2020年4月10日に要件緩和が行われて以降、登録機関数は9.7%から増加したが「爆増」とはならなかった。またそもそも、「オンライン対応可能な診療機関」が実際にどの程度オンライン診療を行っているかは、データがないため不明である。
インドには上記に対応するデータはないが、インドのオンライン医療の伸びは特にコロナ禍において目覚ましかった。
例えば、インドの大手の医療アプリ「Practo」のレポートによると、「Practo」を通したオンライン医療相談は2020年3月1日から5月31日までに500パーセント増加し、期間中、約5,000万人のインド人がオンラインで医療サービスを利用したという。
今回は実際にインドの医療アプリ、PractoやMediBuddyを自分も利用し、また利用しているインド人にインタビューしてみた。
インドには多くの医療系のアプリがあるが、その中でこの二つを選んだのは、多くの記事で「有名な医療アプリ」として紹介されていたからだ。
Practo(プラクト)を使ってみた
「Practo(プラクト)」は、2008年に創業したインドのバンガロールに本社を置く企業「Practo Technologies Pvt. Ltd.」が運営するサービスで、医師の予約、オンライン診療、薬の配送などのサービスを利用できる。
2021年時点の記事によると、1.75億人のユーザがおり、2.5万人以上の医師がオンライン診療を行っているという。
オンライン診療を受ける際はまず、診療科(内科、婦人科、皮膚科など)を選択する。
カテゴリを選択するとすぐに支払い画面だ。この時上部に、「現在オンライン中の医師」は何人も表示されるものの、その中から医師を指名することはできない。
オンライン決済が終わると、すぐに医師につながる。筆者が利用したときは、待ち時間は10秒もなかった。
医師と会話した後には必要に応じて処方箋がもらえる。筆者は風邪の際に利用したのだが、会話後数分で処方箋がチャットで送られてきた。
上記の「Buy Medicines」をタップすると、処方された全ての薬が入った状態のカート画面に遷移し、住所設定と支払いをすれば薬の購入・配送が完了する。大変便利だ。
MediBuddy(メディバディ)を使ってみた
「MediBuddy(メディバディ)」は、2000年に創業したインドのバンガロールに本社を置く企業「Medi Assist Healthcare Services Private Limited」が運営するサービスで、こちらも具備している機能はほぼ同じで、医師の予約、オンライン診療、薬の配送などのサービスを利用できる。
オンライン診療については、最初にカテゴリを選ぶ必要があるのは同じだ。ただ、Practoは「皮膚科」「婦人科」などの「診療科名」を選択させる形であるのに対して、MediBuddyは「皮膚の問題」「女性の問題」「風邪、咳と熱」のように「あなたの健康の問題("Your Health Problem")」を選択させる形になっている。
患者側は医療に詳しいわけではないため、自分の困りごとがどの診療科に分類されるかわからないこともあるだろう。
ユーザ目線に立った、親切なカテゴリ表示だと感じた。
またこのアプリが少しユニークなのは、診察が始まる前にチャットbotを用いて基本的な質問がなされることだ。
多くは選択式で、症状に関することを深掘りされる。
私は自分の健康問題として「風邪、咳と熱」を選択したため、具体的にどのような症状があるかなどを質問された。
事前に回答した情報はオンライン診療開始前に医師に伝達される。これにより、より効率的に診療ができるというわけだ。
数問の質問に回答し終わると支払い画面になる。またPractoと異なるのはこの画面ではどの医師がアサインされたかの情報が表示される。
その後数分後に医師から着信があり、オンラインでの問診が行われた。
ちなみに、オンライン問診後でも、3日以内に「フォローアップ」をリクエストすると、無料で再度医師とコミュニケーションを取ることが可能である。
※ここまでの全体の流れについて、Medubuddyが動画で解説しているものがあったのでご参考まで
この後チャットで処方箋が送られてきたが、「ワンタップで処方された全ての薬が入った状態のカート画面に遷移」というPractoのような気の利いた仕様にはなっておらず、自分で処方箋を見ながら薬を探す必要があった。
処方箋画面から薬購入の流れについては、Practoの方が良いユーザ体験だと感じた。
それぞれのユーザに共通する傾向
PractoとMediBuddyそれぞれ利用しているユーザに「なぜそのアプリを使っているのか」を聞くと、「他と比較検討して良い点があったから使い始めた」というよりも「知名度が高いから」「ネット広告で見たから」「周りからのおすすめ」、という声が多く聞かれた。
MediBuddyユーザでムンバイ在住のAさん(30歳・女性)はこう語る。
Practoユーザでバンガロール在住のBさん(38歳・男性)はこう語る。
オンライン診療は、過去に利用したことがある人以外にとっては新しいものであるため、価格以外に明確な比較軸を持っていることは少ないと思われる。
また仮に「診療の質」を気にするとしても、それも「使ってみないとわからない」ものであり、利用前の比較検討は難しいだろう。
知人や家族の勧めやCM等で最初に出会ったものに懸念点がなければ、まず使ってみて良さそうであれば使い続けるという行動が一般的だと思われる。
また利用シーンとしては、自分で「深刻ではない」とわかっている疾患の時に利用するという場合が多かった。
MediBuddyを利用するムンバイ在住のCさん(33歳女性)はこう語る。
また先述のAさん(30歳・女性)はこう語る。
このような意見は他に何人か見られた。特に都会で忙しく働くビジネスパーソンにとっては、隙間時間にオンラインですぐに診療してもらえるメリットは大きいようだった。
ただ、全員がオンライン診療を信用しヘビーに使っているわけではない。
「基本的には対面での診療が望ましく、オンライン診療はあくまで補助的に使うもの」と捉えている方もいらっしゃった。
MediBuddyを利用するデリー在住のDさん(32歳・男性)はこう語る。
Practoを使うバンガロール在住のEさん(23歳・女性)はこう語る。
ここまでいくつかユーザの声を取り上げたが、留意したいのは、今回インタビューを行った方は、全員デリー・ムンバイ・バンガロールなど、オフラインの病院も充実している大都市に住んでいる方であることである。
医療が不足しているような地方都市に住んでいる方にどのように受け止められ、どのように使われているかについては、機会があれば別途調査したい。
後編では、日本のオンライン診療アプリと比較した際に見えてきたUXの違いについて記載していく。
後編はこちら
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