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ぬか漬けの“ぬ”〜ぬか床の手入れ〜

ぬか漬けには苦い思い出があり、でもその思い出があるがゆえに今でも私はぬか漬けを作り、ぬか床をかき混ぜでいるのかもしません。

飲食の世界に飛び込んで初めて大きなお店で働いた時のこと。
そこには大きなぬか床があって、毎日ぬか漬けを出していました。
もちろん一番下っ端の私はまさに眠い目をこすりながら出勤し、寒い冬も暑い夏もぬか床をかき混ぜてやる。そして野菜を取り出したら足しぬかをし、味を調整する。

その日々の繰り返しでした。

その当時の料理長がよく私に「ぬかには人の気持ちが出るから、ちゃんと美味しくなるように気持ちを込めて混ぜてやりなさい」と言い、ぬか床のチェックをしていたのをよく覚えています。

ただ私は飲食の世界に飛び込んで間もなかったため、レシピを把握し、オーダーをまわし、仕込みを終わらせることをこなすことに只々必死でした。今思えば、ぬか漬けもその“こなす”ことの一つになっていたのかもしれません。

ある夏の日、ぬか床からいつもより水が出て、ぬかの味もいつもと違い酸味が強くなっていました。

あれ?とは思いましたが水分を取り、足しぬかをしたらまた元に戻るだろうと楽観的に私は考えてしまいました。しかしぬかは次の日も同じ状態。さすがにと思い、恐る恐る料理長にぬかの状態を説明。
案の定、なんでこんな味になったんだと怒られ、もうお前はぬかを明日からやらなくていいと“ぬか漬け役”も降ろされたのでした。半泣きになる私を尻目に料理長はもくもくとぬか床を修正し、次の日にはまた完璧な“料理長のぬか床”が完成していたのでした。

後日、料理長は表情一つ変えずに「ぬかは混ぜる人の気持ちだから」とだけ私に伝えました。

その頃はもっとあの仕込みができるようになりたい、とか、次の調理のポジションに行きたいとか、そんな自分のための調理しかできていなかったのだと思います。だから食材や食材を扱う時の気持ちが足りなかったというか、そもそも料理に対する気持ちよりも手先の技を覚えたかったというか。そんな私だったからぬか漬け役を降ろされたんだと今ではちょっと理解できるような気がします。

とにかく、わたしの中での料理の基本は“ぬか漬け”です。

味とか技術の前に気持ち。それが味にまざまざとでるのが“ぬか”。だから今でも私はぬか漬けを漬けています。

と前置きがだいぶ長くなりましたが私の“ぬか床”の調整の仕方を書き記しておきます。

どこかの“ぬか漬け役”さんにも役立てればと。

【ぬか床の調整方法】

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混ぜる。ぬか床は水分があったらキッチンペーパーなどで拭き取り、上の方の湿った部分は取り除く。そしてしっかりと底から持ち上げるように混ぜる。

足しぬかをする。これは毎日のぬかの様子をみて水分が多めなら足しぬかも多めにするなど調整する。

味を整える。我が家ではにぼし、鷹の爪、鰹節、昆布をいれます。

買ってきたぬか床でスタートするのも良し、自分でぬか床から作るも良しですが調整方法次第で自分の味になっていきます。その過程を暮らしの中で楽しんで見てください。

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ちなみに、ぬかをかき混ぜるのは女性の手のほうが適していると言われています。というのも女性の手には乳酸菌が多く、発酵をうまく促せるみたいなのです。

それでは今日も素敵なぬかライフを。

taki

いつも読んでいただきありがとうございます。 みなさんがふらっとこのnoteを見て、 あ、これ作ってみよう。と思ってもらえたら嬉しいなと思い、 いつもレシピを書き記しています。 ちょっと新しくて嬉しいごはんのために これからも料理人takiは作り続けます。