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苦境の先に見出した答えと"STAR"としての彼女たち - TWICE『Feel Special』

TWICEの韓国最新シングル『Feel Special』が公開された。彼女たちにとって4月の『FANCY』以来約5ヶ月ぶりとなる韓国シングルで、作詞作曲の中核はオーディション番組「SIXTEEN」でTWICEを選んだパク・ジニョン氏が担い、『BDZ』以来のタッグを組むこととなった。『TT』や『CHEER UP』、近年の『What is Love?』など、人気曲はキュートなイメージ、日本のメディアからも可愛らしさという面を売り続け、それが愛されてきた(実際その通りであるが)。しかし彼女たちは、もう少女ではなくなった。末っ子のツウィですら20歳を超え、前作『FANCY』や日本シングル『Breakthrough』ではクールさを打ち出し、方向性の転換を測っていたのは明らかだった。しかし、楽曲の雰囲気が大人になったり、ビジュアルを変えたところで、歌番組で「かっこいい〜」だとか「こういうTWICEもいいね!」と一言で片付けられるだけだ(それでもオタクは嬉しいのだが)。しかし、今作『Feel Special』はTWICEの現状を多少なりとも知るリスナーにとってとても一言では言い表せないものだ。本当の意味でのクールさひいてはスター性(彼女たちにとって「スター」はキーワードだ)というのは自分の人生そのものをレペゼンし、作品へと昇華し表現する力であることをTWICEは今回のカムバックで実感させてくれた。

ほんとうにいろいろあった、2019年4-9月のTWICE

 これまでもツウィ謝罪事件だとか色々な災難に巻き込まれてきたTWICEだが、FANCYの活動期以降は様々なことが起こった。まず5月初頭、日本人メンバーのサナがInstagramで平成から令和への変遷について投稿したところ大炎上してしまう。騒動は落ち着いたものの、日韓情勢の悪化もその後進み、一部ネットユーザーによる誹謗中傷の矛先が日本人メンバー、ひいてはメンバー全体に向けられるようになり、JYPEが何度も「法的措置をとる」と発信する事態になっていく。
 そして7月、ミナが精神的な不安を事由に活動を休止した。のちに「不安障害」と発表されるものの当時は病状もわからなかった。この一件ののち、TWICEはライブ、テレビ出演などを8人でこなしていくことになる。
 8月にはリーダーのジヒョに元Wanna Oneのカンダニエルとの熱愛報道が出た。交際は事実であると即日認められ、界隈はビッグカップルの誕生に沸き、多くのONCEが歓迎したものの、やはり誹謗中傷も見られた。(翌日、ネタのようなモモとヒチョルの熱愛報道も出たがデマであった)3大ドームツアーを終え、K-POPアイドルのスターダムに上り詰めた彼女たちはわずか4ヶ月の間で、これだけの試練に向き合わなければならなかったのである。※2020年追記:モモとヒチョルの熱愛はガチだった。

それでも、活動は精力的に

 しかし、「こんなにひどい状況でかわいそう」ということを言いたい文章ではない。この状況下で彼女たちは「初のアメリカ大陸ツアー」を成し遂げている。ワールドツアーである。さらに日本では『HAPPY HAPPY』『Breakthrough』と2週連続でシングルをリリース、当たり前のようにハイタッチ会も開催、そして日々の生配信でさえも多忙なスケジュールの中で行われていた。TWICEは元からカムバックのペースの速さと活動の活発さに定評のあるグループ。この残酷で時に理不尽とも思える、自分たちではどうすることもできないような状況に、彼女たちは築き上げてきた「活動し続ける力」と「仲の良さ」で立ち向かっていった。ONCEの多くは「休んでほしい」と言っていたし休息が必要だと僕も思うので手放しで喜べることではないが、もう活動はしてしまっているので「タフさ」を讃えたい。

新曲"Feel Special"

 多忙の中制作に勤しみ、ついにリリースされた『Feel Special』。楽曲を通して描かれるテーマは「愛する人から与えられる圧倒的な喜びの瞬間」だ。MVでは一人だったメンバーがそれぞれ他メンバーに出会い、優しい表情を浮かべていく(チェヨン→ミナ、サナ→ダヒョン、ツウィ→モモ、ジヒョ→ナヨン、ジョンヨン→メンバー全員、自分自身)。一人ではないこと、支えてくれる誰かがいること、そのことの素晴らしさを歌った、メッセージ性の強い楽曲である。
 TWICEはメンバーの仲が群を抜いていいことで知られるグループだ。よって彼女たちが歌う「誰かにとっての特別な私」というメッセージはそれだけで強い。しかし今作、それだけではない。この期間特に心労が絶えなかったであろうサナ、ジヒョ、ミナに当て振られた歌詞、それはまさしく今の彼女たちにしか歌えないものであった。サナとジヒョは

You make me feel special/世の中がどんなに私を座らせても/傷つく言葉で私を中傷しても/あなたがいるから私がまた笑う(YouTube日本語訳ママ)

ミナは

しきりに隠れたくて/顔を合わせたくなくて/すべてが意味を失ったように/私が意味を失ったように/じっと座りこんでいたとき(YouTube日本語訳ママ)

と、双方まさに今の自分にしか歌えない歌詞を歌う。これが、今までのTWICEと一線を画するポイントだ。TWICEは偶像化されてきた。『What is Love?』で映画のキャラクターになったり、

日本2ndシングル『Candy Pop』ではアニメになったりした。

彼女たちは「偶像=アイドル」であり続けた。そうしてスターダムに上り詰め、日本で韓国ガールズグループ初の3大ドームツアーを成し遂げたのである。しかし今作は、彼女たち自身を打ち出す方向性に変わった。それは、他でもなく彼女たちだからこそ伝えられるメッセージがあったからなのだろう。

見えない誰かの攻撃からあなたを守るのは

 サナとジヒョが歌う「世の中」。SNSは誰もの手に渡り、「ヘイト」でお金が稼げる時代になった。悪意を扇動することで世の中が動く。その矛先はアイドルのような有名人に向けられがちである。有る事無い事色々言われ、しまいには排斥運動とか、そんなもののわかりやすい対象にまでされる。ただ、これは彼女たちだけの問題ではない。学校でのいじめもそうだろう。いじめとまではいかなくても、誰かの悪意に苦しむことというのは必ずある。なぜなら悪意は便利なものだから。
 こんな世の中に立ち向かうために、身を以て苦しんだ、それだけではなく「特別なあなた」のおかげで苦境を乗り越えた彼女たちだからこそ歌えたのが『Feel Special』なのである。TWICEにとってそれは他でもないメンバーだ。どれだけ外野がワーギャー言おうが、彼女たちの隣には絶対に信頼できるそれぞれにとっての8人がいる。それがMVの中で見事に体現され、その一方で視聴者である私たちもまた、意識していなかった近くにいる誰かの存在に気づかされるのだ。

スターは、苦難を一般化し芸術に昇華させる。

 TWICEが『Feel Special』で成し遂げていることは近年の日本における「国民的楽曲」と繋がっていくと思う。話は2018年の紅白歌合戦に遡る。星野源米津玄師と2016年〜2018年を象徴する2人の新たなスターが連続でパフォーマンスした。1つは星野源の『アイデア』。

この楽曲は「恋ダンス」の国民的人気以降、星野源が感じた世間のネガティブな部分を起点に歌われたものだ。ただ自分の思いを吐露するのではなく、2番の世のネガティヴを歌う部分はSTUTSによるビートで表現するなど今までのJ-POPであまり見られなかった表現法を用い芸術に昇華したもので、大いなる評価を持って受け入れられた。
 もう1つは米津玄師の『Lemon』。

 言わずと知れた2018年を象徴する楽曲で、今もYouTubeの再生回数は伸び続けている。この曲は米津の亡くなった祖父を思って歌われた、ある種のレクイエムだという。紅白歌合戦でも祈りを表現したパフォーマンスが披露され大きな話題を呼び、老若男女誰もが米津玄師に関心を示すこととなった。
 いわゆる「国民的支持」を受けるこの2人のアーティスト、そして紅白で歌われたこの2曲の起点は「苦境」である。それを表現したその先で、彼らはスターとして受容され、人々にアーティストとして寄り添うことを許されている。
 では、TWICEは–––– 今作『Feel Special』はまさに苦境を乗り越えた先の彼女たちなりの現時点での「答え」だ。彼女たちしか経験し得なかったことを、アーティストにとって最も説得力のある「楽曲」という形で表現している。我々オタクはついつい、「これは彼女たちの物語」として解釈してしまいがちだが、これは誰もに共通する物語だ。誰もが自分の人生と重ねることができるため、オタクを飛び越え、今まで以上により広く愛される可能性のある楽曲となっているのだ。しかしその「誰も」に届くためにはやはり『TT』、『CHEER UP』などのヒットは欠かせなかった。星野源にとっての『恋』や米津玄師にとってのハチとしてのボカロP活動があったように、アーティストとして大々的メッセージを伝えるためにはスターダムであることが必須なのだ。ひたむきに活動を続けたTWICEにはその条件が備わっていたというわけである。
 そして、このメッセージを伝えられる彼女たち自身が"STAR"であることを、"Are You A STAR?"とオーディション番組『SIXTEEN』時代に彼女たちに問い続けてきたパク・ジニョンプロデューサーは見事に表現し、TWICEの側もそれに答えた。4年越しの道のりに一つの答えが出たように思える。なんと感動的なのだろうか。

  TWICEの歩みが止まる訳ではない。11月には日本オリジナルアルバムのリリースも控えている(休んでくれ)。それでもしばらくは浸れるほど、この曲は特別な楽曲だと思う。アウトロのダンスブレイク、全てを越えていく感じ、しませんか?無敵。

※2020年追記:ミナさんがほぼ復活を果たし、生放送にも登場しました…そしてライブでもパフォーマンスにフル参加、そのことによりついに『Feel Special』は完成を迎えましたので、その公演のライブ映像のリンクを残しておきます。




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