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動き出す世界、回り出す居場所。

■居場所づくりに関与していると、「不登校・ひきこもり」に言及する場面に頻繁に遭遇するのだが、そこで「通説」めいたものとして時おり語られるこんなネタがある。それは、「居場所に新規の子ども・若者たちが入会しに来る時期でいちばん多いのが、5月の連休明けと9月の夏休み明け」というもの。長い休みのなかで「休み癖」「怠け癖」がついてしまって、休暇が終わってもそのままずるずる登校/通勤拒否、というげんなりするくらい「わかりやすい物語」がそこにはある。

■確かに、世の中には「不登校・ひきこもり」を「怠け」的な語彙でしか語れない(というかそういう語彙のみで語りたい)人々がごまんといるわけで、その手の連中に「居場所づくり」なる活動の社会的な意義や意図を踏まえてもらい、不毛な語りの再生産欲求を断念してもらうためには、上述の「わかりやすい語り」が有効に機能する場面もないわけではない。だが、そうした「わかりやすさ」に埋没してしまわぬためにも、「わけのわからない」実態についても語っておかなくてはなるまい。

■わたしが居場所づくりに携わるようになって今年で5年目、つまり「5月の連休明け」をこれまでに5回、「9月の夏休み明け」を4回、その活動のなかで経験してきているわけだが、どういうわけか、この時期に「フリースペースへの来所者が目立って増加した」などと意識されるような場面に遭遇したことは一度もない。それが1年や2年なら、「最近の傾向は例外的だな」なんて解釈も可能だろうが、5年やっていて一度も該当しないとなれば、これは前提そのものを疑ったほうがよい。

■実を言うと、今年度のフリースペース開設においても、事態はまるで同じなのだった。昨年度のメンバーの多くが立て続けに進学/就職していったために、何だか突然閑散としてしまった感のあったフリースペース。時おり入る問い合わせや訪問見学、しかしそこには何ら規則性など見出せず。5月の連休を過ぎても動きが変わるようなことはなく、どこかでうっすらと「斜陽」を意識しつつ過ごした6月と7月。だが、7月中旬に及んで、流れはがらりと変わる。

■まるで示し合わせたかのように、新規メンバーが流入。ゆるやかに淀みつつあった場が、再び動き出す瞬間。しかも、偶然その動きに、進学先/就職先から「里帰り」したメンバーたちが合流。気がつけば、数日前までの膠着はどこへやら、無軌道な運動の連鎖のただなかに、わたしたちはいるのだった。何が契機なのかは不明。スタッフ二人、ただ首を傾げる。わけがわからない。でも、「わけがわからない」からこそ、居場所は、そしてそこに集う人たちはおもしろいのだ。

※『ぷらっとほーむ通信』028号(2005年08月号) 所収

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